36実妹? いいえ、義妹です!
――夜の舗道。
俊介と恋華は、肩を並べて歩いていた。
恋華の自宅は俊介の家から歩いて30分ほどの場所にあるという。ならば送り迎えは大げさだったかなと俊介は思ったが、口には出さなかった。恋華には、聞きたいことが沢山あったからだ。
「一体あなたは、何を考えているんですか?」
率直に俊介は、恋華に向かって尋ねた。
「さあ。何を考えているんだろうね?」
俊介の問いに、恋華は肩をすくめて答えた。
「あなたは、妹達に勝とうと思えば勝てました。勝てる勝利を、みすみす逃したんです。何らかの理由があると考えるのが妥当でしょう?」
「理由はない、とは考えなかったのかね、俊介君」
「理由がないなら、勝負を受ける意味がありません」
尚もはぐらかそうとする恋華に、俊介は非難の目を向けながら、
「お願いします。一体何を考えているのか、教えてくれませんか?」
「うーん」
真剣な俊介の問いに、バツが悪くなったかのように恋華は頬を指でかいた。
「ぶっちゃけ、本当に理由はないんだよね。強いて言うなら、『楽しかったから』かな? 妹さん達には悪いけど、私は結構勝負を楽しんでたんだよね。だから、終わらせたくなかった」
「そんなことの為に……?」
俊介が呆れ顔で呟くと、「ハハッ」と恋華は乾いた笑い声を上げる。
「理屈っぽい俊介君には分からないかもしれないけどね。世の中には勝敗なんかより、もっと大事なことがあるのだよ」
「ええ、僕には分かりませんね。大体、『偽装恋人』を成立させるためには、妹達に勝利することが絶対条件じゃないですか。それなのに、あなたはわざと負けてその権利を手放そうとした。分かれと言う方が無理でしょう」
話せば話すほど、俊介は混乱してきた。
要するに恋華は、勝利への執着は無かったということになる。それが本心か建前かは別として。それが俊介には理解不能だった。妹軍団のように「勝てばよかろうなのだ~」とする方が、よっぽど分かりやすい。
「やっぱり、僕には分かりませんよ。そんな風には、考えられないですから」
「……うそつき」
恋華は不意に真剣な顔つきになり、鋭い口調で俊介を咎めた。
「うそつきって、何がですか?」
「私が美鈴ちゃんと腕相撲した時、美鈴ちゃんのことを応援したじゃない。あれだって、俊介君の都合を優先するなら、私のことを応援するべきでしょ? なのに、俊介君は美鈴ちゃんを応援した」
「それは……」
俊介が言いよどむと、恋華は頬を緩めた。
そして、
「ダメだよ、嘘ついちゃ。俊介君だって、本当は分かってるはずだよ。彼女達はブラコンだけど、自分も結構シスコンだってことに」
「そんなことありませんよ。あなたが手加減して相手なんかするから、可哀想になって美鈴さんのことを応援したくなっただけです」
「手加減?」
「あなた、本当は左手の方が握力強いでしょう? 学生鞄を持つ手は左手ですし。それが、美鈴さんが右利きだと分かると右手勝負に切り替えた」
俊介がそこまで推理すると、恋華はほーっと驚いたように、
「……分かってたんだ。完璧な演技だと思ってたのに」
「バレバレでしたよ」
「ていうか、こっちもずっと気になってたことがあるんだけど、聞いていい? どうして俊介君は、妹さん達にまで敬語を使うの? 幾らなんでも礼儀正しすぎない?」
「ああ、そのことですか」
俊介はすぐには答えず、代わりに空を見上げた。つられて恋華も空を見る。すっかり暗くなった夜空には、満天の星々が煌いていた。しばらく俊介は星空を見上げていたが、ふいに恋華へ視線を戻すと、
「質問に答えましょう」
ゆっくりと、俊介は恋華に向けて言った。その間は、俊介の話づらさを現した間だったのだ。恋華はそれに気づいたのか頬を引き締め、佇まいを直す。
「僕が妹達にまで敬語を使う理由――それは簡単です。僕は孤児なんです。だから彼女達とは、一切血のつながりがないんですよ」




