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16不機嫌? いいえ、ご機嫌です!

「まったくもう! まったくもうだよ!」


 俊介のちょっとした悪戯に、レイラは不満げな叫び声を上げていた。

 しかし、体がだるいせいか、起き上がる気力はないようだ。

 そんなレイラに、俊介はペコリと頭を下げて、


「ですから、悪かったですって。このとおり。謝りますから許してください」


「ふん。いくら我が半身だからって、許せることと許せないことがあるわ。まあ、わたしと結婚(契約)してくれるなら、話は別だけど」


 しかし、レイラは許してくれなかった。布団を頭の位置まですっぽり被ると、横を向いてプンプン怒っている。


「契約……はしないですけど。こうして手厚く看病してるじゃないですか。それでチャラにしてくださいよ」


 俊介がレイラのことを看病するのは、これが初めてではなかった。レイラは小さい頃から体が弱く、寝込んでいることが多かったからだ。流石に、今は多少マシになっているが。


 それからも、あの手この手で俊介はレイラのご機嫌をうかがおうとしたが、一向にレイラの機嫌が直る気配はなかった。


「フン、もう兄さんの顔なんて見たくもないわ」


「そうですか。じゃあ僕は失礼します」


 といって、俊介が普通に立ち上がろうとすると、


「待って! 置いてかないで兄さん!」


「どっちなんですか!?」


 まるでスッポンのように、俊介の腕にしがみつくレイラであった。結局のところ、ただ拗ねていただけなのか。俊介が座布団の上に座ると、ようやくレイラは手を離した。


 それからは俊介も余計なことはせず、レイラも大人しく横になっていた。

 しばらくしてから、口を開いたのはレイラだった。


「それにしても。せっかく兄さんと2人きりなのにこんな体たらくなんて。体が元気なら、兄さんの体内にある白きオーラを、この身に取り込むことが出来たのに」


 発せられた言葉は、ろくでもなかったが。


「まあ、わたしが動けないなら、兄さんがわたしを犯してくれてもいいけど? 普段は知の神、ネーティスのように思慮深い兄さんが、魔獣のようにオスの本能をむき出しにし、わたしの聖なる魂を汚す。ふふ、想像するだけで下半身が……って、いかないでよ兄さんわたしが悪かったからああああああああぁ!」


 下品な妄想話に呆れて俊介が立ち上がろうとすると、レイラは神速のスピードで俊介の腕をつかんだ。その速さたるや、プロレスラー並みだった。


「まあ、大人しくしてることですね」


 俊介は、布団ごしにレイラのお腹をぽんぽんと叩き、


「風邪を治すには、極論を言うと暖かくして寝る。これに尽きますからね」


「ふん。こんな病ごとき」


 俊介の言葉に、レイラは気丈に首を振って、


「今はただ、魔力が足りてないだけよ。月が昇れば、夜の眷属たるわたしには十分な力が蘇るから……。うぅ……ゲホッ! ガホッ! ゲホガホ!」


「ああっ、大丈夫ですか? レイラさん」


 決め口上の途中で咳き込むレイラの顔を、俊介は心配そうにのぞきこんだ。


「だから言ったじゃないですか。安静にしてなさいと」


「だって、だってぇ……」


 俊介がそう言うと、レイラは涙眼で言葉を濁した。

 俊介は流石に気の毒になったのか、それ以上の叱責はしなかった。

 本当は分かっていた。レイラは久しぶりに俊介と2人きりになれたから。それが嬉しくてはしゃいでいるだけなのだと。体が弱ってるのに無理をして。


 だから、それ以上は何も言わずにいた。

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