14大盛り? いいえ、特盛りです!
「お待たせしましたです~。ペペロンチーノと、いちごパフェになるです~」
間延びした声と共に、注文した品をトレーに乗せて奏が戻ってきた。
「奏ちゃん、さっきはごめんね?」
「ふえ? な、なにがですか?」
料理をテーブルに並べる奏に、恋華は謝罪を述べた。
不意なことに、奏は驚きの表情を見せる。
「瀬戸内先輩。どうして謝るですか?」
「えっと。さっきさ。私ちょっと調子に乗りすぎちゃってたじゃない? だから、奏ちゃんが不愉快な気持ちになったんじゃないかって」
「あう……そ、そんなことないです! 井川先輩と瀬戸内先輩ならお似合いのカップルですし! 私、なんにも気にしてないです! だ、大丈夫です!」
首をフルフルと振りながら、奏は「何でもないアピール」をした。
あまりに噛み噛みで、嘘がバレバレではあったが。
「まあ、気にしてないならいいんだけど」
と、恋華は話を打ち切った。あまり深く追求しないことにしたらしい。
「……にしてもさ。これは少し露骨すぎやしないかね」
と、それぞれの前に置かれた料理に視線を落とした。
まず、恋華が頼んだ『いちごパフェ』。生クリームの上にイチゴが乗ってるだけの、何の変哲も無いパフェだ。問題は俊介のペペロンチーノだが、これがまた大盛りで、大きめの皿に並々と盛り付けされている。そのボリュームは、優に1キロを越えているだろう。もはや、大盛りというより特盛りといってよかった。
「何かの間違いじゃないですか? 僕、大盛りなんて頼んでないですけど」
オーダー間違いだと思ったのか、俊介は冷静に言った。
「あ、あの……これ、サービスです。この間、鍵を探してもらったお礼、ですから……。食べて、くださいです……っ!」
奏は顔を赤くしながら、慌てて去っていった。どうやら間違いやエコヒイキではなく、彼女なりの「お礼」だったらしい。
「ふーん。よかったじゃん、俊介君。サービスしてもらえて」
「い、いや。ちょっと待ってください」
俊介は、皮肉っぽく笑う恋華に対して、
「僕、こんなに食べきれませんよ。少しシェアしませんか?」
俊介は慌てて言った。
正直この店のパスタは絶品なのだが、小食な俊介には並み盛りでさえお腹いっぱいになるのだ。皿から溢れそうな量など、完食できるはずがない。
「いやだよ」
しかし恋華は、俊介の提案をアッサリと却下した。
「それは、俊介君が奏ちゃんから受けたサービスでしょ? 私が貰う権利はないと思うな~」
「そんなこと言わずに。前に、恋人同士でやるシェアは夢だとか、言ってませんでしたか?」
「うん、夢は夢だけどさ。その時イジワルな誰かさんに、食べ物のシェアは感染症を患う危険性があるとか脅されて、断念したんだっけ~」
「い、いや、あの時は……」
尚も遠まわしな非難を続ける恋華を、俊介は手で制した。
「あの時のことは謝ります。僕が悪かったです。ですから、少しでいいので食べてくれませんか?」
「うんうん、素直に謝るのはいいことだね。だが断る」
「……そうですか。まあ、食べ切れなかった時はその時ですし。もしもの時は、テイクアウトできないか聞いてみましょう」
「でもさあ。あのコが懸命に用意してくれたサービスでしょ? 残したら悲しむんじゃないかな~」
「うっ……そういうプレッシャーをかけないでくださいよ」
俊介は冷や汗をかきながら、フォークでパスタをすくった。
恋華はポツリと、
「……私に内緒で女の子と知り合った罰だよ」
「えっ? 何か言いました?」
「なっ、何も言ってないもん! 俊介君はソレさっさと平らげさない!」
何故か赤面しながら、恋華は首を振った。
……?
俊介は疑問に思ったが、再度尋ねるのは止めにしておいた。
「それで? 『妹ウオッチ』の続きは? まさか、和姫ちゃんだけじゃないでしょうね?」
「ああ、そうですね。次は、次女のレイラさんの話をしましょうか。レイラさん、実はこの間風邪を引いて倒れたんですよ」
俊介がペペロンチーノをすすりながらそう言うと、恋華は「えっ!」と声を上げて、椅子から立ち上がった。
「大変じゃない! 大丈夫なの? ここでこんなことしてて!」
「大丈夫ですよ。今はもう、すっかり良くなりましたから」
「そ、そう? それならいいんだけど……」
俊介の言葉に、恋華はホッと息をついて椅子に座りなおした。
その様子に、俊介はクスリと笑みを漏らした。
何だかんだ妹達を敵視していても、恋華は非情になり切れないのだと分かって。
「ともかくそういうことなので。僕はここ数日、風邪で倒れたレイラさんの看病をしていたんですよ。その時の様子でも話しましょうか」
「そうだね。聞かせて聞かせて」
うんうんと、恋華は頷く。
俊介は今から遡るほど5日前、レイラが体調を崩して学校を早退した時のことを思い起こし、話し始めた。




