34他意? いいえ、ありません!
そんなこんなで、ましろと一緒に料理を作ることになった俊介であった。
「それでは、ましろさん。まずは手洗いをお願いできますか?」
「はーい!」
俊介がそう言うと、ましろは嬉しそうに流しに行き、ジャバジャバと水道水で手を洗いだした。その間に俊介は、キッチンストッカーの上に具材を並べた。
用意したのは鶏のむね肉、にんじん、ピーマン、もやし、キャベツであった。
キャベツはざく切り、ニンジンは短冊切り、ピーマンは縦半分に切って種を取り除き、細切りにする。鶏肉は一口大に切って、小麦粉をまぶしておこう。あとは調味料と合わせて油で炒めて終了。そんな算段を立てていた。
「にーにー。手あらったー」
「ああ、はい。了解です」
手をタオルでふきふきしながら、ましろがとことこ近づいてくる。
そこで俊介は、ましろに指示を出した。
「それでは。ましろさんはニンジンの短冊切りをお願い出来ますか?」
「たんざくぎいってなにー?」
「あ、はい。そうですね……」
ましろが首を傾げながら聞き返してくるので、俊介は指示を変えた。
「すみません。それでは、キャベツのざく切りをお願いできますか? ざく切り。ざっくり3cmほどの幅にカットしてもらいたいんですけど」
「ざくぎいー? ましろ、よくわかんない」
またもや、ましろはポカンとしていた。これはまずい。俊介の頭の中で警報器が鳴り出した。
「えーっと、はい。よく分かりました」
俊介は両手を組みながら思案した。よくよく考えてみれば、家の料理はほぼ全て和姫が担当しているわけで、ましろが包丁を握ってる姿など見たことがない。
となれば。ましろが料理を作るのは今日が初めてということになる。ならば、下手に包丁など使わせたら、最悪指を切る可能性がある。
「やっぱりましろさんは、手伝わなくて大丈夫ですよ。そんなに難しい調理じゃありませんから。僕ひとりでも大丈夫です」
「え……」
するとましろは、赤くなった目に、涙をいっぱい溜めた。いくら小さいとはいえ、遠まわしに俊介からお荷物扱いされたと悟ったのだろう。
しかし、ましろは泣き出すようなことはなく、目線を下げながら、小声で、
「わかったー。にーにー、ましろのこときらいなんだね。ましろが何にもできないから、手伝わせてくれないんだ。ましろ、にーにーのじゃましたくないから、大人しくしてるね」
「ち、違いますよ! 決して、邪魔だなんてことはありません!」
「じゃあ、どうして手伝わせてくれないのー?」
「そ、それは……」
「やっぱり、ましろのこときらいなんだ」
「ですから、違います!」
俊介は、顔を赤くしながら反論した。本当はましろに怪我をさせたくないだけなのだが、どう言えばましろを傷つけずに済むのかが分からない。
怪我をせず、それでいて料理の手伝いをさせる方法。考えに考え抜いた結果――
「それじゃあ、ましろさん。鶏のむね肉を揉んでもらえますか?」
「とりのむねにくー? もむー?」
「はい」
俊介は短く返事をすると、手際よくむね肉を一口大にカットし、ボウルの中に入れた。さらに、その上に小さじ一杯分の小麦粉を入れると、手で肉をこね回した。
「こんな具合に。肉を柔らかくするために、揉みこむんです。火の通り具合も違ってきますし、料理の出来栄えを左右する、大変重要なお仕事です。かなり大変ですが、お願いできますか?」
「だいじなおしごと……! うん! ましろ、がんばるー!」
「……ほっ」
俊介は、胸を撫で下ろした。
肉を揉みこむだけなら怪我もしないし、大人しくしてくれてる分、自分が他の調理をしやすくなる。正に一石二鳥だ。
「それじゃあ、すみませんがよろしくお願いします」
「うん! わかったー!」
嬉しそうにニコニコ顔で頷くと、ましろは俊介の見よう見まねで鶏のむね肉をこね回した。まだ小さいましろの手では、満足に揉みしだくことは出来ないが。その分ましろは一生懸命なので良しとしよう。
そんな具合にましろの作業を見守りつつも、俊介は自分の作業を遂行することにした。まずは、キャベツのざく切りからだ。
「もみもみー♪ もみもみー♪」
するとすぐ横で、ましろの歌が聞こえてきた。
「ましろさん、ゴキゲンですね」
「うん! もみもみー♪ もみもみー♪ おむね、もみもみー♪ にーにーといっしょに、おむねのおにく、もみもみー♪」
しかしよく聞いてみると、どこか卑猥な内容の歌詞だった。
と思った俊介は、首を横に振った。ましろに、邪な気持ちはないのである。
現にましろは、身を乗り出しながら必死に、それでいて楽しそうに下ごしらえを手伝ってくれている。ましろは無邪気なだけで、決して他意はないのだ。
(そう……気のせい、ですよね。多分)
俊介は、自分にそう言い聞かせながら、調理を始めることにした。




