27天然? いいえ、わざとです!
そして俊介と美鈴は、玄関の外に立っていた。
俊介も美鈴と同じように、体育の授業で使うジャージに着替えながら。
「おいっちに、おいっちに」
隣で楽しそうに準備運動をする美鈴に、俊介は声をかけた。
「美鈴さん」
「おいっちに……なあに? お兄ちゃん」
「何だか、楽しそうですね」
俊介がそう言うと、美鈴は満面の笑顔を浮かべながら、
「そりゃあもう。お兄ちゃんと一緒にランニングが出来るなんて、こんなの張り切るに決まってるよ!」
――と。
羽織っていた濃紺のジャケットとジャージを、バッ! と勢いよく脱ぎ捨てた。美鈴はその下にタンクトップとハーフパンツを履いている。タンクトップのバスト部分からは、形のいい美乳がチラチラと見え隠れし、ハーフパンツからは、スベスベして健康的な美脚が生地の間からはみ出していた。
「な、な、何で脱ぐんですか!」
俊介は必死になって叫んだ。
当の美鈴はきょとんとした顔で、俊介の疑問に答えた。
「え。だって、こんなにいい天気じゃない。上着てたら暑いよ」
「確かにいい天気ですが……」
俊介は空を見上げた。雲ひとつない澄み切った青空は、文句なしの快晴といったところだった。風はゆらゆらと、撫でるように吹いており、陽射しはまるで、目の前をライトで照らしたように明るかった。涼しい格好で走りたいという美鈴の気持ちも、よく分かる。
しかし、俊介は気が進まなかった。
あまり自覚はないだろうが、美鈴は掛け値なしの美少女なのである。家の中ならともかく、外でこんな開放的な格好をしていては、男達のいやらしい視線にさらされるのではないか。
しかし、美鈴は大会前で異常に気合が入っている。
美鈴のやり方に口を挟むのは野暮なように思えた。
俊介には、美鈴が痴漢に襲われたりしないよう祈ることしか出来なかった。
「お兄ちゃん! 特訓する前に、渡しておきたいものがあるの!」
「渡したいもの? なんでしょう?」
「はい、これ!」
といって、美鈴が俊介に差し出したモノは――
「これ、竹刀じゃないですか?」
「そうだよ! それであたしの未発達な体を、ビシビシしごいてお仕置きしてほしいの!」
「言い方に語弊がありすぎますよ!」
と、俊介はマジメな顔でお仕置きを懇願する美鈴にツッコんだ。
すると、美鈴はきょとんとした顔で――
「……ごへー? 何のこと?」
「いや、何のことって、お仕置きとか言うからですよ……」
「あたしはただ、あたしがちょっとでも怠けていたら、お兄ちゃんに気合を入れ直してほしいって思っただけなんだけど。なんか問題あったの?」
と、美鈴は心底不思議そうに俊介を見つめる。
どうやら美鈴は、ボケでもなんでもなく、真に自分を鍛えてほしいようだった。ただ天然すぎて、言い方が「アレ」になってしまっただけで。それが分かり、俊介は美鈴から竹刀を受け取ると――
「分かりました。ビシバシしごいていきますからね。覚悟してください!」
「らじゃー! お兄ちゃんの持つぶっとい棒で、あたしの未成熟な体を気の済むまで叩いてね!」
「だからそういう言い方、やめてくれません!?」
もしかして、天然じゃなくてわざとやってるんじゃないだろうな。
服を脱ぎ捨てたのも、全て計算で――?
俊介の脳裏に、そんな疑問が浮かぶのであった。
「さあ、お兄ちゃん。お喋りしてる時間がもったいないよ! 青春は待ってくれないんだから! 早くいこっ!」
美鈴は腿上げをしながら、今か今かと俊介を急かす。
しかし俊介は。
美鈴が脱ぎ散らかした、自身のジャケットをチラリと見ると――
「その前に、ジャケットを片付けてからにしませんか? このままだと汚れがつきますし。それから、キチンとハンガーにかけて――」
「何言ってるの、お兄ちゃん!」
しかし、美鈴は全く耳を貸さず。
むしろ、何を言っているんだと憤慨したように俊介を見つめ、
「そんなのあとだよ。あとあと! 服の汚れなんてあとでも取れるけど、失った時間はもう元には戻らないんだよ! まして、あたしには大会が控えてるんだから! 帰りにまた拾えばいいんだよ!」
「え、ええっ?」
美鈴の勢いに、俊介はたじろいだように後ずさる。
「さあ、いこ! お兄ちゃん。朝日に向かってレッツ・ゴー!」
しかし、美鈴は関係ないと言わんばかりに、俊介の手を引いて走り出す。
「あ、ちょっと、美鈴さん!」
こうして。
美鈴と俊介の秘密トレーニングは始まったのであった。




