53.最愛の人
「ありがとう、ルシア」
綺麗な笑み。でも違う。
私が欲しいのはソレじゃない。
「でも駄目だよ」
やっぱり。分かってたけど。
「どうして?」
「どうしても」
弱そうに見えて、意外と頑固よね。
「でも、もうベルナルド様に言ってしまったわ。あなたをお婿さんに下さいって」
「……ん?」
「アルフォンソ様をルシア・オルティスに下さいってお願いしたの。そうしたら、弟をよろしくって言ってくださったわ。
それから弟の嫁候補だから名前で呼ぶことをお許しくださったの。
あと、エルディア的にも了承を貰ったわ」
「……ちょっと待って。分からないワードが多い」
「そう?」
冷静に混乱してるわ。ここで怒鳴らないところがエライなぁ。
「まず、弟って何かな」
「アルフォンソ様はベルナルド様のことを身内レベルで慕ってらっしゃるでしょう?だから、お父さんだって言ったら兄だと訂正されたわ」
「あに……本当に?」
「ベルナルド様は嘘や冗談は言わないかと」
「そうだね」
もう少し照れるかと思ったけれど、まだ駄目みたい。
「あ!兄様にも私くらい強引な女性がお似合いだと言われたわ。あと、お父様にも手紙を送ったの。お返事はまだ無いけれど、頭ごなしに反対するような人じゃないから安心して?」
「……行動力が凄いな……」
「でしょう?」
しばらく考え込んだアルフォンソ様は、徐にベッドから起き出した。
「まだ横になっていた方が」
「こんな大切な話を寝たままなんかできないよ」
そう言って優しく笑われた。
「……君は本当に素敵な女性だと思ってる」
「ありがとう」
「だからリカルドの様な男が相応しいと思ったのにな」
まだ言ってる。どれだけリカルド様が好きなのかしら。
「残念ながら、ベルナルド様は10年後にはリカルド様に王位を譲るおつもりですよ」
「リカルドに?」
「はい。でも10年はちょっとラファが可哀想ですよね。ベルナルド様にはもう少し頑張っていただかないと」
あの可愛いラファが辺境伯。どんな大人になるのだろう。
「……そうか。だが、リカルドには悪いが……嬉しいな。あいつなら良い王になるだろう」
「そうですね」
10年後、私達はどうなっている?
「本当に凄いな、ルシアは。逃げ道が無くなってしまった。
だけどどうして?君は人の気持ちを勝手に決める様な人ではないだろう?」
そこを気にしていたの?私のことをよく分かってるわね。嬉しくなってしまう。
「だって知っているから。
アルフォンソ様は私を誰よりも愛しているでしょう?」
……時が止まるってこんな感じかしら。
自分で言うなんて、すごく恥ずかしい。
勘違い女の戯言のようだ。
「『本来、王の能力は本人の危機しか知らせない。稀に王の伴侶の危機を知る者もいるが、それは余程の愛だろう。……貴方、愛されているわね。警告を無視してでも守ろうとするなんて』
オフェリア様が教えて下さいました。
あの時、本来ならありえない伴侶ですらない私の危機を感じ取って、『逃げろ』という自身への警告すら無視して身を挺して私を守ってしまうなんて……愛じゃなければ何だと言うの?」
──あ。時が動く。
じわじわと赤くなる顔が可愛い。
「君が、幸せな姿を……遠くから見ているだけで満足だったのにっ」
「うん、見てて?ずっと側にいるから」
「……手に入れるのが怖い……また、すぐに失いそうで」
オフェリア様の最後は、アルフォンソ様を深く傷付けた。愛してると抱き締めたくせに、最後は手を離し、王を選んだから。
「オルティス家は皆一途よ?何代もずっと生体魔法に魅了されて浮気心なんて無いもの。
一度愛したら、その人だけ。貴方が浮気しない限りね?
愛してるわ、アルフォンソ様。私を信じて」
……綺麗な涙。貴方の泣き顔が好きだと言ったら怒るかしら。
「ルシアを信じてるに決まってる。
愛しています、ルシア。私と共に生きてくれますか?」
やっと言ってくれた。やっと望んでくれたっ!
「もちろんよっ!」
喜びのまま抱きつく。淑女の振る舞い?そんなものは知らないわ。
「好き……本当に好きだから。
貴方も裏切らないでね?他の女に触れたら許さないから」
本当は私だって怖い。ベッドの上でクラウディア様を抱き締めて眠るセシリオの姿は、一生私の記憶から消えることは無い。
「私が?ありえないな。
ルシアは私が愛することができた唯一だ。
それ以外に惹かれる訳が無い。
それに、大切な人に裏切られる辛さを私は知っているよ。そんな苦しみを君にさせるわけが無いだろう?」
そうね。そんな貴方だから私も信じられる。
クラウディア様が一番がどうとか言った時は、順位付けなんて馬鹿じゃないかと思ったけれど、唯一だと言われるのは嬉しいものね。
「嬉しい。貴方も私が愛する唯一よ」
セシリオのことが好きだった。リカルド様に惹かれた。
でも……違う。
アルフォンソ様は──
ううん、私が変わったんだ。たくさんの出来事があって、傷付いて乗り越えてここまで来た。
だから想い合うことが出来たんだ。
「アルフォンソ様。守ってくれてありがとう」
「うん。守れてよかった」
やっぱり泣き顔よりも、嬉しそうな笑顔の方が好きだわ。
見つめ合いながら、どちらからともなく口付ける。優しく、思いを伝えるように。
こうして私達は、最愛を手に入れた。




