57.とある魔物の物語
「るーちゃん、ある、おかえりなさいっ!」
ラファが満面の笑顔で出迎えてくれた。
長い間、リカルド様も私達もいなくて不安だっただろうに。
「ただいま、ラファッ!!」
ラファの笑顔を見て、本当に終わったのだと実感できた。あの長い悪夢はようやく終わりを迎えた。
「あれ?りぃは?」
うん。気付くよね?
「ごめんね、リカルド様はまだ帰れないの」
「えー!どうして?!」
何から話せばいいかな。嘘は吐きたくない。でもラファに語るには残酷な内容が多い。
「ラファ。とても大切な話があるんだ。聞いてくれる?」
アルフォンソ様がラファの手を取りながら伝える。どうやって説明するのかしら。
まだ5歳のラファには難しいことだらけだ。
「わかった!」
今からどんな話が聞かされるかも知らずに、ラファは笑顔で受け入れる。
「ルシア、大丈夫。ラファは強いよ」
そう耳元で囁かれる。うん。信じるわ。ラファとあなたを。知らないままではいられないものね。
私達3人だけにしてもらって、小さなテーブルを囲む。何度もお茶をした空間。懐かしい気持ちがよぎる。
「ラファ。今から大切な物語を話すね。分からないことがあったら質問して?」
アルフォンソ様の説明を真剣に聞いて、うんうんっ、と首を振っている。
それを見てアルフォンソ様が優しく微笑んでから、1つの物語を語った。
「ある国のお話です。その国の王様の正体はなんと魔物でした」
「えっ!」
まだほんのさわりなのに驚いているラファが可愛らしい。アルフォンソ様は物語として教えるつもりなのね。
「魔物の王様は、姿は人間でしたが愛が分からない化け物でした。
そんなある日、魔法が得意な国から魔法が苦手なお姫様がお嫁に来ました」
「にがてなの?」
「そう。だから産まれた国ではあんまり大事にしてもらえなかったんだ」
オフェリア様の事だ。アルフォンソ様はどこまで知っているのだろう?
「おひめさま、かわいそう」
「そうだね。でもお姫様は結婚した魔物が優しくしてくれるからとても嬉しかったのです」
「よかったね!」
「だけど、魔物はよく分かりませんでした。お姫様はとても綺麗で魔物にも素敵な笑顔を見せてくれます。お姫様が使えない魔法もたくさん教えてくれます。でも、それが何故なのか分からなかったのです」
そう……なのだろうか。これは事実?それとも希望のお話なのかな。
「どうして?だいすきだからよね?」
「うん。そうだね」
5歳の子供が理解できること。大好きだから、自分のことをもっと好きになってほしくて、喜んでほしくて魔法を教えたのだろう。でも……
「魔物はね、勘違いしたんだ。お姫様は王様が強くなることを望んでいるのだと。だから魔法を教えてくれるんだってね」
そうなのかな。そこからすれ違いが始まったの?
「魔物が強くなることをお姫様が望んでいると思った魔物はたくさんの力を集めました。お姫様は違うと言っても魔物には分かりません。だって魔物だから」
「おひめさま、えんえんしちゃうよ?」
「うん。でも魔物は分からない。強くなることが必要なのにお姫様は泣いてしまう。でもお姫様が泣くと、魔物も悲しくなる。だから、愚かな魔物はお姫様が喋れなくしてしまいました」
本当にそんな理由から言葉を封じ、閉じ込めていたのなら、それはなんて悲しいことなのだろう。
私の視線に気付いたアルフォンソ様が少し切なそうに微笑む。ああ、きっと真実なのだ。
「どして?おはなしできない、さびしいよ?」
「ね。でもそれが分からないんだ」
「まものだから?」
「うん」
「……まものさんもおひめさまもかわいそ」
「ある日、二人の間に男の子が産まれました。王子が産まれたことをお姫様は大変喜びましたが、魔物は面白くありません。なぜなら、大切なお姫様をとられると思ったからです」
「ん?わかんない。おとうさまよ?」
「だって魔物だから」
「……まものさん、おばかさんだ」
5歳児の感想は容赦ない。可哀想な魔物は馬鹿な魔物になってしまった。
「魔物はお姫様を塔に閉じ込めて王子と会えないようにしました。それでも不安な魔物は王子を殺そうとしたのです」
「えっ!だめ!」
「ですが、王子には特別な力がありました。だからどんな攻撃も避けてしまいます」
「すっごいね!」
「魔物は苛立ちました。殺せないならと、国中に悪い噂を流しました。『王子は呪われている』と国中に広めたのです。そして、王子は皆から嫌われてしまいました」
「まものさん、うそつきはめっ!よ」
「それから。魔物とお姫様と王子は、仲直りもできずに何年も経ってしまいました」
「おひめさま、とじこめられたまま?おうじさま、きらいのまま?ひっどいね!ひっっっどいよ?!」
ラファの怒り方がガランさんと同じで面白い。
でも本当に酷い話よね。
「大人になった王子は大切な仲間ができました。格好良くて優しい友達と、いつも助けてくれる兄のような人。そして、新しく魔法使いの女の子が仲間になりました」
「なかま!おんなのこ、どんなこ?」
「女の子は綺麗で優しくて、心の傷も体の傷も全部治してくれました」
「すごいね!るーちゃんみたい!」
何かしら。こんな風に物語の登場人物として褒められると凄く恥ずかしい……
「ある日、王子は魔物を倒すことを決めました。何故なら、王子の大切なものを壊そうとするからです。魔物は友達の両親も、大切な町も、全部壊そうとしました」
「まものさん、わるいこだ!」
「でも、魔物は強いんだ。お姫様の魔法で守られているから。お姫様はその魔法を解くために自分の命を使いました」
「いのち……どうなるの?」
「お姫様は死んでしまいました」
「うそ、だめよ。しんじゃったらやだよ」
物語として聞いていても死はラファを悲しませる。
「お姫様はね、魔物が大好きなんだ。だからひとりぼっちにはさせられなくて、一緒に行ってあげたかったんだよ」
「いっしょ?死んじゃうのに?」
「そうだね。でも、死の国や天の国があるというよ。やっとそこで仲直り出来てるんじゃないかな?」
「でも……おうじさま、なかなおりしてない」
「そうだね。できなかったね」
「……やっぱり、まものさんばかだ」
「うん。馬鹿だ」
馬鹿な魔物。いっそ本当に魔物ならよかった。
それならば分かり合えない理由になったわ。
「お姫様のおかげで力が弱くなった魔物を倒した王子と仲間達は、それぞれ新しい道を進むことになりました。
兄のような人が新しい王様に。友達は魔物を倒した英雄として新しい王様の新しいお姫様と結婚することになりました」
「すごいね。おうじさまは?」
「王子様は国を出ることにしました」
「なんで?」
「国中に呪われた王子だと信じられたままだから。悪いことをたくさんした魔物の子供だから」
「どして?わるいのまものさん!」
「ラファ。人ってね、一度そういう人だって思われると、なかなか変えることができない。特に悪い印象は変えるのが難しいんだよ」
「え〜?」
やっぱりラファには難しいらしく首を傾げている。
「そうだな。ラファのクッキーをガランが勝手に食べました」
「え!だめよ?」
「うん。ガランもごめんなさいって謝りました。でも次の日、またラファのクッキーが無くなりました。近くにガランがいました。ラファはどう思う?」
「また、ガランたべちゃった?」
「ね?ガランが食べた所は見ていないのに、『また』って思っただろう?」
「……ほんとだ」
人の思い込みは怖い。噂話で簡単に人を陥れることができる。
でも、ラファは賢いわ。かなり噛み砕いて説明しているけど、ちゃんと理解している。子供だってちゃんと分かるんだ。
でも、これから話す別れも納得出来るだろうか。




