51.外堀を埋める
診察の結果、過労とストレスから来る熱だった。
「本当に困った人ね。馬鹿なんだから」
銃弾を受け、オフェリア様を亡くし、ゴミ父を討ち。
心も体も傷付いたのに、後処理や引き継ぎにと働き詰めだなんて倒れて当然だろう。
魔法は万能ではない。疲労には十分な睡眠と栄養、それと心が落ち着ける環境が必要なのだ。
「……ルシア?……」
「もう目が覚めてしまったのですか?」
もっと休んで欲しいのに。もう少し深く眠れるように調整しようかしら。
「……本当に…側にいてくれた……」
そう言って、嬉しそうにふにゃっと笑うと、またウトウトと眠ってしまった。
………その笑顔はズルいっ!!
私ってばチョロい女かも……。
だって!あんな、側にいるだけで幸せそうに微笑まれたら絆されちゃうでしょう!?
もっと幸せにしてあげたいって思うわよね!?
──認めるわ。私はこの男が好きなのだ。
優しくて、寂しい人。王子としての特権を奪われ、呪われた王子と蔑まれているのに、それでも王子として必死に国を護ろうとする強い心を持った人。
これから王になるエスカランテ様には申し訳ないけど、私はこの国が大嫌いよ。
最後まで彼という人を見ず、噂だけを信じて、彼の功績も地位も全て奪って使い捨てしようとする彼らが腹立たしかった。
でも。そのおかげで、私は彼の側にいることが許される。そう思うと、そこだけは感謝してしまう。
「ごめんね、アルフォンソ様。貴方が王子様でいられないことを喜んでしまったわ」
でも側にいるから。絶対にあなたを幸せにするわ。
問題は、アルフォンソ様が私を受け入れてくれそうもないことだけど。だって彼は自分のことが嫌いだから。
相手を慮って恋愛なんて一生しなさそうだわ。
でも……この人、私の事が好きよね?
だってそうとしか思えない。今までの言動全てが私への思いを伝えてくれる。
それなら遠慮する必要はない。一度で駄目なら何度でもアプローチしてみせる。
だって貴方は自分からは手を伸ばしてくれないでしょう?
眠るアルフォンソ様を眺める。
恋心に気付いた途端、愛しさが増す。
この眠りを守りたい。
「おやすみなさい。良い夢を」
あれからは安心したせいか、アルフォンソ様はまだぐっすりと眠っている。
部屋から出てやるべき事を考える。
「おはよう、兄様」
「はよ。どうした?何か良い事でもあったか?」
さすが兄様。私のことがよく分かっている。
「アルフォンソ様をオルティス家に連れ帰ってもいいですか?」
「唐突だな。それはアルフォンソの意向か?」
「いいえ?まだこれから口説くの」
だって彼は今は夢の中だし。昨日の事も何処まで覚えているか分からない。
「なるほど?まぁ、不憫属性のアルフォンソはお前みたいな女が強引にでも日向に引っ張って行った方がいいかもな」
よし!兄様が味方になってくれた!
「じゃあ、お父様に手紙を出すわ」
「そうしろ。かなり心配しているからな」
そうよね。セシリオとの結婚は何度も延期した上に解消。その後は他国の辺境に永住するかも、と手紙を出したきりだ。
更に元王太子を連れて帰ったら心配するわよね。やる事がたくさんだわ。
「よし、あとはエスカランテ様に謁見を申し込んで来るわ」
「何で?」
「とりあえず外堀を埋めようと思って」
「頑張れ。俺はアルフォンソの様子を見てくるよ。指の状態が気になる」
「わかった、お願いね」
問題はエルディア国がすんなりとアルフォンソ様を放逐するかどうかよね。できれば何の縛りもなく解放して欲しいのだけど……
「眉間のシワが凄いぞ」
「あれ、カハールだ。もう謁見の申請が通ったの?」
「エスカランテ様に頼まれた件の報告だろう?ずっと待っていらっしゃったぞ」
忘れてた!説明し辛くで逃げてしまったんだった!
「ごめんなさい。あの後、アルフォンソ様が高熱で倒れられたので、報告に行くのが遅れてしまったわ」
「ああ、聞いている。そちらも心配していらしたから、合わせて報告を頼む」
「分かったわ。それじゃあ案内をお願いね、カハール」
「……お前は本当に私を従者か何かだと思っているな?」
カハールとのこのやり取りもすっかりお約束になったわよね。
「カハール、これでも一応は感謝してるわよ?」
「ああ、そうですか」
ふふ、まあ、この程度が丁度いいわ。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません」
「いえ、殿下の様子はいかがですか?」
一番にアルフォンソ様の心配をしてくれて嬉しい。エスカランテ様は本当に味方だと実感する。
「過労とストレスから来る熱ですね。熱自体はだいぶ下がりましたが、もう少し休養が必要です。起きて来ても今日は仕事をさせないで下さいね」
「もちろんだ。だが……私は駄目だな。どうするのが正解なのかが分からない」
「正解ですか?」
そういうエスカランテ様も顔色が昨日より悪い。アルフォンソ様のことが心配であまり休めていないのだろうか。
「私達はあの方からすべて奪い取ってしまう。今までの功績も地位も全て。だから少しでも彼が行ってくれていた事を他の者に知らしめたくて……それで無理をさせたら意味がないのに」
「今まではどうなっていたのですか?」
「ほとんど国王と……王妃様がなさったことにされていました」
そうなの。お母様からの愛など求めないと言っていたのに、貴方はずっと尽くしてきたのね。
「アルフォンソ様はそんなことは望んでいないと思いますよ。あの方の望みは、この国が平和で豊かになる事だけですもの」
「そうか……そうだな」
彼の功績を残そうとしてくれるお気持ちは嬉しいけれど。それももう今更だ。
「リカルド様がイメルダ嬢との結婚を承諾して下さいましたわ」
「本当ですか?!」
「はい。尊敬するエスカランテ様のご息女であれば、きっと仲良くやっていけるだろうと仰っていました」
「ありがとう、本当に感謝するよ!君に頼むべきことではなかったのに、この恩をどう返したらよいのか……」
あら、そちらから振ってくれるなんてありがたいわ。
「それではお願いがあります。
アルフォンソ様を私に下さいませ」




