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37悲しい? いいえ、悲しくありません!

「……俊介君、孤児だったんだ?」


 恋華の問いかけに俊介は「ハイ」と答えて、


「本当の両親のことは、よく知りません。僕が物心つく前に事故で亡くなったと聞いています。他に親戚はいなかったそうです。それ以来、僕は孤児院にいたんですよ。そんな僕を養子にして引き取ってくれたのが、今の井川家なんです」


 衝撃的な過去のはずなのに、事実のみを俊介は淡々と語った。


「ですから、家族に対しても敬語なんです。拾ってもらった恩を忘れないようにね。身内なんて1人もいなかった僕の家族になってくれたんですから。もちろん、皆さん僕に大変良くしてくれてます。僕は、井川家の皆さんに感謝してるんです。妹達は血の繋がりがないからってアプローチをしてきますけどね。僕は妹達には、もっとまともな恋愛をしてほしいと思っています。こんな、どこの馬の骨ともわからない、義理の兄なんかに恋してほしくない……」


 そこまで喋って、俊介はハッとなった。どうやら、自分で思う以上に興奮して、余計なことまで話しすぎてたようだ。事実、恋華は、どう話しかけていいのか分からないといった風に、目を潤ませながら俊介を見ている。俊介は、コホン、と1つ咳払いをし、


「と、とにかく。そういうわけです。孤児だからといって何も寂しくはないんですよ。そもそも孤児院だって、暴力とか、差別とか、いわゆる『虐待』を想像されるでしょうが、そんなことはなかったんです。確かに粗暴な人間もいますが、それ以上に優しい人も沢山いましたし」


「あー、それ分かる!」


 俊介の説明に、恋華は賛同の意を示し、


「孤児院って、ドラマとかのイメージですっごく嫌なところってイメージだけど、全然そんなことないよね! 意思は尊重されるし、結構自由とかあるし」


「は、はあ……。理解してくださって、ありがとうございます」


 意外な恋華からの肯定に、俊介は面食らいながら礼を述べた。

 俊介は恋華の家庭のことを、よく知らない。弟が1人いることくらいか。クラスでの噂は、どこぞのお城に住んでいるお嬢様だというものだった。いざ実物を見ると、その本性との違いには思わず苦笑してしまうが。


「でも俊介君――私のことは全然思い出してくれないんだね……」


「えっ、何か言いました?」


「いーえ、なんでも!」


 俊介が聞き返すと、恋華は怒ったようにそっぽを向いてしまった。


「鈍感で記憶力のない俊介君のことなんか、知りません!」


「それはないでしょう。僕は教科書や授業の内容は全て記憶してますよ?」


「それはただ、物覚えが良いってだけじゃない。私が言ってるのは、俊介君はもっと覚えてないといけない大事なことを、全然覚えてないってことよ!」


「はあ……」


 理不尽な恋華の言い分に、俊介は言い返そうとして止めた。

 確かに俊介も、恋華とは昔から会っていたような気がしていたのだ。

 しかしずっと孤児院にいた俊介に、恋華と知り合える機会なんてあるわけが……。


「それよりさあ、もう1個気になることがあるんだけど、聞いていい?」


「え? 何ですか?」


 考え事にふける俊介に、ふいに恋華は尋ねた。


「俊介君ん家って、5姉妹なんでしょ? 1人足りなくなかった?」


「!?」


 恋華のその言葉に、俊介は硬直し足を止めた。

 その顔は、まるで触れられたくないことに触れられたような。

 

「……」


 俊介は止めていた足を踏み出し、また歩き出した。恋華もその後ろに続く。いつもならどんな質問にもスラスラと答えていた俊介からは、想像もつかないような歯切れの悪さだった。


 ……………………しばらく無言が続き。


「ふう。やはり、隠してはおけませんか」


 と、俊介は諦めたように、嘆息まじりに恋華に言った。


「それは3女――緋雨(ひさめ)さんのことですね。彼女は留学してて、今は海外にいるんですよ。なので、日本にはいません」

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