51駆逐? いいえ、壊滅です!
「どうやら、作戦は失敗に終わったようですわね」
和姫は、耳からイヤホンを外すと呟いた。
井川家のリビング。テーブルにはいつものように和姫、レイラ、美鈴、ましろの4人が座っていた。
そう。和姫は、俊介の鞄に盗聴器を仕掛けていたのだった。そのため恋華と俊介の会話は、全て筒抜けだった。
「まあ、最初からそんな上手くいくとは思ってませんでしたけど。とにかく、また1から作戦を練り直しましょう」
和姫は両手の指を絡ませると、皆に事の顛末を聞かせた。
「だから言ったのよ。そんなんじゃすぐバレるって」
苛立ちげに、両腕を組みながら言ったのは、レイラだった。
彼女は続けた。
「虚構の恋人を仕立てたところで、真実の愛の前には無力なのよ」
「まあ、惜しいところまでいったんだけどねー。やっぱり正々堂々、恋華さんとは戦わないといけない気がするなー」
テーブルの上に両手を伸ばし、美鈴がフーッとため息をつきながら追随する。
「ましろ、むずかしいことよく分かんないけど、にーにーが元気になるならそれでいい。にーにー、さいきん落ちこんでたから……」
「そうですわね……お兄様にも、悪いことをしました。帰ってこられたら、わたくしの方からキチンと謝罪しておきますわ」
涙を浮かべるましろの頭を、和姫は優しく撫でた。
ましろはくすぐったそうに目を細める。
「にーにー、どこにも行かない?」
「ええ。どこにも行きませんわ」
「ぜったい?」
「絶対ではありませんが、多分」
「ぜったいじゃないんだー……」
分かりやすくガックリと肩を落とすましろ。
しかしそれは、和姫にとっても同じことであった。
盗聴器から聞こえてきた恋華の声からは、ただならぬ気配というか、迫力のようなものを感じた。恋華と俊介には、何かある。
「ねえ、ヒメちゃん。ひとつ聞いていい?」
考えに耽る和姫の思考を中断したのは、美鈴であった。
和姫は慌てて答える。
「な、なんでしょうか?」
「どうして、恋華さんの行動を注意しようとしなかったの? 盗聴器で聞いた限りだと、腕を組んだり抱きついたりしてたよね? 『お試し恋人』のルールを破ってるじゃない。厳しくとれば、恋人失格にだって出来たはずだよね?」
美鈴は和姫に詰め寄った。
確かに、敵の落ち度を追求しないなど、和姫らしくない失態だ。
「……」
和姫は、一瞬だが尻込んだ後、
「瀬戸内恋華は、わたくし達と同じなのだと感じたからですわ」
「同じ?」
「そう、同じですわ。お兄様を深く愛して、自身もお兄様から愛されようとしている。何も変わりはありません――ですから、美鈴ではありませんが、もう少し正々堂々と戦おうと思ったのですわ。たとえ、どちらが勝利しようと。笑って許し合えるような……。甘いでしょうか?」
「……それは」
「甘いわね」
美鈴が喋るより先に、レイラが口を開いた。
レイラは眼帯が巻かれていない方の赤い左目で、和姫をキッと睨んだ。
「そんなことだから、瀬戸内恋華に出し抜かれるのよ?」
「そう……ですわね。ぐうの音も出ませんわ。レイラのように、非情になりきれていなかったのでしょう」
「……ふん。これだから愚かなる種族は」
口では強がっているものの、レイラも恋華に肩入れし出していた。
落ちこむ恋華の声を聞いて、少しではあるが同情していたのである。
このまま恋華が情に訴えるようなことをしてきたら、もしかしたらではあるが、恋華のことを認めてしまうかもしれない。
「――今日の会議はこれでおしまいにしましょう。何だか、湿っぽくなってしまいましたわ」
レイラの不安を打ち切るように、和姫は会議の終了を宣言した。
なんてことはない。和姫もまた、恋華に対して不安を感じていたのである。
それはつまり、
『俊君と……せっかくまた会えたのに……』
恋華の、この発言に対してである。
和姫は今まで、恋華のことを、ただの俊介のクラスメイトぐらいにしか考えていなかった。学園のアイドルではあるが、俊介のことなど何も知らない、頭の軽いだけの女だと。
――しかし、実際にはそうじゃなかった?
「どうしたの? ヒメちゃん?」
「なによ、ボーッとしちゃって。魔界からの電波でもキャッチしてたの?」
「ヒメねーねー、ぐあい悪そうだよ? おなかいたいの?」
美鈴、レイラ、ましろの3人に話しかけられ、和姫はハッと我に返った。
それと同時に、今まで感じていた違和感の正体をこう結論づけた。
俊介と恋華は単なるクラスメイトではない。
以前にどこか、それも、相当昔に出会っている。
「ヒ、ヒメちゃん、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですわ!」
美鈴が心配そうに尋ねると、和姫は努めて明るく答えた。
「さあ、会議はこれでお開きですわ。本格的な話はまた明日からにしましょう――瀬戸内恋華壊滅作戦について」




