23勝者は? いいえ、決められません!
恋華が出してきたのは、洋風のチーズハンバーグだった。とろけるチーズや、ぐつぐつ煮えたぎるデミグラスソースに至るまで、和風ハンバーグを作った和姫とは完全に対照的だった。
俊介はナイフで切れ目を入れてみた。中からとろっとチーズが出てくる。食欲をそそるデミグラスソースの濃厚な香り、中から溶けて出てきたチーズの見栄え。控えめな和姫のハンバーグとはまるで違っていた。
俊介が早速食べようとすると、恋華が俊介の前に歩み出て、
「それじゃあ、俊介君」
「はい?」
恋華のニッコニコ顔に、俊介は嫌な予感がしながら返事をした。
「今から、美味しくなる呪文をとなえたいと思います」
「……はい?」
「美味しくなーれ♡ 萌え萌えキュン♡」
両手を合わせ、右側で2回、左側で2回。最後に料理の前で手でハートマークを作りながら、恋華はそう「提唱」した。
「……」
俊介は口を開けたまま絶句した。よく分からないが、これが美味しくなる呪文らしい。しかしまあとりあえず、
「えーっと。もう食べていいんですか?」
そう尋ねると、恋華は耳たぶまで顔を赤くしながら、
「な、なによー! 人が恥ずかしいのを我慢して一生懸命やってあげたのに! 一緒にやるとか『ぴぎゃー! かわいいー! 美味しく食べれそうー!』とか、いっぱい言う事あるでしょうに!」
「そこまで高度なリアクションを期待されても……」
なぜか怒ってる恋華は無視して、俊介はハンバーグを食べることにした。
俊介は一口サイズに切ったハンバーグをフォークに刺し、口元まで運んだ。
「それじゃあ、いただきます」
俊介がそう言うと、妹達もハンバーグを食べ始めた。
恋華はゴクンと、咀嚼し終えた俊介の顔をまじまじと見つめ、
「どう? 美味しい?」
「そうですね……」
俊介は今飲み込んだ肉片の味を反芻してみた。口に入れると、肉汁とチーズがジュワーッと溢れ出てきた。デミグラスソースも、赤ワインの香ばしさと肉の風味が合っていて、完全一体の美味しさだった。
「はい。凄く美味しかったです」
「わぁい!!」
「洋食屋さんで作ったのと遜色ないレベルでしたよ」
というよりプロの三ツ星レストラン並だ、と俊介は思っていた。
こうなってくると、面白くないのはただ1人。
「そんな馬鹿な!」
和姫は俊介のお皿をひったくると、手早く切って口の中に入れた。
まるでワインを味わうようにせわしなく口を動かすと、静かに飲み込み、そして言った。
「……お、美味しいですわ……」
「ん? 和姫ちゃん、今なんて言ったのかな?」
「え? あ、いや……わたくしほどではありませんが、そこそこやりますわね」
恋華が嬉しそうに尋ねると、和姫は呆けたように答えた。
「ヒメねーねー……元気だしてね」
「ヒメのも美味しかったと思うわ。まあ、互角でいいんじゃない?」
ましろとレイラが、神妙な面持ちで和姫を励ます。
どうやら、彼女達も気づいているようだ。
どう考えても、恋華の方が美味しかったということに。
残る審査員は美鈴1人だが、彼女はどうやら空気が読めなかったらしく――
「え? なんでなんで? 恋華さんの、すっごく美味しかったじゃない! ヒメちゃんのハンバーグより全然……」
――ギロッ!!
「……はっ!?」
和姫から殺気を込めた鋭い視線に睨まれて、美鈴は息を飲んで押し黙った。
レイラもましろも非難の目を美鈴に向ける。幾ら何でも、味方の陣地で敵を応援するとは何事だ! という糾弾がその視線に込められているようだ。
「あ、あはは。で、でもぉ~~」
急に、美鈴は白々しく笑って、
「恋華さんのも美味しかったと思うけど、やっぱりヒメちゃんには敵わないんじゃないかなぁ~?」
「え~? そうなの~?」
あからさまに態度を変えた美鈴に、恋華は軽く不満の声を上げる。
「リアクション的に、私のハンバーグも負けてないと思ったんだけどな~。まあ、文句言ってもしょうがないか。それで? 俊介君は、どっちの方が美味しいと思った?」
「お兄様! どっちですの!?」
ニッコリと笑いながら聞く恋華に、ぐいぐいと詰め寄る和姫。
その様子を不安そうに見守る妹軍団。
俊介は一寸考えるそぶりを見せると――
「……引き分けでいいんじゃないでしょうか」
俊介が下した結論がこれだった。偽装恋人の手前、恋華を裏切るわけにはいかない。かといって、普段家事全般をやってくれている和姫を切るのも心が痛む。それならば、双方互角で痛み分けという形が、もっともこの場を収めるにふさわしいと判断したのだ。
恋華VS妹軍団。
記念すべき第1戦は、引き分けという微妙な形で終わったのだった。




