30明るい? いいえ、様子が変です!
「まったくもう! スズだけ兄さんを独り占めするなんて! ズルいわ!」
室内に、レイラの叫び声が反響した。
井川家のリビング。
俊介と4姉妹枚は食卓を囲んでいた。
美鈴は、ここ数日俊介から朝練を手伝ってもらってることを皆に自慢していた。
それでレイラはおかんむりというわけである。わたしに隠れて兄さんを独占するなんて~だの、スズばっかりエコヒイキだわ~と、妬きに妬いているのである。
不満の声を上げているのは、レイラだけではなかった。
「たしかにレイラの言うとおりですわ。いくら大会出場が決まったとはいえ、お兄様は美鈴1人のものではありませんもの。お兄様の開放を要求しますわ」
レイラ以上に激昂しているのは、和姫であった。しかし、そういう和姫自身も、俊介に色々と迫っていたりしてたのだが。自分のことは棚に上げるところが何とも彼女らしい。
そして、和姫の他にもうひとり。
「スズねーねー、いいな。ましろも、にーにーとおいかけっこしたい」
もうひとりは、五女のましろであった。7歳で、井川家の末っ子である。別に俊介と美鈴は遊んでいたわけではなく、真剣に大会へ向けて鍛えていたのだが。ましろの目には「仲良くおいかけっこして遊んでる仲良し兄妹」に映ったらしい。
「まあまあ、落ち着いてよ、みんな」
ただひとり、美鈴がそ知らぬ顔で、詰め寄る皆に答えを返した。
「お兄ちゃんは、あたしの練習に付き合ってくれただけだよ? それ以外のことなんて、何もないんだよ?」
「本当に? そんなこと言って、兄さんに抱きついたりとかしてるんじゃないの?」
と、レイラは、美鈴の顔を射抜くように見据えながら言った。
「うーん、体がふらついたりとか、事故でならあるかも♡」
「で、では、走ってる時に足が痛くなったと言って、お兄様に介抱してもらったりとかは?」
「んー今のところはないね。でも、怪我とかした時はしょうがないよねー?」
和姫からの質問に、ほんわかモードで答える美鈴であった。
俊介はといえば、1人黙々と食事を続けていた。話の中心に自分がいるだけあって、まるで針の筵に座っている気分だった。こんなことなら、朝練のことは皆には絶対秘密にしておくべきだったと後悔しつつ。
「もーいーじゃない! 別に、お兄ちゃんとあたしの2人だけで秘密の特訓したって!」
俊介がふと気づくと、美鈴と和姫とレイラが言い争いをしていた。
「ですから! そういう言い方だと、何かあるようにしか思えませんわ!」
「兄さんは、わたしと一緒に土星の使者から招待される予定なのよ! スズばっかり連れ回さないで!」
「ふええ、にーにー、ましろとも遊んでほしい……」
「み、皆さん。少し落ち着いて――」
口々に意見を述べる和姫、レイラ、ましろを、俊介は宥めようとした。
その時。
「もー! みんなうるさいなー!」
大声を発したのは、美鈴だった。普段は明るい美鈴が声を荒げるのは珍しいことだった。その迫力に、室内はしんと静まり返る。
「ねえ、お兄ちゃん」
「は、はい。何ですか?」
「食べ終えたら、あたしの部屋に来て。特訓に付き合ってもらうよ!」
そう言い残すと、鼻息を荒くしながら、美鈴はリビングを去っていった。
俊介がふと美鈴のテーブルを覗くと、ご飯が半分ほど残っていた。
いつもは完食どころかおかわりまでする美鈴が……初めてのことだった。
「お兄様」
「はい。何でしょうか」
和姫に話しかけられ、咄嗟に俊介は顔を上げた。
――美鈴の様子がおかしい。
そんな俊介の動揺を知ってか知らずか、和姫は小さく頷きながら言った。
「美鈴のこと、頼みましたわよ」




