2見過ごす? いいえ、見過ごせません!
――ということで。
恋華から「妹観察」という課題を出され、俊介は1人で帰宅しようとしていた。
なぜ1人なのかというと、恋華は女友達と帰っていたからだ。「一緒に帰れなくてゴメンね?」と何度も謝られ、俊介は「いいんですよ」と言って1人で玄関口まで降りてきていたのだった。
昇降口を出て自転車置き場の横を通り過ぎようとすると、涙声で「ないです~」、「どこいったですかぁ?」、「うぅ……もうダメですぅ。おしまいですぅ」と、非痛感たっぷりの声が聞こえてきた。
……。
見ると一台の自転車の前で、女の子が泣きべそをかいていた。
地面に膝をついて、キョロキョロと辺りを見回している所を見ると、財布か鍵でも無くしたのだろうか。
学校で自分から話しかけることなんて、俊介はほとんどしない。話しかけられれば答えるし協力を求められれば協力するが、それだけのことだ。自分から何かしようなんて気は、あまりなかった。
今も、無視して通り過ぎようと思えば出来たことだが、俊介は――
「あの、どうかしたんですか?」
「ふえ?」
話しかけられ、少女は顔を上げた。
その瞬間、ツインテールの黒髪がピョコンと揺れる。
大きな瞳をさらに見開きながら、少女はオドオドと窺うように俊介を見つめていた。顔立ちは、美しいよりも可愛らしいといったほうが的確だろう。それもそのはず。少女のつけているリボンの色は緑色。つまり、『私立千本桜高等部1年生』となり、俊介の1年後輩にあたるのである。去年までは中学生だったこともあって、着こなせていない制服姿もどこか初々しい。
しかし初々しいと言えども、穢れを知らないその純粋無垢な双眸は――まるで女神の使いであるかのように、清らかなものに感じられた。目だけではない。形の良い鼻やハッキリとした小顔の輪郭など、顔立ち全体が同年代の少女達と比べて格段に整っていた。おそらく、クラスでも言い寄られることが多いのではないだろうか。
「あ、あの……」
そこまで推察したところで少女に話しかけられ、俊介はハッとした。
そして慌てて、
「ああ。別に怪しい者じゃないですよ。僕は井川俊介。2年A組です。君は、1年生ですよね?」
「あ、は、はいです。あの、えっと……」
えっと……からの。
会話が続かない。
ああ、こういうタイプの女子か。
俊介は早くも、話しかけたことを後悔していた。
しかし、乗りかかった船である以上、ここで今更引くわけにもいかない。この子が困っていることは事実なのだ。ならば、一応話だけでも聞いておこう。その上で拒否をされたら、その時帰ればいいのだ。
「緊張しなくていいですよ」
と、俊介は優しく声をかけた。
「ふ、ふえ……?」
「僕は、ただあなたが困ってるみたいなので声をかけただけです」
そう言って一歩だけ近づくと、少女はビクリと肩を震わせた。
臆病というより、その所作は小動物に等しかった。
俊介はなるべくゆっくりとした足取りで少女との距離を縮め、
「何か困ってるんですか? 僕に出来ることなら、力になりますよ」
俊介がそう言うと。
「あ、あの……」
少女はおずおずと言った。
「わ、私……。ちょっと今急いでて……。でも、自転車の鍵を無くして困ってたです。よ、よろしければなんですけど……。一緒に探してもらえますですか?」




