59.それはお伽噺の
別れの朝。ラファは目に涙を浮かべながらも笑顔で見送ってくれた。
たった1日ですごく成長したように感じて、嬉しい様な悲しい様な。でも、ラファもこれからは辺境伯を継ぐためにたくさんの勉強が始まる。次に会うときはきっと、今日よりももっと素敵な男の子に成長していることだろう。
最初に辺境で暮らそうと考えたのは、ただセシリオとの思い出がたくさんある故郷から逃げたかっただけだったのかもしれない。
学生時代から合わせるともう5年以上の付き合いで、周囲にも結婚秒読みだと思われていて、そんなウルタードに一人きりで戻るのが本当は嫌だった。
みっともないと笑うなら笑え。
未来が潰える苦痛はその人にしか分からないと思うから。
でも、ラファの屈託のない笑顔と素直で優しい心に本当に癒やされた。
逃げるのではなく、本当の家族になりたいと本気で願うくらい大好きな私の天使様。
また会おうね、それは絶対の約束。
国境まで見送ってくれたカハールは逆にボロ泣きだった。
アルフォンソ様の応援団は人数は多くないかもしれないが、何というか濃い。
彼への愛が強過ぎて微笑ましい様な泣き顔に引く様な……
「やっと二人になれた……」
「そうですね、ずっと大所帯の移動だったものね。寂しくないですか?」
「『いつか』を楽しみにしてるから大丈夫だよ」
いつか。皆が何度も繰り返していた。いつか必ず会いに行くという言葉。
うん。あの感じだと早い人だと3ヶ月以内には訪ねてきそう。なんなら一緒にウルタードに来そうな勢いだったし。
「ただ、少し寂しいことがあるかな」
「?何ですか?」
「ルシアは何時まで様付けと敬語で話すの?」
「あ」
しまった。だって出会った時から王子様だったのだもの。でも王子相手にしてはかなり気安く話し掛けてたけど。
「そこまで畏まってなかったわよ?」
「ねぇ、アルって呼んで。ラファの呼び方が嬉しかったんだ」
「……あなたはるーちゃんと呼ぶの?」
「ご希望とあらば」
この人たぶん恥ずかしげも無く呼べるタイプだ。リカルド様ならここで赤面するだろうに。
「……アル?」
「うん、ありがとう。私はどうする?るーちゃん?」
「やめて。絶対に兄様に笑われる」
それからの道程は穏やかで平和だった。二人でたくさん話をした。楽しかった。それに意外な事実がたくさんあった。
「明日には我が家に着くわよ」
「……本当に大丈夫だろうか。お父上に殴られるかも。殴られても諦めないけど」
「どうして?私の好きになった人よ?いきなり殴ったりしないわよ」
「私はね、国外追放されて、住所不定無職、更には平民落ちした男だ。平民を馬鹿にする気は無いし、君のご家族は平民になった事をとやかく言わないだろうけど、落ちた人間を嫌悪する人は多い。大切な娘が馬鹿にされるかもしれない相手は喜べないだろう?」
おう、言葉にして並べると結構な攻撃力だ。
「それでも大丈夫よ。うちは皆世間体とか気にしないわ。大切なのはその人自身であって、周りの評価じゃない。
それに我が家はほとんど社交なんてしないわよ?年に数回ある国の行事しか参加しないもの」
「……ありがとう。ごめん、少し不安になった」
そう言ってぽすりと私の肩に凭れてくる。
「でも心配しないで。借金とかは無いから」
「そうね。お酒だって嗜む程度だし煙草も吸わないし、ギャンブルだってしないでしょう?」
女性に嫌われる男性像をあげてみる。
「…………」
なぜ無言?
「アル?」
「ごめんなさい。ギャンブルはやってました」
まさかの真実!
「えっ?!」
「違うんだ!賭け事が好きとかじゃなくて!」
慌てて教えてくれた内容は驚くべきことだった。
事の発端はゴミ屑がアルに割り当てた活動費の少なさ。アルを敵対視していたゴミ屑は金銭面でも抑えつけていたのだ。
でも、アルとしても今後の為にもお金が必要。そこで手を出したのがまさかのギャンブルだった。
「理由は分かったけど、失敗したらどうするつもりだったのよ」
私はギャンブラーが嫌いなんですけど!
「……しないから」
「え?」
「絶対に失敗しない。分かるから」
「まさか……」
王の能力やばい!まさかの金銭面の危機も教えてくれちゃうの?!
「……気持ち悪い?」
「馬鹿ね。負かした相手に言われたの?ただの八つ当たりの言葉じゃない」
そりゃあ結果が見えてるかの様にお金を巻き上げられたら文句の1つも言いたくなるでしょう。
「ちゃんと相手は選んでたし、額だって破産する程ではないよ」
「でもアルが全勝なのは分かってるでしょう?なぜ勝負を挑むのかしら」
「うん?全勝なんて馬鹿なことはしないよ。たまに連続で負けて、今までの取り分を取り戻せるかもって気持ちにさせて多めにお金を賭けさせるんだ。もしくは鉱山とか?」
「……鉱山……」
「うん。もう必要が無くなったから賭け事は絶対にしない。……許してくれる?」
これは……何と言えば正解?
ギャンブルがどうとか、そんな簡単な話じゃない。彼はもっと大切なことを聞いてる。
「自分の為じゃなくて、いずれゴミ屑と戦う為の資金集めだったのよね?国王派の悪どい連中から巻き上げてただけみたいだから、もうやらないならいいよ」
「資金集めと国王派の力を少しでも削ぐ為かな。笑えるよね、ああいう奴らは総じて賭け事が好きなんだ」
わあ、久しぶりに見る腹黒王子だ。
でも問題はそこじゃない。
「貴方の能力がゴミ屑に与えられてなくて本当に良かったわ……」
自分の危機が分かることが何故そんなに必要なのかと思っていたけど、これは確かに権力者が絶対に欲しがる能力だ。下手をしたら戦争なんかでも……
「これからは私との平和な生活の為だけにその能力を使ってね」
「……使うなとは言わないのか?」
「ん?だって。それを言ったら私の魔法だって人を殺せるわよ?」
結局どんなものでも使う人次第で変わってしまう。力が悪いのでは無い。悪用してしまう人が悪いだけ。
「アルが変なことに使うとは思わないわ。だから必要な時にはちゃんと使って?」
「……うん。ルシア大好き」
「私もよ。大切なことを教えてくれてありがとう。嬉しかった」
このことを教えるのは怖かっただろうに。
強過ぎる力は脅威となる。彼が呪われているという噂はゴミ屑の悪意だけで無く、本当にこの能力を恐れてもいたのだろう。
「エルディアの人達は貴方の能力を本当には分かっていなかったのね」
「だってお伽噺レベルになっていたモノだから。王族しか知らないと思うよ。それにあの人が資料を燃やしたから、もう誰も知らない。そのうちオルティス家の手記に追加しておいて」
お伽噺レベルの能力者が未来の旦那様か。
怖いなぁ。貴方の総資産額が!
何年がかりで貯めてたの。鉱山って何よ。鉱山とかって言ったよね。他に何を巻き上げたの?
……聞く勇気が無い。
愛はあるの。ただまさかのチート能力の全容は知りたくないし、手に余る資産はどうしたら!
だってゴミ屑との戦いはある意味一瞬だった。お金を使う暇はあまり無かったのだ。
……止めよう。考えちゃだめ。
「いずれこの能力はオルティス家のものになるかもね」
特大の爆弾を落とされました。




