48.依頼
あれから何日経っただろう。
城内はしばらく大騒ぎだった。
私達も幾度か取り調べを受けたけれど、罪には問われなさそうだ。国王軍などの目撃者が多数いたおかげだ。
アルフォンソ様とリカルド様にはあれから一度も会えていない。
でも本当はこれが当たり前の距離なのだ。
リカルド様はまだ上司だから許されるけど、一国の王太子殿下と他国の男爵令嬢なんて、会話するのも恐れ多いくらい身分の差があるのだから。
「……ちょっと寂しいなぁ」
城から出ることを許されていないから暇過ぎる。だからこんな感情が湧いてくるんだ。
1年の研修は当たり前だが無くなってしまったし、王宮での仕事があるわけもなく。
時間だけがある状態なのは、思考がループして辛い。
ここにラファがいたらいいのに。会いたいな、寂しがって泣いてないかな。あの天使な笑顔に癒やされたい。
「ルシア?」
「セシリオ。どうしたの?」
辺境に来てくれた時、死ぬかもしれない作戦に力を貸してくれると言ってくれて、本当に反省しているのが分かったから魔法を解いた。
薄っすらとだけど新しいまつ毛が生えてきたようだ。
「ふふ、髪もだいぶ伸びたわね。ショリショリした感触が面白いわ」
「……喜んでもらえて嬉しいよ」
ラファの癒やしが無いので、仕方なく伸びかけの坊主頭を撫でてみたら案外楽しい。
「あのさ、またこうやって話が出来るようになって嬉しいんだ。許してくれてありがとう。あと、本当にごめん」
ごめん?あ、クラウディア様との浮気のこと?
あれからいろんなことが有り過ぎて、セシリオと付き合っていた頃が凄く遠い過去になってしまった気分。
恨みも悲しみもすっかり風化してしまった。
「もういいよ。あの時は本当に腹が立ったけど、クラウディア様の命令に逆らえなかった辛さも今なら少しだけ、本っっっ当に少ぉ~~しだけ理解してるし。浮気は許さないけどね!」
「そうだな。俺も、もしルシアが同じことしたら絶対に怒ったと思う。欲に目が眩んでそのことに気が付かなかったんだ。馬鹿だったよ」
「本当にね。こんないい女を逃しちゃうなんて残念だったわね?」
「うん……凄く後悔してる。だから……
もう一度、やり直すチャンスは、ある?」
「え、無い」
ごめん、脊髄反射で答えたわ。
「分かってたけど本当に返事が早いな?!」
「あ~だって、ねぇ?」
「だな。ごめん、分かってたけど諦めきれなくて。
ありがとう、キッパリ振ってくれて!
これからは騎士として頑張るよ。恋愛はしばらくはいいかな」
「私も。今回は反省がいっぱいよ。もし、兄様がいなかったらって思うと、今でも震えちゃう」
未熟過ぎて情けない。戦場でももっと冷静に対処出来る自信があったんだけどな。
「……ルシアはさ、どっちが好きなんだ?」
「どっち?」
「俺に遠慮しないで言っていいよ」
「何の話よ。別に遠慮なんかしてないけど」
どうしてはっきり言わないのかしら。セシリオの駄目なところよね。曖昧と優しさは別よ?
「……無自覚?……そっか。へぇ」
「何か腹立つな。さっさと言いなさいよ」
「言わない。自分で考えれば?敵に塩を送る気は無いんだ」
敵?ちょっと、いつの間にセシリオは私の敵になったの?
「……魔法、解かなきゃよかった」
「あ!もう掛けるなよ!?」
そう言ってダッシュで逃げて行った。
「何なのあれ」
「ただのヘタレでしょう」
「あら。カハール久しぶりね」
意外にもこいつは無事だった私達を見て泣いてしまったのだ。存外可愛いところがあったらしい。
「エスカランテ様がお呼びです」
「わかったわ、案内よろしく」
「……あなたは本当に私を侍従だと思ってますね?」
最近話し相手がいなかったからカハールを揶揄うのが楽しい。
国王軍をハゲにした噂のせいで、私は遠巻きにされているのだ。
ひどい。アルフォンソ様は喜んでくれたのに。
「お待たせしました」
「いえ、こちらこそ呼びつけて申し訳ない」
「エスカランテ様、目の下の隈が酷いことになってますよ。少し治療しましょうか?」
お労しい。ご自慢の筋肉も少し萎んだ気がする。
「いえ。少し落ち着いてきたのでもう少し睡眠時間が確保出来ると思いますから大丈夫です」
「そうですか?必要があればいつでもお声掛け下さいね」
まぁ、城付きの治療士がいるだろうけど。
「ありがとう。気遣い感謝するよ」
そう言って一口お茶を飲む。言い難い話なのだろうか。
「……殿下の国外追放が決まった」
「!」
「国王を弑したこと。いくら悪事を働いていたとしても父親殺しは許されないという意見と……どうしても呪いの王子という根強い偏見があってね。
最初は辺境の地で蟄居という案も出たのだが」
「……もしかして、強化能力のせいですか?」
「ああ。辺境軍の力も見せてしまっただろう。あれを更に強化されたらと不安なのさ」
「アルフォンソ様は?」
「……幽閉ではなく、国外追放ならばありがたいと」
そうね。初めから覚悟されていたもの。
「辺境はどうなるのですか?まさか謀反の罪で裁かれるなんてことは」
「大丈夫だ。国王が魔法を使って辺境を攻撃した証拠が見つかった。グラセスを利用していた件もある。これ以上突付いて独立でもされる方が厄介だ。
逆に王の悪事を止めたことへの褒美があるくらいだな」
「褒美……」
「君の声が予想以上に遠くまで届いたんだ。
どうやら城下町にまで聞こえてしまったからな。今では辺境軍、特にリカルドは国民の間で英雄扱いなんだ」
まあ、メガホンはただ声を大きくするのではなく、多くの人に聞こえるようにする魔法だから。
「そうなのですね。では、アルフォンソ様がお喜びでしょう。あの方は辺境が大好きだから」
自分が追放されても、リカルド様が英雄になることを喜ぶに違いない。
「でも……リカルド様は辛いですね」
だって、友の功績を奪った形になってしまったのだもの。
「そうだな。だから報奨を固辞していてね。国民に明るい話題を振りまきたい貴族達が困っているよ」
「……明るい話題ですか?」
リカルド様が受け取って……国民がよろこぶ?
───まさか。
「……私に説得しろというお願いですか?」
どうりで話し辛そうにしているわけだ。
「君には迷惑ばかりかけて本当に申し訳ないと思っている。だが、今、新しい国を始める為には必要なことなのだ」
凶事を慶事で払拭したいのか。
「明るい話題とはエスカランテ様のお嬢様との婚姻ですか?」
「……ああ、そうだ」
国を救った英雄と新国王の愛娘の結婚。
確かに国民は喜ぶことだろう。
「ですが、お嬢様はまだお若いのでは?」
「イメルダは15歳だ」
女性の成人は16歳だから、まずは婚約させたいということかな。
「イメルダ嬢は納得されていますか?」
「あの子は貴族や王族の義務を理解しているし、恋人や婚約者もいない。リカルドのことも知っている。私が褒める数少ない人物だからよかったと言っていた。今すぐに愛せはしないかもしれないが、信頼と尊敬の念があるなら幸せになれるだろう」
では、リカルド様次第と言うことなのね。
あの時、私は彼の言葉を聞かなかった。今はその時ではないと……。
すべてが終わってからと約束したのに。
「……分かりました。お役に立てるかは分かりませんが、リカルド様とお話をさせて下さいませ」




