39忠告? いいえ、警告です!
俊介が、自宅への帰り道を歩いている時だった。
すっかり陽は暮れ、暗くなった道路を電灯が照らしていた。
恋華に忠告したとおり、すっかり寒くなっている。俊介が足早に歩いていた時。
前方から黒くて大きな影が現れた。
いや、現れたというよりは、立ちはだかったと言った方が正しいかもしれない。
「よお」
その人物は軽薄に挨拶をした。
俊介はその男を一目見ただけで嫌な印象を持った。まず目を引くのは180センチはあろうかという長身。チェーンが巻かれた青のデニムを履いていて、大きく胸元が開いた黒のYシャツを着ている。
首には、星型のペンダントがぶら下がっていた。髪型は金髪で、ワックスでガチガチに固めたようなヘアスタイルだった。鼻梁は高く、細面でそれなりに整った容貌をしているが、鋭く獰猛な目で全て台無しになっていた。
早い話が、ただのチャラ男である。
少なくとも、真面目に生活を送っている男子にはとても見えない。
問題なのは、そんな人間が俊介に何の用があるかということだが――
「なあ、アンタ。井川俊介君だろ?」
俊介は名前を呼ばれて驚いた。
なぜ面識もない男が、自分の名を知っているのか。
「おい、聞いてんのかよ? 井川俊介で間違いないかって聞いてんだよ」
男は苛々したようにもう一度尋ねた。
俊介は男の前に歩み出た。
「人に名前を聞く時は、まず自分からって習いませんでしたか?」
俊介がそう言うと、男は呆けたようにポカンとした。
色々と聞きたいことはあるが、とにかく1番知りたいのは男の名前だ。それが分かれば、最悪警察沙汰になっても対処出来る。
「アンタ、瀬戸内恋華と付き合ってるんだって?」
しかし、男は俊介の質問とは全く関係ないことを言った。
「なあ、恋華って良い女だよなあ。スタイルもいいし、気立てもいいし、なんてったって顔がいい。もう寝たの?」
男はいやらしい笑いを浮かべながらそう聞いてきた。
俊介は苛立ちを誤魔化すこともせず、
「あなたには関係ありません」
「関係あるんだよ、それが」
さっきまでの薄ら笑いを消し、男は低い声でドスを効かせながら言った。
俊介はその豹変ぶりを見て思った。この男はふざけているのではなく、本気なのではないかと。さっきまでの薄っぺらな態度でこっちが本性だとしたら、この男は案外食わせ者だ。
「僕と恋華さんが付き合ってたら、どうだって言うんです?」
俊介の態度も釣られて喧嘩腰になっていた。
何故だか分からないが、この男と話していると苛々してくるのだ。
「へえ、もう名前で呼び合う仲なんだ」
男はニイッと笑って、
「てか、そう警戒すんなよ。別にアンタにゃ何もしないって。今日はただ忠告……いや、警告しにきただけなんだからさ」
「警告って何ですか? 帰りたいんで早くしてくれません?」
俊介はもう男の顔すら見ずに、吐き捨てるように言った。
「ケッ、つまんねー野郎だな。まあ、いいや」
男は俊介の前にぬっと顔を突き出した。
そして、言った。
「恋華は俺のモノなんだよ。だから、勝手に手え出すんじゃねーよ」
「なっ……どういう意味ですか?」
「へっ、さあな」
俊介の質問に、男は答えなかった。
そして、俊介の横を通り過ぎてそのまま去っていった。
――恋華は俺のモノなんだよ。
1人残された俊介は、その言葉を思い返した。
おそらくあの男は、昔恋華にフラれた男の内の1人だろう。恋華と付き合い始めた俊介への嫌がらせ。
そう断ずるわけにもいかなかった。大体そんなことをして何の意味がある?
しかし、俊介はそう思いこむことにした。
そうでなければ、とても冷静ではいられなかったからだ。
「あの人は一体……?」
夜道に佇む俊介の頬に、秋の風は冷たく吹きすさんでいた。




