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52暴力? いいえ、お仕置きです!

 結論を言うと、俊介と恋華は、また「偽装恋人」を続けることとなった。

 今さら「全部嘘でした」では、妹達のブラコンぶりは加速する一方だし、恋華もフリーになった途端に、これまで以上の告白ラッシュに襲われることだろう。


 しかし、「元の状態に戻る」のと「全てを許す」というのは、まるで違う。

 要するに、俊介は蹴られまくった。

 何度も頭を下げさせられた上に、ローファーで脛のあたりを重点的に蹴られ、今後は「何かあればすぐ恋華さんに相談します」と確約をさせられ、ようやく開放してもらえたのだった。


 そう、俊介に関してはそれでよかった。

 全て勘違いだったとはいえ、ハメられたようなものだったし。

 誤解も解けたし、もはや言うことはない。

 問題なのは。


 そう、問題なのは――


「マサルうううううううう! ごらああああああああああっっっ!」


 場所は変わって、瀬戸内家。

 恋華は帰宅するとすぐ、リビングで漫画を読んでいた弟に向かって怒鳴った。

 弟の名は瀬戸内勝。

 どう見ても20歳以上にしか見えないが、れっきとした小学生である。


「な、なんだよ姉貴! 怖い顔して!」

 

 その勝は、怒髪衝天の恋華を見て驚きの声を上げた。

 それもそのはず。帰ってきた姉の顔は、まさに般若のごとく、憤怒の炎に燃えていたのだから。長年一緒に過ごしてきた家族でさえ、こんな恋華の表情は見たことないものだった。


「なーにが『な、なんだよ姉貴! 怖い顔して!』よ! このクソバカ愚弟がああああああああああッ!!」


 恋華は弟の発した言葉に対して、怒号を発した。

 そして、勝の服の胸倉をつかむ。

 今、家に両親がたまたまいなかったのは幸か不幸か。恋華は勝を突き飛ばすと、リモコン、マグカップ、新聞紙など、とにかくそこら中にある物を手当たり次第投げまくった。


 勝は、両手で頭をガードしながら、


「ま、マジなんなんだよ! 俺が何したっつーんだよ!?」


「しらばっくれるな! 俊介君――私の彼氏に、変なちょっかい出したでしょ!? 始業式の朝に私と一緒に撮った写真を使って! ネタはあがってんのよ!」


「う……マジ? もうバレたの?」


 うっかり勝は口を滑らせてしまった。

 自分が恋人に成りすましていたことを、本人の口から認めてしまったのだ。


「アンタのせいで、俊介君に変な誤解されたじゃないのよ! このバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカ!! 小学生のくせに何でそんな身長高いのよ! バカ!」


「背が高いのは関係なくね!? ――うぷ!」


 恋華は勝のツッコミを無視して、座布団を思い切り顔に当ててやった。

 みっともなくダウンする勝に、恋華は険しい声をかける。


「いい!? 今度俊介君に余計なことしたら、いくら弟でも本当に許さないんだからね! 覚えておきなさいよ、勝!」


「わ、悪かったって! マジで反省してるよ!」


 床に頭をこすりつけ、土下座しながら勝は謝罪をした。

 その頭を恋華は足で踏んでいたが、やがて飽きたのだろう。しばらくすると、勝の頭から足を離した。


「もういいよ。悪いと思ってるなら許してあげる。私、心優しい美少女だし」


「散々フルボッコにしといて、よく言う……「ああ?」」


 ボソリと呟く勝に、恋華はヌッと顔を突き出して、


「ねえ、勝。なんでこんなことしたのよ?」


 そう。

 それは恋華の気になっていたことだった。

 なぜ自分の「恋人」のフリなんかしたのか。


「なんだよ。別にいいじゃねーか」


「うん。別にいいんだけど」


 と、恋華はハッキリ切り捨てると、


「まあ、理由は大体分かるから。アンタもさ。いい加減『姉離れ』しなさいよね?」


 勝は赤い顔で「ハア?」と声を上げて、


「な、何が姉離れだよ! こちとらいい年だぜ? ふざけんじゃねーっつーの!」


 いい年も何も、まだ小学生でしょうが……と思ったが、恋華はあえて言わないでおいた。

 代わりに、


「……私が俊介君と付き合ってから、勝に全然構ってあげてなかったからね。ヤキモチ焼いたって、正直に言いなさい」


 先ほどの燃えるような怒りは消えて、慈愛に満ちた声で、恋華は言った。

 恋華と勝は歳の離れた姉弟だから、両親が忙しい瀬戸内家では、恋華が勝の母親代わりだった。恋華が中学生の頃は、毎日のように遊んでもらっていた。それが高校に上がると、「大好きな人とまた会えた」と言って、勝とは段々遊んでくれなくなった。


 だから勝は、憎んでいたのかもしれない。

 大好きな姉を奪った俊介を……。


「でもね? やっていい事と悪い事があるでしょ?」


「だ、だってよ! おかしいじゃねえかよ! 今まで、どんな野郎に告られても付き合わなかった姉貴が、あんな冴えない野郎と急に付き合うだなんてよ。何かあると思うだろうがよ!」


「冴えない……?」


 それまで慈母のごとく優しい表情をしていた恋華のこめかみが、ピクリと動く。


「それによ、勉強だけしか取り得もねーし! 友達もロクにいねーみたいだし、マジでダメ男だぜあいつ!」


「ダメ男……?」


 恋華の表情の変化にも気づかず、勝は俊介への悪口をまくし立てた。

 それらの暴言が、そのまま自分の首を絞めてることにも気づかず。


「わかったわ」


 話を聞き終えた恋華はニッコリと、満面の笑みを浮かべて、


「どうやら勝には、もっとキツーいお仕置きが必要なようね?」


「え? え? ――」


 ぎゃあああああああああああああああああ! という叫び声が瀬戸内家に響き渡ったのは、それから5分ほど後のことだった。

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