36.いのちだいじに
エスカランテ様はお忙しいらしく、王宮に戻って行かれた。深夜なのにね。
私達が王宮に向かうのは3日後。それまでに手回しをしてくださるそうだから、更に仕事が増えて過労死しないか心配だわ。
「引き受けてくださって良かったですね」
「彼は本当に良い奴だろう?」
嬉しそうだな。アルフォンソ様の周りはいい人材が多いわね。それも人徳だと思うけど、言っても信じなさそうなのが困りもの。
「あなたが頑張ってきたからですよ。だから、あんないい人が味方してくれるんです。諦めないでよかったですね」
キョトンとしてる。信じてないなぁ。
でも私は諦めないで伝え続けますよ?
結構しつこいんで、あなたの壁なんてゴリゴリ破壊してみせます!
「全部解決して、あなたに信じさせるから覚悟しておいてくださいね」
「ルシアには敵わないな。あなたが言うと、本当にすぐに解決しそうだ。ミゲルもだけど、オルティス家はみんなそんなに前向きなのかい?」
「そうですね。だって医者が諦めたり怯んだら患者さんが不安になるでしょう?だからいつだって前向きに少しでも助けられる方向に動くんです。
根拠の無い自信にならないように知識も経験も頑張って積んできたつもりです。でも、それプラス根性!意外と気合で乗り切れますよ」
「フハッ!まさかの根性論!」
アルフォンソ様が笑ってる。最近上辺だけじゃなく、心からの笑顔が増えた気がする。ほら、少しずつ壁が脆くなってるわ。
「根性は大事です。思いの強さで生き死にって変わるんですよ。だから信じてくださいね」
「ルシアのことはとっくに信じてるよ。ルシアもリカルドもエスカランテも。私の大切な宝物だからね」
この王子様め。そういう甘ったるい発言が似合う所が許せない。流し目はやめなさい!
これだけ顔もいいし優しいし甘い発言も得意なんだから、女性にモテそうだわ。
「何か言いたげだね?」
「さぞ女性を泣かせてきたのだろうなと思いまして」
「褒めてくれているのかな?でも残念ながらまったく人気がなかったな。リカルドの方がモテてた。
でも、知ってた?カハールは女性に人気があるんだよ。仕事ができて次期宰相候補だし、見た目だって悪くないだろう?」
カハールなのに?まったく信じられないわ。
私にとっては嫌味なハゲ予備軍よ。
「彼は却下です」
また笑ってる。ずっとこうやって笑い合えるといいな。こんな穏やかな時間がずっと続けばいいのに。
「衣装はこちらです。お二人とも印象を変えるために体型補正しましょう。中にこれを着て少しふくよかにします。少し暑いですが、我慢してください」
「魔法道具は使わないんですね」
「王妃宮は魔法禁止の場所が多いので、姿変えの道具などは使用できません」
なるほど。だから髪も染め粉で色を変えたのね。お腹が出て小デブになったアルフォンソ様が面白い。眼鏡をして少し猫背にするとすっかり別人だ。
私もそばかすと目元をタレ目っぽくメイクして雰囲気を変えた。
「でも、私のことなんて知らない人がほとんどじゃない?別にここまでしなくても大丈夫だと思うけど」
「……あの美しいと人気だった彼の顔面を破壊した女として有名ですよ、あなたは」
いや、破壊なんてしてないわよ?
まつ毛バサバサだった人が、少~し薄い顔になっただけなのに酷い言われようだわ。
ハゲにしたのは兄だし。今は少し生えてきたから問題なしよ。毛根は生きてたわ。
「先程も言いましたが魔法使用禁止区域があります。医療魔法でも同じです。使うとバレますから気を付けてくださいね。もし、呼び止められたりしても対応は私がします。できるだけ声も出さないようにして下さい」
エスカランテ様が用意して下さった協力者は私を疑ってるのだろうか。先程から言葉にトゲがある気がする。
確かに他国の人間が急に現れてアルフォンソ様の周りをチョロチョロしてたら気に入らないかもしれないけど。
それとも噂を信じてるのかな。誘惑なんてしてないのに。そんな魅力が欲しいくらいよ。
「彼女は善意で協力してくれているだけの他国の人間だ。何か問題が起きた時は一番に助けてやってほしい。頼んだよ?」
「……はい、承知致しました」
それ駄目なお願い!ホントにもう!
「アルフォンソ様。それは違いますよ!あなたを失うのが一番の失策です。私の生命はあなたに懸かっているので、まずはご自分の命を守ってください!
あなたもよ、とりあえず命第一で全員脱出の方向で動きましょうね」
「……はぁ」
「返事ははっきり!」
「はい!」
よし。すぐに自分を諦める癖を直すのは大変だわ。困ったものね。
アルフォンソ様はまた笑ってるし。
この人の名前……なんだっけエルマンさん?は素直に返事をしてくれたからもしかしていい人?
とりあえず、命大事に方針でがんばろう!




