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6女たらし? いいえ、紳士です!

 喫茶店の中に沈黙が走った。

 こんな所で顔を合わせると思ってなかった俊介と奏も驚いただろうが、事情を知らない恋華は、ただキョトンとするばかりである。

 恋華は先ほどから、俊介と奏の顔を交互に見比べていた。

 何が起きているのか、事態が飲み込めないといった風に。


「どうしてあなたが、ここにいるんですか?」


 沈黙を破ったのは、俊介の一言だった。


「あ、あの! 私、1週間前にここでアルバイトを始めたです!」


 普通に答えればいいものを、奏は緊張のせいか大声で答えた。


「……ふぅーん」


 恋華はそのやり取りだけで何か勘付くものがあったのか、1人頷いていた。


「そうだったんですか。東条さんが『ブルーアップル』で。それは奇遇ですね」


 俊介がそう言うと、「そうですね!」と奏が嬉しそうに返した。


「先輩があの時鍵を見つけてくれなかったら。私、大変な目に合ってましたです」


「そうですか。気にはしてましたけど。間に合ったならよかったです」


「はい! 先輩のおかげですう!」


「……」


 何だか2人はいいムードだ。

 恋華はムスッとしながら俊介と奏の会話に、割り込むようにして入った。


「ねえ、俊介君?」


 そう言って恋華は、俊介に顔をぐいっと近づけた。

 そして、俊介が思わず尻込みしそうなほど、鋭い視線で射抜きながら、


「これは一体どういうこと?」


「れ、恋華さん! 勘違いしないでください! 彼女とは、何にもないんですよ!」


 俊介はそう叫ぶが、恋華は訝しげに睨むだけだった。

 

「……」


 しばらく無言で向かい合っていたが、やがて俊介がため息をつくと、


「一週間前、彼女が自転車の鍵を失くしていたので、僕が見つけてあげたんですよ。それだけのことです」


「本当にそれだけ? 2人とも、なんか仲良く見えるよ?」


「……そんなこと」


 ないですよ、と言いかけたが、途端に奏が泣きそうな顔になったので、俊介は口をつぐんだ。

「こういう展開になるかな?」と、少しは危惧していたが。ここまで修羅場っぽくなるとは、俊介にも想定外だった。


 そんな俊介に恋華は、


「なんていうか、俊介君てさ。天然の女たらしだよね」


「なんですか、それ」


「自然と女を惹きつけるハーレム体質ってこと」


「……そんなわけないじゃないですか」


「現に女の子と知り合いになってるじゃないの! それも、こんな可愛い娘と!」


 俊介は、何も言い返せなかった。

 その様子を見て、恋華はぷーっと頬を膨らませると、


「今度私のいないところで女の子と知り合ったら、あれするからね」


「あれと言いますと?」


「おチンチンちょん切るからね」


「酷すぎませんか!?」


 俊介は立ち上がりながら、恋華の非情な提案にツッコんだ。


「僕、そんな酷いことされるほど悪いことしました?」


「してるっ!」


 恋華はビシッ! と俊介を指差し、


「私という素敵な彼女がいながら、あっちにフラフラ、こっちにフラフラ……。これじゃ去勢されても文句は言えないよ!」


 恋華の大声が、店内中に響き渡った。

 奏は、「えっ」と小さく声を漏らすと、


「……先輩達、もしかして」


「なに?」


「もしかして、付き合ってるですか?」


「!!」


 途端に、恋華の目が光った。


「そうだよ! 私と俊介君は付き合ってるから! もうキスもエッチもした仲だし! 将来は結婚の約束までしてるの! だから、手を出しちゃダメだよ!」


 俊介の右手を握りながら高らかに言った。

 俊介は空いた左手をブンブン振りながら、


「違いますよ。付き合ってるのは確かですけど――それ以上のことは何もしてません」


 と、恋華の言葉を1部否定した。

 しかし、それだけでも奏には十分なショックだったようだ。まるで世界の終わりが来たかのように、絶望した表情を浮かべている。


 そして、オーダーだけ取ると、店内の奥へと去っていった。

 ガックリと肩を落としながら。

 振り向く背中が震えていたので、もしかしたら泣いていたのかもしれない。


「恋華さん。ちょっとやり過ぎたんじゃないですか?」


「……うん。あとで謝っておくね」

 

 俊介が嗜めると、恋華は素直に頷いた。

 今日は他にやることがあったはずなのに奏の登場で、場が一気に重苦しくなってしまった。

 このまま今日はこれで帰ってもいいんじゃないか。

 俊介の考えを見抜いたかのように、恋華はおもむろに口を開き、言った。


「それじゃあ、気を取り直して。さっきの話の続き、しようか」

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