32シェアしない? いいえ、します!
「――と。美鈴さんの『妹ウオッチ』は以上です」
そこまで話し終えて、俊介はゴクゴクと水を飲んだ。
空になったコップの向こうには、恋華の神妙な顔が透けて見えた。
「もう子供じゃない……か。いかにも、美鈴ちゃんらしいね」
開口一番、恋華はそう言った。
「美鈴ちゃんって、いつも明るくて元気いっぱいなのかと思ったら、結構そういう悩みも抱えてるんだ」
その声は、やけにしんみりしていた。
宝石のように輝く目も、どこか遠いところを見ているようだった。
俊介も、「ええ」と追随した。
「まだまだ子供だと思ってたんですけどね。いつの間にか、あんなに成長してたんですね」
俊介がそう思っていたのは、美鈴が五姉妹の中で2番目に小さいからだろう。
しかし、それは逆だった。
まだ若いからこそ、成長する速度もまた目を見張るものがあるのだ。
子供は、日に日に大きくなっていく。
そしていつか大人になり、素敵な相手を見つけてまともな恋愛をしてほしい――それが俊介の願いだった。
「俊介君の考えてること、わかるよ」
俊介の表情から何かを察したのか、恋華が突然切り出した。
「でもね、ずっと思い続けてきた人のことは、そう簡単に諦められないの。その人と過ごしてきた日々が、大切なものであればあるほどね」
その口調は穏やかであったが、どこか寂しさを感じさせるものであった。
「……」
沈黙する俊介には構わず、恋華は自嘲気味に話を続けた。
「私だってそうだよ。ずっと昔から好きだった人がいるのに、勇気が出せなくて、結局告白も出来ずじまい。だから私には、美鈴ちゃんの気持ちがよく分かるんだ」
その言葉は、俊介にとって衝撃だった。
恋華は今まで男性と付き合った経験はないと言っていた。ならば、恋華の言う「昔から好きだった人」とは、俊介自身ということになる。というより、他に該当する人物がいない。
やはり、自分と恋華は遠い昔に出会っていたのか?
俊介が、そう尋ねようとした瞬間だった。
「お待たせしました~。カルボナーラになるです~」
ほんわかした声と共に、奏がカルボナーラが乗った皿をテーブルに運んできた。
「でも、大丈夫ですか井川先輩。大盛りペペロンチーノの上に、カルボナーラまで食べるだなんて。こんなにいっぱい食べたら、お腹がビックリしちゃわないですか?」
まだ3分の1ほど残ってる俊介が食べかけてるペペロンチーノを見て、奏が不安そうに言う。
「あ、奏ちゃん大丈夫だよ。俊介君と私でシェアするから。悪いけど、お皿持ってきてくれない?」
恋華の提案に、俊介は驚いた。先ほどは、何度頼んでもシェアはしないと言っていたのに。
「分かりましたです。今持ってきますです」
「……どういう風の吹き回しですか? 恋華さん」
奏が立ち去ると同時に、俊介は小声で言った。
「さっきまで、シェアは絶対しないと言ってたでしょうに」
「気が変わったの。ちょっと意地悪しすぎたかなーって反省もしてるし。仲直りのしるしに。ね? 一緒に食べよ?」
はにかみながら、恋華は微笑んだ。
――その表情を見て、俊介はドキリとする。
その笑顔が、昔どこかで見たような気がしてならなかったからだ。
「さあさあ。それよりも。『妹ウオッチ』の続き。いよいよ最後はましろちゃんの番だね?」
俊介が我に返ると、恋華が自分のことをじっと見つめていた。
「ああ。そうですね。しかし……」
俊介は、少し言いづらそうに、目を逸らしながら、
「ましろさんとは特に、何もなかったんですよ。ゲームをしたり、一緒にご飯を食べたり。本当に、いたって普通で。だから話しても、面白いことなんて別にないですよ?」
「別にいいよ。無理に面白くしなくたって」
しかし恋華は、にこにこ顔で答えた。
「妹ウオッチって言ってもさ。私が知りたいのは、妹さん達が普段家でどんな風に俊介君と過ごしてるのかってこと。何もないって言っても、流石に会話ぐらいはするでしょ? そういうちょっとしたことでいいんだよ。何でもいいから、話してみて?」
「本当に……聞いててつまらないかもしれないですよ?」
「つまらないなんてことないよ。俊介君が一生懸命話してくれてるのに」
「そうですか……じゃあ」
俊介は、不承不承と言った風に口を開く。
「あれは、今から2日前のことなんですけどね……」




