47.終焉
「とりあえず、ギリギリまで解除して」
「どうするつもりだ?」
「うん?私がやる。最初からそのつもりだった」
「アルフォンソ早まるな!このまま拘束しておいて策を考えよう!他に方法があるかもしれないだろう?!」
「残念だけど無いよ」
あ、この笑い方。やだ……オフェリア様みたいに綺麗に笑わないで。
「だから母上は死を選んだ。あの魔法を授けたのは母上だ。その母上が自分の命と……リカルドの兄上夫妻の命を使っても解けなかった程のものだ」
「兄さん達が?」
「ああ。今となってはどうやったのかは分からない。だが、前辺境伯夫妻と自分の命を糧にと言っていた。……すまない」
どうして貴方が謝るの。ただ、貴方の両親の頭がおかしかっただけじゃないっ!
悔しくて、もどかしくて言葉よりも先に体が動いた。アルフォンソ様を力一杯抱き締める。
「ルシア?」
「もっと自分を大切にしてよ!あんなゴミ屑の為にどうして貴方が?!謝る必要があるのはそこの馬鹿だけでしょう!それに……死んだら嫌だよ……」
もう限界だ……これ以上誰かが死ぬのを見たくない。貴方が死ぬなんて絶対にヤダ!
「ごめんね、ルシア。でもこの人は意思を持った災厄だ。死に際に誰を巻き込むか分からない。だから焦点を一つに絞らなきゃ。
……君やリカルドだってかなり恨まれてる。本当は今すぐここから離れて欲しいんだ」
「皆に分散された方が大した被害が無いかもしれないじゃない!だから離れません!」
もう自分でも何をやっているのか分からない。
子供の様に駄々をこねていてみっともないと思うのに止まらない。
「こら、そこの痴女。アルフォンソから離れろや」
「……兄様?」
「国王の最後を見届けに来たのに何やってるんだ。痴話喧嘩してる場合か?」
痴話喧嘩?!
「そ、そんなことしてない!」
「放ったらかしのオッサンが哀れだから早くどうにかしてやれよ。それに、もうすぐ貴族共が来る。
殺るなら今だぞ」
「ミゲルは医療魔法士なのに止めないんですね」
「生きてると、これを支持している馬鹿貴族が保身の為に騒ぐだろ。また話が二転三転する可能性が出て来る。市民の暴動の危険もある。
生かしておくと波乱しかないし、王妃様の攻撃でかなり弱っているから、どちらにしてももう長くはない。だからお前が選べ」
「はい。……ルシアをお願いします」
「アルフォンソ様!」
突然ものすっごく痛い拳骨が頭に炸裂した。
「痛っ!!兄様何するのよ?!」
「お前がそんな半人前だとは思わなかったよ。アルフォンソに肩入れし過ぎだ。医療魔法士なら現場では公平でいろ」
「……ごめんなさい」
だってあのゴミ屑は諸悪の根源でたくさんの人を殺してアルフォンソ様やリカルド様をずっと苦しめてきた悪魔で。公平に救うなんて出来なかった。
「アルフォンソ、手伝ってやるよ。ルシアは黙って見ていろ」
「……はい」
これ以上騒いだらガチで気絶させられる。
「お前、右利き?左利き?」
「左です」
「ん。じゃあ右手だけ使え。それと声を掛けるな。俺が合図したらひと思いに殺れ」
「分かりました」
だから毎回なんで兄様が仕切るのっていうツッコミは入れられなかった。誰もが息を殺して見守っている。
国王の死を──
「はじめまして、エルディア王」
「……誰だ、貴様は」
「貴方を奥様のもとへお送り致します」
「……オフェリア……」
オフェリア様の名を聞いた途端、血走っていた目元が緩む。私達には理解できなくても、彼の中には本当に愛があるのだと分かった。
「奥様は貴方と共に旅立とうと、ここ、心臓を傷付けた。それは奥様の愛だった。そうでしょう?」
そう言って国王の心臓の上をトンと触れる。
「そう……そうだ……この痛みは……裏切りでは無く……オフェリアの……愛……」
あ、ほんの少しだけ魔法を使った。
脳内麻薬を分泌させたんだ。
「そうです。この心臓の痛みは奥様からの愛です。
ですから早く迎えに行かないと。お一人で寂しい思いをされていることでしょう」
そう言って軽く右手を上げる。合図だ。
「……いま…迎えに……オフェリア、愛してる」
ズシュッ!!
呆気無い最後だった。あれだけ呪いの言葉を吐いていた国王は愛する王妃様に討たれ、命を落とした。
……そう思い込んで死んだのだ。
「アルフォンソ様……何か異変は?」
「ミゲルは凄いな。ほとんど問題ない」
「ほとんどってちょっとは問題あるの?!どこ!見せて!」
「さすがにゼロには出来なかったか。すまん。術が強力過ぎた」
「とんでもない。死を覚悟していたんだ、指の1本や2本どうってことない」
「どうってことあるよ?!馬鹿っ!」
右手に触れる。小指と薬指に赤黒い蔦の様な模様が巻き付いていた。
……腐り落ちることはない。でも、たぶん痛みがあるはずだし、動かすことも出来ないだろう。
「……絶対に治してみせるから」
「そうだな。オルティス家の総力を上げて頑張りますか。さて、ルシア。俺達はここまでだ。他の治療に行くぞ」
「……うん」
私達が離れると、リカルド様がアルフォンソ様を抱きしめた。
「……やっと終わったな」
「まだ後処理が山程あるだろうけどね」
「お前が無事で……よかった…っ!」
「リカルドも。本当にありがとう」
よかった。お兄様夫妻のお話は二人の友情を傷付けることは無かったようだ。
さあ、私の仕事をしよう。
「兄様、あの魔法士からクラウディア様のことを聞き出して」
「兄をこき使うとはいい度胸だな?」
「だって兄さんの方が優秀だもの。今、反省中なのよ」
だってあんな方法は考え付かなかった。
だって国王が許せなかったから。
あんな奴を穏やかに逝かせるなんて有り得ないとすら思っていた。
「仕方がない。お前はアルフォンソが大切なんだろ?許せなかった気持ちは分かるよ。
ただ、俺達は医療魔法士だ。悪人だから助けないとか苦痛を与えてもいいという考え方は良くないだろ。
まあ、そうは言っても人間だし?国の為に殺すのを手伝ったし、気に入らない男は禿頭にしてるけどな!」
そう言って頭をグシャグシャに撫でられる。
そうね、人間だから。
「ありがと。頑張る」
「おう、頑張れ。とりあえずは我が国のお姫様を救いますか」
「そうね」
クラウディア様は一応無事だった。
意外な事に純潔を保ったままだったし、大きな傷は無い。ただ、魔法で子宮を弄られているし、クローンを植え付けられていた。
性行為はしていない。それだけで無事と言っていいかは分からない。
そして何よりも問題なのは、魔法契約書にご自分でサインをしていたことだ。
不能のアルフォンソ様の代わりに国王の種を植え、世継ぎを身篭ることを承諾してしまっている。これではエルディアだけを責めることが出来ない。
そして、このままクローンを胎内に残しておく訳にもいかない。現在の法では、クローンは認められない存在だから。
まだ本当に小さな命。
命とは認められない可哀想な存在。
「お前は補助だけでいい。俺がやる」
「でも……」
「さっきの国王の件もある。俺だけにしておいたほうがいい」
「……はい」
私達は、自分達の都合で新たな命を刈り取った。
この子に、本当に魂が宿っていたのかは分からない。それでも。
……ごめんね。
たくさんの命を失って国王の時代が終わった。




