20照れてる? いいえ、具合が悪いんです!
『みんな~。今日からみんなのお兄ちゃんになる、俊介くんよ♪』
義母である井川麗子は、妹達――和姫、レイラ、美鈴に俊介を紹介した。
ニコニコと、俊介の肩に手を置きながら、妹達を眺めて。
妹達もまた、俊介に目が釘付けになっていた。
麗子は、娘たちに向かって言った。
『初めましてだから、ちょっと戸惑っちゃうかもしれないわね~。緋雨ちゃんは出かけてていないけど、緊張をほぐすために、お互いに自己紹介しちゃおうか』
麗子の一言に、妹達はこわばりの表情を浮かべた。
しかし、それもすぐのことで。
艶めかしい黒髪を腰元まで垂らした、日本人形のような美幼女が、俊介に向かってペコリと頭を下げた。
8歳の頃の和姫だ。
『俊介おにいしゃま。わたくし、井川和姫ともうしますわ。よろしくおねがいしますの』
和姫の挨拶が終わると、俊介も頭を下げる。
『和姫さん……ですね。よろしくおねがいします』
『う~ん、ちょっとカタいかな~? おチビちゃんのくせに、2人とも敬語なんて使っちゃってさ~。まあ、和姫ちゃんはいいとしても、俊ちゃんはタメ口でいいのよ? これからは、この家の長男なんだから』
麗子は、俊介の頭を撫でながらそう言った。
この頃から、俊介は家族に対しても敬語を使っていたのだ。
そしてその癖は、今でも直っていない。
――自分は、この家の人たちとは赤の他人なのだから。
俊介は、物心つく前に両親を事故で亡くしていた。
親戚も早くに失くしている俊介に待っていたのは、孤児院生活だった。
そこからはずっと、外の世界など知らずに生きていた。
――だから、自分とこの人たちとは全く違う生き物なのだ、と。
次に自己紹介をしにきたのは、6歳の頃の美鈴だった。
オレンジがかったブラウンの髪は、今よりもさらにボーイッシュに短く切り揃えられてて。
まんまるとした瞳はキラキラしていて、汚れなど何も知らないようだった。
そんな美鈴は、とことこと俊介の前まで歩み出て、
『おにーちゃん、はじめまして! 井川美鈴、6さいです!』
『美鈴さん、初めまして。よろしくおねがいします』
『あたち、ずっとおにーちゃんほしかったの! いっぱいいっぱい遊んでね! かけっことか、鬼ごっことか! あと、えーと、えーと……』
『す、すみません。あまり、体を使った遊びは……』
『えー、なんでー? あたち、おにーちゃんといっぱい遊びたいのにー』
『ま、まあ、美鈴さんがそうしたいなら付き合いますよ』
『ほんと!? やったー、おにーちゃんだいちゅき!』
喜色満面、俊介に抱きつく美鈴であった。
俊介が1番早く打ち解けた妹、それは彼女だったのである。
そして、最後に残ったのはレイラだが、
『あ……う……』
彼女は母親の影に隠れて怯えるだけだった。蒼い瞳に涙を溜めて。肩まで垂れ下がった金髪のブロンドヘアーを、ブルブル震わせて。粉雪のような白い頬を、赤く染めて。
和姫が日本人形のようにお淑やかならば、彼女はフランス人形のように優雅な見た目だった。
麗子は、オドオドするレイラに笑いかけながら、こう言った。
『どうしたの? レイラちゃん。あ、わかった! こんな素敵な男の子がお兄ちゃんになるもんだから、緊張しちゃってるのね!』
麗子はレイラの顔を覗き込み、茶化すように言うが、レイラは黙ったままだった。
『あらら、きっと恥ずかしがってるのね。でも言ってみてごらんない。お兄ちゃんって』
『……………』
ここまできて、俊介はあることに気づいた。
『あの、お義母さん』
『なあに、俊ちゃん?』
俊介は、義母におそるおそる意見を述べた。
『その子……もしかして具合が悪いんじゃないでしょうか? 照れてるにしては、顔が赤すぎますし。発熱症状を起こしてる可能性があります。体が震えているのも、体温が上がっているからじゃないでしょうか。だから、熱を計ってあげた方がいいと思います』
俊介の言うことは、当たっていた。
なぜなら俊介の発言直後に、レイラはぐったりと倒れたからだ。




