30手加減? いいえ、しません!
「力比べは分かったんだけど」
向かい合いながら、恋華は首を傾げながら美鈴に尋ねた。
「どうやって力比べすればいいの?」
「そうですねぇ……ここはシンプルに、『腕相撲』で決めましょう!」
「腕相撲? でもいいの? 私は美鈴ちゃんより3つも年上なんだよ?」
美鈴は中1の13歳。恋華は高2の16歳。確かに、このルールでは恋華有利かもしれない。
「バカにしないでください! 愛するお兄ちゃんのためなら、あたしはアームレスリングのチャンピオンにだって勝ちます!」
「バカにはしてないよ。ただ、私に有利すぎて不公平だなって思っただけ」
「それでいいんです。ただでさえ4対1なんですから」
と、美鈴は急に下を向きながら、恥ずかしそうに、
「あ、あたしだって、ちょこっと卑怯なことしてるって自覚はあるんです。4人がかりで、しかも自分達に有利な種目で勝負を挑んでるんですから。だから、せめてこれぐらいのハンデはあげます」
「卑怯じゃないよ。私の方が年上なんだから別に気にしなくていいって」
「分かってます。あたしはそうしないと気が済まないだけです」
「……そっか。美鈴ちゃんって、良い子なんだね」
俊介はあれっと思った。恋華の顔が、何だか嬉しそうに見えたのだ。
和姫もレイラも、当然ながら勝ちに来ているので、自分に有利なルールを持ちかけてきている。それが美鈴だけは、正々堂々と戦おうとしているのだ。恋華には、それが嬉しかったのかもしれない。
「じゃあ、いきますよ。恋華さん、利き腕はどっちですか?」
「利き腕?」
恋華はきょとんとしながら両手を見つめて、
「両利きだから特に気にしたことはないけど……強いていうなら左手かな?」
「…………左手。じゃ、じゃあ、左手で勝負してあげます!」
ためらいがちに答える美鈴に、俊介はハッとなった。
美鈴は、右利きなのだ。
「あ、ごめん。やっぱり右手の方がいいや」
しかし恋華は、すぐに前言を撤回した。
「重い物持つのは右手の方が多いんだよね。コロコロ変えて悪いけど、やっぱり右手で勝負してくれない? お願い、美鈴ちゃん!」
恋華が申し訳なさそうに頭を下げて頼み込むと、
「……そ、そうですか。それなら、しょうがないですね!」
美鈴はホッとした顔で、恋華の提案を受け入れた。
――おそらく、右手の方が強いというのは嘘だ。
俊介はそう判断した。ならば最初から右手と言うはずだ。おそらく、美鈴が左手の勝負に一瞬尻込みしたのを見て、即座に右手での勝負に切り替えたのだろう。それも、ハンデをつけていることを悟られないように頭を下げてまで。恋華もまた、真っ直ぐな気持ちを持った女の子なのだ。
「じゃあ、そろそろやろうか。準備はいい?」
テーブルの上に右ひじを乗せながら、恋華は言った。
そして、その手を美鈴はギュッと握る。
「もちろんですよ。手加減はなしですからね? お兄ちゃん、立会いをお願い」
「分かりました」
俊介はふたりの間に立ち、握り合う手の上に、自分の手を乗せた。
もはや何も言うことはない。
俊介はこの対決を、ただ黙って見守ることにした。
そしてパッと手を放すと、試合開始の宣言をした。
「それではいきますよ? ――レディ・ゴー!」




