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私はあなたの何番目ですか?  作者: ましろ


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69.役立つの戯言(イメルダ)

『女性は常に男性を立て、尽くすべし』


これはエルディアの淑女教育で習うことの一つだ。

家内でも、家長である父親の言葉が絶対であるし、次は家を継ぐ後継者である男性。女性は爵位を継ぐことは出来ず、常に命令される側だ。

そして、女性が就ける職業も少ない。エリート職というものは男性の為の職業で、女性が出来るのはメイドやお針子など、裏方の仕事がほとんどなのだ。


私はエスカランテ公爵家の長女として生まれた。父は宰相という大変重要な役職を担っている。しかし、それに(おご)ることなく、常に国の為を思い働く父を私は尊敬している。

家でも父は私達女性を尊重してくれる。だからこそ、それに甘えることなく、父を支えられるように努力しましょうと母はよく口にしていた。


公爵令嬢である私は、いずれ高位貴族、もしくは他国の王族に嫁ぐ可能性が高かった為、幼い頃から多くのことを求められた。表に出てはいけないだけで、無知は許されない。

自国のみならず、近隣諸国の言語や歴史なども学んだ。夫を助けられるよう、領地運営などの知識も必要。あれもこれもと、ほとんど王妃教育を受けているようなものだった。

でも、出来るとひけらかしてはいけない。

夫が求めた時のみ、そっと手伝う。それこそが美徳だと学んだ。


父は王太子であられるアルフォンソ殿下をとても大切にしていた。

絶対に賢王になられるとお酒を召した時に珍しく仕事の話をした。殿下のこと、殿下のご友人である辺境伯のこと。普段より饒舌な父の話は面白く、噂で聞く姿とはまったく違うもので、いつかこっそりとお顔を見ることができるだろうかと、密かに胸を踊らせた。


それがまさか──


アルフォンソ殿下は王族から抜け、信じられないことに父が国王に、私は英雄と呼ばれる辺境伯の妻となることが決まった。そして、いずれ父のあとを継ぐのは私達になると言われたのだ。


あの日、酔った父から聞いただけ、一度もお会いしたことの無い方との政略結婚。

それでも、国内であること、父が認める人であるということは、とてもありがたいことなのだろう。


初めてお会いした時、とてもドキドキした。

だってとても凛々しく、顔立ちも良く。何よりも眼差しがとても優しかったから。

女性を従わせるのではなく、「これから少しずつ仲良くやっていきましょう」と言って下さった。


無事婚約式が終わり、馬車での辺境への旅は、慣れないこともあり少し大変だったけど、馬車の中でも色々と気に掛けて下さり、ちゃんとエスコートもして下さる。こんなに素敵な方に嫁げることが本当に嬉しかった。


だけど。幸せなのはそこまでだった。


優しさは変らない。でも、それは他の方にも同じだった。リカルド様は皆に優しい。そして……私は彼の中で可哀想な子供でしかなかった。


それでも私は諦めることが出来なかった。

でしゃばってはいけないと習ったけれど、あんなにもお忙しくしていらっしゃるのに。

どうしても我慢が出来ず、勇気を出して声を掛けた。


「何かお手伝い出来ることはありませんか?」


でも、返って来たのは『大丈夫だ、ありがとう』という言葉だけ。やはり自分から望むのははしたない事だったのか。

恥ずかしさと情けなさに落ち込んでいると、まだ幼いラファエル様が散歩に誘って下さった。

天使のように可愛らしく、でも、幼い口調に似合わず、人の気持ちを敏感に察して助けてくれる彼は不思議な子だった。

いつも私の気持ちに寄り添い、助けてくれる天使様。

彼がいたから子供で役立たずな自分を隠して微笑んでいられた。


大丈夫。リカルド様はまだ婚約者でしかない私に辺境の大切な物は見せないように気遣う、慎重な方なのよ。

そう自分を励まし、せめて不快にはさせないよう笑顔でいる努力をした。それにラファエル様がいつも側にいてくださるから自然と笑う事ができた。


1年後、やっと16歳になった。私は今日からリカルド様の妻となる。

でも15歳から何か変わったかしら。

ただお屋敷で散歩をし、ラファエル様と遊び、美味しい食事をいただいてきただけなのに。

あまりにも怠惰な生活に罪悪感すら生まれてしまった。でもそれも今日まで。変わるの。変われるの。


そう言い聞かせたけれど……


私はただの役立たずのままだった。


どうしたらいいのですか。自分からひけらかしてはいけない。表立ってはいけない。でも夫が求めてくれないガラクタはどうしたらいいの?


ずっと我慢してきた涙が溢れて止まらない。

もういっそのこと、お父様に相談する?でもお父様は今とても大変なのに。

お父様は国王になられてからずいぶん痩せられた。それだけ苦労しているのだろう。

……だめよ、そんなお父様を支えなくてはいけないのに泣きつくなんて出来ない。

リカルド様だって私に構っている暇などないくらいお忙しいの。不満に思う私がおかしいのだ。


一生懸命、納得出来る理由を探す。

そんな時、小さなノック音がした。

天使様が私を救いに来てくれたのだ。

あんなに涙が止まらなかったのに、ラファエル様の優しさが私を少しだけ癒やしてくれる。

私はひとりじゃない。そう思えた。


それからもあまり生活は変わらなかった。

少しだけお仕事を貰う。まるでわがままを言って無理にお手伝いさせてもらう子供のよう。

恥ずかしいと思う。それでも何も無いよりはいい。


上辺だけ和やかな会話をする私達。

これは夫婦として成立しているのかしら。


そして、彼の想い人を知った。


ルシア・オルティス様。医療魔法士であり、アルフォンソ様の伴侶でもある女性。

気高く、何者にも屈しない女神のような人。


ラファエル様も出会った当初は大好きな方なのだと教えてくださったわ。でもいつの間にかまったく話さなくなっていた。他の使用人からはとても仲がよかったと聞いているのに。

ラファエル様はいつも私に気遣ってくれる。

それならば、リカルド様がルシア様を恋い慕っているのは真実なのでしょう。


私もルシア様のように振る舞えたら良かったのかしら。でもきっと、ただの付け焼き刃では何の意味もない。


だんだんと跡継ぎの話が聞こえてくる。でも出来るはずがない。誓いの口付けだけでは子供は出来ないのだから。


そんな2年はとても長かった。周りは相変わらず大変そうなのに、私だけ時が止まっていたみたいだわ。


それでもようやく18歳になった。


「嬉しい?」


ラファエル様に聞かれた。

そして、ふと気が付く。彼はずいぶんと成長した。私を守ってくれる天使様は少年になっていた。


──だめ。きづいてはだめ。


貴方が子供でいてくれてよかったと、酷いことを言った。



閨が始まっても、子が出来ても、旦那様とは分かり合えないままだ。


どうしてなのかしら。


たぶん、私にとって旦那様は初恋だった。

本当に子供がするような、おままごとのような拙い恋。

それがいけなかったのかもしれない。


今は望まれている子供のことだけ考えなきゃ。

悪阻がつらい。いつまで続くの。それでも微笑んでいる自分が気持ち悪い。

本当に……いつまで続くの。この苦しみは。


最近は赤ちゃんがいるから、という言葉すら辛くなる。

ごめんなさい、たったそれすらも上手く出来なくて。でも辛いの。水すらも気持ちが悪い。肌に触れる服すら煩わしい。

こんな役立たずが子を孕んではいけなかったのかもしれない。どんどん思考が落ちていく。


この子を……んでしまいそう


「ちょっとの間リィを離してあげるね」


どうして。貴方ではいけないのに。

貴方に救われては駄目なのに!


それでも、ありがとうと感謝の言葉がまろび出てしまう。


違う、駄目よ。ラファエル様は違う。

まだ庇護すべき子。縋っていい人ではないの!


そんな愚かな私に罰が下った。


ラファエル様は遠くに行ってしまった。






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