49浮気? いいえ、浮気じゃありません!
――放課後。
約束したとおり俊介は、恋華と一緒に屋上へ来ていた。
思えば、全ての始まりは屋上からだった。
いきなり呼び出され告白されて、ずいぶん怪しんだものだった。
しかも、恋人は恋人でも「偽装恋人」になってくれという。ますますもって、意味が分からなかった。
3日前には告白をされた場所で、今度は別れ話をする。皮肉なものだ。
俊介はチラリと腕時計を見た。時刻は午後4時。茜色をした曇り空の下からは冷たい風が吹いている。あいにくの悪天候のためか、屋上には他に誰もいないのは幸運だった、と俊介は思った。
「……」
2人は無言で向かい合ったまま、すでに5分が経過しようとしていた。
流石にたまりかねた俊介は口を開いた。
「それで? 話ってなんですか」
思わず険のある言い方になってしまったが、気にしてられなかった。
恋華の言う「話」が気になって仕方なかったからだ。自分はチャラ男と付き合ってるので、俊介君とはもう付き合えません。そんなことを言われたら――
「話っていうか、聞きたいんだけど。俊介君、どうして私のこと避けてるの?」
しかし恋華は謝罪どころか、むしろ怒気を含んだ口調で言った。
本当に何も身に覚えがないという顔で。これが演技だとしたら相当なものだ。
「恋華さん、僕に隠れて男の人と付き合ってますよね?」
「はあ!?」
俊介がそう言うと、恋華はキレ気味に返した。
「またそれ!? だから言ったじゃん! 私は、俊介以外の男の子と付き合ったことなんてないって! 何回言ったら信じてもらえるの!?」
「はあ?」
一体何を言ってるんだ、と俊介は首を傾げた。
チャラ男と恋華が親密な関係にあることは明らかなのに。
まさか、証拠がないと思ってしらばっくれているのか? チャラ男が写メを俊介に見せたことも知らなかったとか。どちらにしても、何故自分が怒られないといけないのか。裏切られたのはこっちのほうなのに、と。内心で俊介は憤慨していた。
「……」
「……」
またもや、静寂が空間を支配する。
屋上には、吹きすさぶ風の音しか聞こえなくなった。
2分ほど続いた沈黙を破ったのは、恋華のほうだった。
「根拠はあるの? 私が浮気してるっていう」
「根拠も何も、直接あなたの彼氏から言われましたよ」
恋華は腑に落ちないといった表情で、
「そんなの、ただの頭のおかしな人でしょ。私の彼氏を名乗ってる人なんて、いくらでもいるよ? まさかと思うけど、そんなの一々信じてるわけじゃないでしょうね?」
「……」
確かに俊介も、最初はまるで信じていなかった。
しかし、証拠は確実にあったのだ。
「恋華さんとその人が、恋華さんの家の前で、金髪の男と仲良く並んでる写真を見せられました。写真は精巧で、とても合成とは思えないような出来でした。それでもまだ、浮気はしてないと言えますか?」
「しゃ、写真……?」
俊介の言葉に、困惑したように大きく眼を見開いた。
俊介は続けて、
「そうです。しかも、朝に撮られた写真でした。ご丁寧に腕まで組んでね。これでもまだ、言い逃れをしますか?」
話しながら俊介は、どんどん嫌な気持ちになるのを感じていた。
違う……。
こんな話を、したいわけじゃないのに。
言葉は次から次へと止められなかった。
「もう隠せませんよ。あなたは他に恋人がいるのに、僕に恋人役を持ちかけた。偽装であれ何であれ。要するに、嘘をついてました。これは立派な契約違反でしょう」
「はあっ!? 私知らないんだけど、そんな写真もそんな男も!」
「まだ言いますか……」
俊介は自らの拳をギュッと握り締めた。いっそ認めてくれれば楽になれるのに。どうして正直に言ってくれないんだろうか。それほどまでに、自分のことを信用していないんだろうかと。
「私、本当に知らないから! 信じて、俊介君!」
「では、あの写真はどう説明しますか?」
「写真? 見せてくれないとわかんないよ。ていうか、撮ってないし!」
「そうですか……。分かりました。残念ながら、話はここまでですね」
「待ってよ! 私、まだまだ俊介君に言いたいことがいっぱいあるんだから!」
恋華は立ち去ろうとする俊介の背中に腕を回し抱きつくと、
「わかんないよ! 私! 俊介君の言ってることが!」
「では、浮気してないという証明は出来ますか?」
「え……それは……」
「……証明出来ないんですね?」
「違うよ! 俊介君の情報が足りなすぎるんだよ! もっと、その人について知ってることはないの? それが分からないと、こっちも答えようがないよ!」
「情報、ですか……」
そう言われても、俊介もそんなにチャラ男と話したわけではない。
それでも、何とかチャラ男の言ったこと、容姿について出来るだけ詳細な記憶を思い起こす。
すると、あることを思い出した。
「そういえば、首元から星型のペンダントをぶら下げていましたね。こう、十字の。2回会いましたけど2回とも。これで何か分かりませんか?」
「え……? 星型のペンダント……? それ、もしかして……」
恋華はハッと思いついたように、鞄の中をゴソゴソとまさぐった。
そして中から携帯を取り出し、画面を見せると、
「ねえ! それ、もしかして、こんなヤツじゃなかった!?」
恋華が見せてきたのは、数日前にチャラ男が見せた写真と全く同じものだった。
俊介は慌てて頷くと、
「え、ええ。そうですよ。なんだ、心当たりあるんじゃ――」
「あー! やっぱりそうかーっ!」
「あの、何言ってるんですか? そもそも、この人は誰なんですか?」
「も~~~~! 俊介君のばかばかばかあああああああああああああああ!」
俊介が尋ねても、恋華は頭を抱えて叫ぶばかりだった。
俊介には訳が分からなかった。
チャラ男と恋華の関係とは、一体何なのか。
俊介の疑問に呼応するように、恋華はガバッと頭を上げると、大声で、
「これ、私の弟だよ!!」




