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私はあなたの何番目ですか?  作者: ましろ


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68.在りし日の思い出(リカルド)

───兄が死んだ。


穏やかでありながら、あの悪辣な国王に隙を見せることなく辺境を守り抜く姿はとても頼もしく、私はそんな兄を守れる人間になりたくて騎士を目指した。


それなのに、兄は病で呆気なく逝ってしまった。流行り病だと診断された。

だが、兄夫婦を含め、亡くなった人数は少なかった。だが、立場のある人達ばかりが亡くなるという不可解さ。


しかし、兄達の死を悲しんでいる暇すらなかった。

騎士になるべく頑張ってきた私が突然辺境伯の中継ぎとなったからだ。

兄を支えてくれていた忠臣が助けてくれなければ、辺境は国王に潰されていたかもしれない。

慣れない仕事に隣国グラセスの不穏な動き。



そして──



「声が出ない?」


兄の忘れ形見であるラファエルが失声症になってしまった。あんなに明るく笑う子だったのに、今はぼんやりと座っているだけだ。


「精神的なものだと思われます。気持ちが落ち着くのをゆっくりと待ちましょう。焦らず、穏やかに接してあげて下さい」


毎日見舞いに行く。少しでも笑ってほしくて必死に笑顔で話しかける。

だが本当はそんな心の余裕なんてなかった。


辺境伯という重圧に押し潰れそうな毎日を送っていたある日、アルフォンソが来てくれた。


「しばらく匿ってよ」そう言いながら、本当は私の為に来てくれたとすぐに分かった。

仕事のことやラファの話を聞いてくれる。愚痴も自分の不甲斐なさもすべてぶち撒けてしまった。


「リカルドはもっと周りを上手く使わないと。すべて自分でやるなんて無理だよ」

「だが兄は……」

「兄弟だって違う人間だ。それに彼は辺境伯を継ぐために幼い頃から勉強してきた人だろう?すぐに同じことをお前にやられたら拗ねるぞ」


そうか。同じじゃなくてもいいのか。

それからアルフォンソは辺境の仕事の効率化などのアドバイスをしてくれた。


「内緒な?」


と、優しく笑う。


私は彼が大好きだった。呪われてるなんてまったくの嘘だ。

優秀で勤勉な王子。自分だって大変なのに、私を心配して辺境まで駆けつけてくれる優しい男だ。


彼が王になれば。


そう願ってしまう。アルフォンソなら立派な王になるだろう。道程がどれだけ厳しくても、私はお前が王になることを望むよ。



それからはラファの前でも自然と笑顔でいられるようになり、ラファも少しずつ反応を見せるようになった。


アルフォンソが王宮に戻る前日、ラファに話しかけているのを聞いてしまった。


「ラファ、私は明日帰らなくちゃいけないんだ。君が元気になるまで側にいられなくてごめんね?

ラファにね、お願いがあるんだ。リカルドを助けてあげてくれないかな。あいつの側にいてあげてくれる?大切なラファが側にいるだけできっと頑張れるから。頑張れたら頭でも撫でてあげて。きっとすごく喜ぶよ」


なんだそれは。私は子供か?


ああ違うか。ラファに役目をくれたのか。

ひとりぼっちで心の中に閉じこもってしまわないように。お前は必要だよと教えているのだ。

こういうところが本当に凄いと思う。


ぼんやりと聞いていたラファがゆっくり立ち上がるとアルフォンソの頭を撫でた。


「……ラファは優しいね。ありがとう」


あんまりにも優しい光景に涙が出そうになる。

絶対に彼らを守ろう。そう誓った。



それなのに──



「イメルダ、今まですまなかった」


帰ってすぐに謝罪した。あまりにも突然過ぎてイメルダが小首を傾げている。だがその顔は、今まで通り淡い微笑みを浮かべたままだ。


「リカルド様、どうされたのですか?それにラファエル様はどちらにいらっしゃるでしょう」


本当だ。自分の迂闊さに腹が立つ。イメルダはこんなにもラファエルを頼りにしていたのか。


「君に頼みがあるんだ」

「はい。何なりとお申し付け下さいませ」


まるで主と使用人のような会話だ。私がそうさせていたのか。


「貴方が思っている事を正直に言葉にしてくれないか」


たぶん驚いている。だが、表情には出さない。


「申し訳ございません。旦那様の望まれることが私には分かりかねますわ」


そうしておっとりと微笑む。


これが演技なのか。令嬢の笑みを見分けろと言われても俺には無理だぞ。


「俺はな、脳筋で鈍感らしい。女心が分からん朴念仁だとも言われた」


これはかつての婚約者に言われた言葉だ。


「だからイメルダの気持ちを推し量るなど出来んのだ。こんな男ですまない。それでも私は貴女のことを大切だと思っている。だから頼む。貴方の思っている事を隠すことなく教えてほしい」

「……私を疎ましくお思いなのでは無いのですか?嫁いてきたのが貧相な子供でガッカリなさったのでしょう」


思ったよりも悪く捉えていた!


「そんなはずないだろう」

「だろうと言われましても。だってずっと放置されてきましたし。最初の1年はラファエル様のお話し相手が私に許されたことでした。辺境に慣れるためのお優しさだと、納得するように致しました。

ですが、私が成人してもなお、大人になるまでと初夜を拒否されました。更に事務仕事すら与えて下さったのはほんの少しだけです。余程私のことがご不満なのだと惨めに思いました。

ようやく18になりました。さすがにそろそろ子を作らねばなりません。周りの心配の声も増えましたから。

ですが、貴方は週に一度、日に一度しか致してくださらない。子供を作るために嫌々お抱きになっているのだと思っておりました」


イメルダは淡々と語る。思っていた儚さは無い。


「違うんだ。私は貴方があまりに華奢だから、触れるのに躊躇するというか。こう、壊しそうで」

「大変失礼ですが、男性程度で壊れるのならば赤児など産めません。そもそも壊しそうで怖いのに種を仕込まれる意味が理解出来ないのは、やはり私が不出来だからなのでしょうか」


んん゛!これは……もしかして凄く怒っている……のだろうか。


「それに華奢でも事務仕事は出来ます。ですがそれすらも旦那様はさせて下さらないではありませんか。

私に仕事をさせるなど信用ならなくてお嫌なのでしょう。所詮愚かな子供で更には脆弱な女ですもの。仕方がありませんわ」


すべてやんわりとした笑顔で伝えられる。

これは謝罪でどうにかなる拗らせなのか?

もしや手遅れ……


「それで。私の最初の質問に対する答えはいついただけるのでしょうか」

「質問?」


更に笑みが深まった。極上の微笑みで告げてくる。


「ラファエル様はどちらにいらっしゃるのでしょうか」


……そうだった。まだ伝えていなかった。


「ラファは戻らない。しばらくアルフォンソのもとで暮らすことになった」

「……なぜ……私の……せいですか?」


イメルダの表情が初めて崩れた。

いつも浮かべていた微笑みは消え、瞳が不安げに揺れていた。






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― 新着の感想 ―
ああ、これはマズイ状態…はたして土下座程度で許されるのだろうか…頑張れリカルド。 ところで、ストレス等で声が出なくなるのは「失語症」ではなく「失声症」ではないでしょうか。
 ビンタでは生ぬるい。拳で。いや、いっそガントレットを装着してからグーで。
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