31エッチ? いいえ、トレーニングです!
そんなこんなで、夕飯を食べ終えた俊介は美鈴の部屋に来ていた。
美鈴の部屋は、ほんのりと甘い匂いがして、クマさんのテディベアや、ウサギさんのクッションなどが置かれている。ベッドの横に鉄アレイやバランスボールが置かれていることを除けば、普通の女子の部屋だった。
美鈴はランニング時と同じく、上はタンクトップ、下はハーフパンツを履いていた。どうやらトレーニングをする時はこの格好が正装らしい。しかし美鈴には悪いが、俊介にとっては色々な部位が見え隠れして目に毒だ。
美鈴は、俊介が部屋の中に入ると、開口一番言った。
「さあお兄ちゃん! 今からあたしと『レッグレイズツイスト』をしてもらうよ!」
腰に手を当て、指を俊介に指しながら美鈴が高らかに宣言した。
しかし、当の俊介はきょとんとした顔で、
「えーっと、『レッグレイズツイスト』って何ですか?」
「えっ、もしかして、お兄ちゃん知らない?」
「知りませんけど」
すると美鈴は、グイッと腰を突き出しながら、人差し指を立て、
「2人1組でやるトレーニングで、とっても腹筋が鍛えられるんだよ!」
レッグレイズツイスト。
片方が立って足を少し広げ、もう片方が床に寝そべって足と足の間に頭を入れて足首をつかむ。次に寝そべってる方が足を上にあげて、その上げた足を立ってる方が下に押して、寝そべってる方は足を床につけないようにして上げ、また下に押される。
これを繰り返すことで、お腹の側面である腹斜筋を鍛えられるのだ。
以上の説明をされ、いざ実戦へ。
「美鈴さん……始めましょうか」
おそるおそる俊介が脚を広げると、美鈴が寝転がりながら股の間に頭を入れ、俊介の足首をつかんだ。そして、
「はい、お兄ちゃん! あたしの体、遠慮なく乱暴に押し倒していいからね!」
「……」
俊介はもうツッコまなかった。
代わりに、美鈴が上げた両足をつかむ。
見下ろすと、肉付きのいい太ももが嫌でも目に入り、意外と恥ずかしい。
俊介はこほんと咳払いをして落ち着きを取り戻すと、
「それじゃあ、いきますよ? 準備はいいですか?」
「いつでもOKだよ!」
元気のいい美鈴の返事が合図となって、俊介は掴んだ美鈴の脚を左側真横に押し倒した。
「はい。ゆっくり戻してください」
美鈴は床スレスレの所で足をピタリと止め、息を吸いながら脚を上げて元の位置に戻した。俊介はその足をつかみ、今度は右側真横に押し倒す。その繰り返しだ。
「うーん、結構これ、腰に負担がくるんだよね」
「無理はしないでくださいね。肩甲骨はしっかり床につけてください」
「あいたた……。うん、無理しない程度に頑張るよ。これやらないと、あたしの目標が達成できないからね」
「目標? なんですか一体」
「ダイエットだよ。最近ちょっとお腹がぷよぷよしてきて……って! 何言わせるの! お兄ちゃんのバカ!」
「なんですか急に!?」
普通に会話してたはずだったのに、突然美鈴が怒りだしてしまった。
「お兄ちゃんだけには絶対秘密にしたかったのに……うぅ」
「どうして僕だけに秘密なんですか?」
「乙女は、愛する人の前では可愛らしい自分を演出したいものなんだよ」
「そ、そうなんですか……」
とりあえず返事をしてみるが、俊介にはいまいち理解ができなかった。
「とにかく! 知られてしまったからにはしょうがないから、お兄ちゃんにはあたしのダイエットが終わるまで協力してもらうからね! さあさあ! トレーニングの続き続き!」
嫌ですと断る暇もなく、美鈴は両足をまた天井に上げた。
俊介はその足をつかみながら考えていた。
晩御飯を残していたのは、これが理由だったのか。
俊介の目から見て、美鈴は太っているようには見えない。むしろ、もう少し肉をつけた方がいいのではと思うくらいだ。
そんなことを思いながら、俊介は美鈴の足の横に倒していく。
「うんしょ……これで、スッキリしたお腹を手に入れるんだ……」
額に汗をにじませながら、美鈴は腹直筋を最大限に稼動し、床ギリギリまで足を下ろしていく。
「そんな無理に痩せなくてもいいんじゃないですかね」
「その手には乗らないよ。あたしをおだてて、もっと太らせようとする作戦でしょ!」
美鈴は俊介の言葉を聞かず意固地に、
「あたしは……理想的なくびれになるの。恋華さんみたいに」
「恋華さんだって、太る時くらいありますよ」
「そ、そうかな……って、だから、そういう言葉には騙されないって!」
「美鈴さんは、今のままでも凄く素敵ですよ。それに僕は、ちょっとぽっちゃりした女性の方が好みなんですけどね」
「えっ! 嘘! ほんとに!?」
俊介のその言葉に、美鈴は嬉しそうに反応し、
「ちょ、ちょっと、ジタバタしないでくださいよ……うわっ!?」
俊介は叫んだ。美鈴が急に足をバタバタさせたので、バランスを崩したのだ。
足首も美鈴につかまれているため、姿勢を維持出来ず俊介は前のめりに倒れた。
「きゃあ!」
美鈴はなすすべもなく、俊介に体の上にのしかかられた。
美鈴もまた、俊介の体の上に崩れ落ちる。
俊介の顔に、柔らかくぷにっとした……例えるなら桃のようなものが押し付けられた。その桃が俊介の顔に覆いかぶさった拍子に、俊介の頭は地面に激突した。
室内に、「ドーン!」という大きな音が響き渡る。
俊介はそのまま、意識を失った。
「お兄様! どうなさったのですか! 大丈夫です……か?」
「兄さん! スズ! どうしたの!? 凄い音がした……けど」
和姫とレイラが、心配して美鈴の部屋に乗り込んできた。
そこで2人が見たものは。
くんずほぐれつ絡み合いながら、気を失う俊介と美鈴であった。
しかも美鈴は倒れた拍子にタンクトップの紐がはだけて肩がむき出しの状態なのだ。その状態で、お互いの股間に顔を埋めている……ようにしか、2人には見えなかった。
もはや、この状態では何の言い訳も出来ないだろう。「トレーニングをしていてこうなりました」では済まないことは確かだ。
「な、な、な……」
予想に漏れず、2人は声を合わせ、大声で、
「何してるの2人とも――――――――――――――――――――――――!!」
数時間後、目を覚ました俊介と美鈴は、和姫とレイラから激しい尋問を受けることになった。
事情を説明し、誤解が解けるころには、すっかり日が暮れてしまっていたが。
俊介と美鈴の2人きりのトレーニングが今後禁止にされてしまったことは、言うまでもない。




