38.愛に飢えた女の独白(王妃オフェリア)
私は魔法大国チェスティの第四王女として生まれた。
でも、私は少ししか魔力を持っていなかった。
兄や姉妹達は魔力が豊富で、数多くの魔法を使うことが出来たのに、私だけが落ちこぼれ。
虐げられることは無かったけれど、期待されることもない。愛される事も無い、いてもいなくても気付かれないどうでもいい存在。
それが私、オフェリアという人間だった。
私は考えた。魔力が少ない私が両親の愛を得る方法。
この国に必要なのは魔法しかない。それなら、たとえ使えないとしても、魔法の勉強をして知識を増やしていけばいつかは愛されるかもしれない。
そんな微かな希望を胸に、魔法に関する知識を死にものぐるいで身に付けていった。自分自身では使えないままに。
「オフェリアよ。お前の婚姻が決まった」
あぁ、私はとうとう愛されなかった。
愛されないまま、国の為という理由で隣国に売られることが決まった。
その時の私は15歳、成人したばかりだった。
「……ありがとうございます、お父様」
どうして逆らう事が出来る?こんなに役立たずなのに。悲しいと思いつつも、私に逆らう術は無かった。
婚姻相手はエルディア国の皇太子だ。嫁ぎ先としては悪くない相手だろう。
ただ、彼はもう27歳。妻が病死した為、急遽相手を見繕っていただけのようだけど。
「はじめまして、オフェリア王女。私はエルディア国のカリストと申します。あなたの様に美しい方を妻に出来ることを光栄に思っています」
今まで誰にも大切にされることがなかった。
魔力が無い私に優し言葉を掛けてくれる人もいなかった。
こんな形だけの挨拶に喜びを感じる程、私は他人からの好意に飢えていたのだ。
この人に愛されたい。大切にされたい。
そんな愚かな感情が私を愚かにしていく。
「あなたはどんな魔法が得意なのですか?」
「あ、あの、私は魔力が少なくて……でも!知識なら兄達にも負けませんわ!書庫にあった様々な魔法を覚えております!」
少しでも価値があると思われたくて必死だった。
「それは素晴らしい!やはりあなたは聡明な女性のようだ。私は果報者ですね」
その瞳に愛など無いのに……
彼が私に興味を持ってくれた。それだけで涙が出るくらい嬉しかったのだ。
結婚してからも彼は優しかった。こんな私を優しく抱きしめてくれる。愛してると言いながら妻として大切に扱ってくれる。
幸せだった。だから、求められるまま数々の魔法を教えた。
でも、少しずつ求められる魔法が危険なものになっていく。私はこのまま教えてしまってもいいの?
時折不安がよぎった。それでも……私はこの愛を手放すことが出来なかったのだ。
後悔したのは国王陛下と王妃陛下が流行り病で亡くなった時。
これは……違う……病ではない!
「あなた!どういうことです?お義父様達は流行り病ではないわ!あれは!」
「しーっ。だめだよオフェリア、そんなに大きな声を出しては。
父上達のことはもちろん知ってるよ。君が教えてくれた魔法だからね。
残念ながら私には使えなかったが、生体魔法が得意な者を見つけてね。試しに掛けさせてみたのだけど思った以上に上手くいったよ。
さすが私の愛するオフェリアだ。ありがとう、これで私が王になれる」
信じられなかった。自分の両親を殺しておいてこんなに嬉しそうに笑うこの人が。
「……こんなこと許されないわ。私は罪を告白します。あなたも私も裁かれなくてはいけないのよ」
震えながら言う私を面白そうに眺めるこの人は、本当に私が愛したカリストなの?
「罪?罪か。なぜ?彼らが早くに王位を譲らないから仕方がないじゃないか。この冠は私にこそ相応しいのに。
それにね、君はもう話せなくなるよ。
フィト、オフェリアに縛りの魔法を掛けろ。私に対する従順と黙秘。
君はこれまで通り私の為だけに生きるんだ」
魔力の無い私に抵抗出来るはずが無かった。
それからの私は彼の人形だった。
魔法の知識を授け、沈黙を守る。王宮を出る事を許されず、ただ生きているだけ……
たった一つの喜びは、子供を授かったこと。
可愛いアルフォンソ。あの人に似ていない事も嬉しかった。どうかあなただけは幸せに。
そう願っていたのに……
「なぜコレが王の証である能力を持って生まれたのだ?」
危険を察知する能力。エルディア国王の証。
それからの国王はどうにかしてアルフォンソの能力を奪おうと必死だった。しかし、その能力は魔法ではない。第六感と言える超常能力だ。たとえ魔法でも奪うことができなかった。
証をもったアルフォンソを疎ましく思ったカリストは、本来能力に目覚めた者が引き継ぐ代々の書物を焼き捨てた。
あの子を異常者だと広め、孤立させたのだ。王の座を奪われない為に。
許さない……私の大切な宝物を傷付けるなんて!
それでも私は沈黙を守る魔法に阻まれ、カリストの悪事を誰にも伝えることが出来ない。
母親なのに、子供を守ることすらできない!
魔法を解かなくては……私は弱い。それでも魔力がゼロではない。
魔石に少しずつ魔力を貯める。カリストを倒す為にはどれだけの魔力が必要だろう。
あの男には強力な守護魔法が掛かっている。
それも私が授けてしまった魔法だ。それらを破るためには10年以上かかるだろう。それでも……たとえこの命を使ってでも倒してみせる。
どうか愚かな私を許さないで。
アルフォンソ、愛しているわ。




