33手伝わせない? いいえ、手伝ってもらいます!
井川ましろ。
井川家の五女にして、小学1年生。7歳。家族からは、目に入れても痛くないほどに可愛がられている。髪型はゆるめのパーマであり、ふわふわしたピンクのウェーブは、ましろの小さいお顔を更に引き立たせていた。
パッチリした大きな瞳には潤いがあって、その眼差しで見つめられた者は、老若男女を問わず骨抜きにされると言われている。ましろを一目見た大人のお姉さんが「やだ! 何この子可愛い! お家に持って帰る!」と誘拐まがいな事件が起きたこともあるほどだ。
そんなましろと、
「にーにー、ふたりっきりー♪」
ましろは、俊介の膝の上でTVゲームをしながらそう言った。
なぜ俊介とましろは2人きりなのか。答えは単純、今日は休日なのだ。和姫もレイラも美鈴も、用事があって家を空けているという珍しい日なのだ。
ということでましろがお留守番を仰せつかり、その面倒役として俊介が役割を買って出たというわけだ。
「ねー、にーにー」
「何ですか? ましろさん」
「おなかすいたー」
ましろはゲーム機のコントローラーを置きながら、上目遣いに俊介を見つめながら懇願した。
「ましろ、ごはんたべたいー」
「ああ、はいはい。そうですね」
涙目で訴えてくるましろに、俊介はあわてて、
「と言っても、和姫さんがいませんからね……。ちなみに、ましろさんは何が食べたいですか?」
「なんでもいー」
「そうですか。じゃあ、出前でも取りますか?」
「いや! ましろ、にーにーが作ったお料理が食べたい!」
ましろは首をフルフルと振りながら、真剣な目でじっと俊介を見つめてくる。
「にーにーのお料理じゃないと、食べたくない!」
「でも……僕料理はあまり得意じゃないですよ?」
俊介がそう言うと、ましろはニッコリ笑って、
「いーの! ましろ、にーにーの作るものなら何でも食べれる!」
……。
……わずかな沈黙のあと。
「……分かりました。本当に、大した物は作れませんけど。それで良ければ、待っててもらえますか?」
「うん! わかった。にーにー、ありがと!」
満面の笑みを浮かべるましろに背を向けて。
俊介はキッチンの中へと入っていった。
するとすぐに、俊介は冷蔵庫の中を開けて、食材や調味料のチェックをする。
肉類や調味料などは半透明の容器に入れられ、分かりやすいようにラベルが貼っていて、野菜は取りやすいように整然と野菜室に入れられている。几帳面な和姫の性格が如実に現れているようだった。
「ふむ……これなら、野菜炒めが妥当なところですかね」
俊介は1人つぶやいた。
というより、俊介には野菜炒めぐらいしかレパートリーがないのだが。
それでも肉類の脂質、たんぱく質、野菜に含まれるビタミンなどの栄養素を、手っ取り早く摂取できる野菜炒めなら、成長期のましろにもピッタリなはずだ。
そう思い、調理にとりかかろうとした時だった。
「にーにー、にーにー」
遠慮がちな声に振り返ると、いつの間にかましろが立っていた。
「ああ、ましろさん、どうしたんですか? もしかして、待ちきれないんですか?」
俊介がそう言うと。
ましろは首を横に振った。
「ちがうー。ましろも、なにか手伝いたいのー」
「手伝いって言っても、すぐ出来ますよ。ましろさんは、TVゲームでもして、くつろいでもらっていいですから」
「にーにー。ましろ、じゃま?」
「え……」
「ましろ、いない方がいい……?」
「う……」
ウルウルと潤む瞳。この目である。この目で見つめられると、全てを許したくなってしまうのである。もちろん、まだ幼いましろは、お兄ちゃんにいっぱい甘えたい年頃であろうが。
それにしても、小学校に上がってからは、ことさら俊介に甘えてくるようになっていた。しかも日に日に愛らしく成長しているので、今や破壊力も抜群だ。
「にーにー。ましろ、手伝っちゃだめ?」
「いえ、そんなことありませんよ」
泣きそうな顔で見上げてくるましろに対して、俊介は即答した。
「僕もあまり料理は得意じゃありませんからね。ましろさんが手伝ってくれるなら100人力ですよ。是非、力を貸してください」




