4お礼? いいえ、また今度です!
「え、え!? どうしてそこにあるって分かったですか!?」
少女は目を丸く見開き、大声で叫んだ。
「別に大したことじゃないですよ。運が良かっただけです」
「そ、そそそんなことないです! せ、先輩。まさか、超能力者なのですか……?」
「違いますよ」
興奮しながらピョンピョン飛び跳ねる少女に、苦笑しながら俊介は、
「人間はね。意外と物の下っていうのは探さないんですよ。いつもはポケットに入れているということは、ポケットに入れ損ねて自転車の近くに落とした可能性が高いです。うちの学校のサイクルスタンドは埋め込み型ではなく設置型なので、落とした鍵が金具の下に入り込んでるんじゃないかなと。そう推測したわけです。さらに、キーホルダーやストラップをつけてないということは、完全に金具と色は同化してるわけです。ならば、余計に気づきにくいんじゃないかなと。
まあ、完全にあて推量でしたけどね」
そこまで一気に、俊介はまくし立てた。
要するに少女の証言から、なさそうな場所を排除し、ありそうな場所を重点的に探した結果、見つかったということである。
何てことはない普通の推理なのだが、少女は目を輝かせ飛び上がりながら、
「せ、先輩すごいです! 頭良いです! 天才ですぅ!」
――などと。俊介を神のように崇め始めた。
失くした鍵を見つけてあげただけなのに、それは大変な喜びようだった。
しかし俊介は冷静に、
「時間。大丈夫なんですか?」
「え?」
無邪気にはしゃいでいた少女の動きが、ピタリと止まる。
「さっき、急いでると言いませんでしたか? 何の用事かは分かりませんが……鍵が見つかった以上、早く行かないとまずいんじゃないですか?」
……俊介が鍵を差し出しながら言うと。
少女はみるみる内に、顔を青くした。
「あ――――! すっかり忘れてましたですううううううう! 私、今日からバイト初日でしたあああああ!」
少女はそう叫ぶと、震える手で俊介から鍵を受け取った。
「で、ですけど私。まだお何もお礼してないです……」
「そんなことはいいですから。早く行かないと間に合わなくなりますよ? アルバイトなら尚更遅れるわけにはいかないでしょう」
「で、でも……お礼……」
今度は顔を赤くしながら手をもじもじさせてる所を見ると、何だかこちらの方までいたたまれなくなってくる。
というより、この子は少し腰が低すぎる。
俊介は内心そう思っていたが、表情には出さずに、
「分かりました。お礼は今度必ず受け取ります。なので、今はそちらの事情を優先してください。あなたが遅れると、バイト先の人にご迷惑をおかけするでしょう?」
俊介がそう言うと、少女はもじもじしていた手を止めた。そして、パアッと表情を明るくしながら俊介を熱のこもった瞳で見つめる。明るく元気な恋華とはまるで違う、純粋無垢で素直な笑みだ。
「そ、それじゃあ。お言葉に甘えさせてもらいますです。で、でも、お礼は今度必ずしにいきますから! 待っててほしいです!」
「ええ。期待してますよ。じゃあ、僕はこれで」
と、俊介が自転車置き場から去ろうと背中を向けた瞬間、
「先輩!」
「?」
俊介が振り向くと。
2つに束ねた黒色の髪を風に揺らし、リンゴのように頬を赤く染めながら少女は、まじまじと俊介を見つめていた。
そして、
「わ、私、1年B組の東条奏というです。あの、今日は本当に、ありがとうございました……井川先輩……♡」




