41去勢? いいえ、冗談です!
そこまで話し終えて。
「ねえ俊介君。明日、一緒に病院にいこっか」
と、瀬戸内恋華に言われ、俊介は驚きの表情を見せた。
「……病院? 何でですか?」
俊介が尋ねると、恋華は真顔で、
「え。何でって去勢するために」
「だから! いい加減去勢から離れてください!」
俊介はたまらず叫んだ。
聞かれたから話しているだけなのに。
そもそも、食事中にする話ではないだろうという意思表示も兼ねて。
「……だって、このまま俊介君を野放しにしたら、どんどん女の子を無自覚にたぶらかしそうなんだもん。だったら、そうなる前に去勢しとこうかなって」
俊介は、逃げ出したい気持ちを抑えることで、精一杯だった。
恋華が感情のない、ガラス玉のような目でこっちを睨んでいたからだった。
彼女は学園でナンバー1のアイドルだったはずなのに。
いつの間にヤンデレになってしまったのだろうか。
「和姫ちゃんやレイラちゃんや美鈴ちゃんに手をかけたかと思うと、今度はましろちゃんみたいなロリっ子にまで手を出すだなんて! 数々の浮気! もう許せないよ!」
「いや、話聞いてました!? ましろさんはまだ小学1年生ですよ! それに、僕だって無理やりお風呂に入らされたんです!」
机をバン! バン! と叩く恋華を、俊介は必死になだめた。
「本当かしらね。実は、ロリロリなましろちゃんキャワイイ☆って興奮してたんじゃないの!? そんなオイタをするキリンさんは、もう引き抜くしかない!」
叫びながら最後に恋華は、「ま、冗談だけどね☆」と舌を出した。
「お、おどかさないでくださいよ……」
ホッと俊介は息をついた。
まあ去勢は冗談としても、恋華の嫉妬深さは十分に分かった。
もっとさばさばとして、割り切った人物なのかと思いきや。
意外とねちっこく、そして根に持つ性格だ。
「じゃあ、『妹ウオッチ』はこれで全部終わりだね?」
時計をチラリと見ながら、恋華は言った。俊介も腕時計を見ると、夜の8時過ぎで大分遅い。どうやら、もうお開きにするつもりらしい。
「ああ、でもそういえば――いや」
そこまで言いかけて、俊介は慌てて口元を抑え、言葉をつぐんだ。
恋華は、そんな俊介の態度に小首を傾げて、
「そういえば……なに?」
「い、いえ。何でもありません! 遅くなりましたし、今日はもうこれで帰りましょうか?」
「ねえ、俊介君」
恋華は、野の花のような可愛らしく、爽やかな笑みを浮かべた。
しかし目は全く笑っておらず、俊介には一目で怒っていることが分かった。
「私には、もう隠し事はしないって約束……忘れたのかな?」
「わ、忘れてなんか、いませんよ……。本当に、何でもないんです……っ!」
狼狽しながら答える俊介。その態度は、「隠し事をしてます」と白状してるに等しかった。
「俊介君、妹さん達と、何かあったんでしょう。ちゃんと全部話して?」
「別に……話すほどのことでは」
「それは私が決めるから。とにかく話して。それとも、これから一緒に病院行く?」
「それは……その」
歯切れ悪く、俊介は上へ下へと、視線を右往左往させる。
そして、意を決したように、まっすぐ恋華を見つめると――
「昨日のことなんですけどね」
「うんうん」
「妹達と、みんなでお風呂入ったんです」
俊介がその言葉を発した瞬間、その空間は静寂に包まれた。
10秒ほどたっぷり静止していた恋華は、乾いた声で、
「……今、なんて言ったの?」
「えっと、お風呂に……」
「お風呂、の前になんか言ってたよね?」
「だ、だから、みんなで……」
「もっと大きな声で!」
「みんなで一緒にお風呂に入りました!」
そう叫ぶと、慌てて俊介は辺りを見渡した。
幸いにも、奏は厨房に下がっているらしく、今の話は聞かれていなかった。よかった、いい歳して妹と一緒にお風呂に入ってるなんてことが後輩にバレたら、明日から学校にこれなくなってしまうところだった。
「今、ハッキリと自白したね」
無表情の顔をずいっと突き出す恋華。
俊介はもう、自分に逃げ道はないのだと悟った。
「俊介君。最後に全部話してから終わらせた方がいいと思うよ? その方が楽になれるから」
死刑執行前の看守みたいな事をしれっと言う恋華。
「言っておくけど、嘘ついたらすぐ分かるからね。そしたら、俊介君をナイフで刺して私も死ぬから」
と、思いきや、今度は不倫ドラマみたいな事を言い出す恋華であった。
しかし、俊介はそのどちらもが、本気のように思えてならなかった。
俊介はため息を1つつくと、覚悟を決めて、
「実はですね……」
――ゆっくりと、口を開いた――




