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55出来ない? いいえ、出来ます!

 恋華と屋上で話をするのは、これで4回目だ。

 大抵はロクな話ではなかったが。俊介と恋華の関係が始まった、特別な場所なのだ。

 今度はここで、俊介の方から告白をする。なんとも数奇な縁だ。


 妹軍団からのアドバイスを受けてから翌々日。俊介は授業が終わった放課後、恋華を屋上に呼び出していた。


 ハッキリ言って、自信があると言えばウソになる。何しろ、恋華には一度フラレているのだ。しかし、その為に妹軍団から、様々なアドバイスを受けて、色々なイメージトレーニングまでしたのだ。


 例えば、


『あたし思うんだけど。告白する時って、ムードが大事なんじゃないかなあ』


 俊介はまず、美鈴に言われたことを思い出していた。

 俊介にフラレて一番泣いていたのは彼女であったが、この時にはもう元気を取り戻していた。

 

 俊介は美鈴に尋ねる。


『ムードって言われても……。正直、場所や服装なんて関係なくない? 普段通りの方がお互い気負わなくていいと思うけど』


『あっまーい! お兄ちゃん、砂糖とハチミツとシナモンスティックを入れてかき混ぜたミルクティーのように甘いよ!』


 美鈴は両手をブンブン振りながら俊介の言葉を否定した。コーチを受ける身としては大変恐縮なのだが、その動作はあまりにも子供っぽすぎて、思わず大丈夫なのかと不安になってしまう。


『いいのお兄ちゃん!? 恋華さんにフラレちゃっても!』


『いや、それはよくないけど……』


 言われて、俊介はハッとなった。美鈴はたった今フラレたばかりだというのに、自分と恋華の間を取り持とうとしているのだ。どんな意見でも、きちんと聞かなければならない。


『お兄ちゃんの言うことも最もだけどね。告白っていうのは、いわば非日常なんだよ。女の子にとっては一大イベントなんだから、それに相応しい舞台をセッティングしないと。お弁当だって、暗い部屋で食べるより青空の下で食べる方がおいしいでしょ? それとおんなじだよ』


『ふむ……』


 言い方は子供っぽいが、言いたいことは分かる。

 それに、5姉妹の中では、美鈴の考え方が一番恋華に似ている。ある意味では、一番貴重なアドバイスかもしれないのだ。


『それにね。お兄ちゃんはもうちょっと、身だしなみを考えた方がいいなじゃないかなあ』


『身だしなみ?』


『お兄ちゃん顔はいいんだから、ワックスで髪を整えた方がいいんじゃない? 髪型って結構重要だよ? オススメの美容院紹介したげるから、行ってきなよ……。あと、香水も少しつけた方がいいかもね。でも、つけすぎはよくないよ! 逆に匂っちゃうからね』


 ふむふむ、と俊介はメモを取りながら頷いていた。


『まあ恋華さんは、見た目で落ちるタイプじゃないと思うけどね。でも好きな人が自分のためにオシャレしてる姿を見たら、女の子は結構ときめくものなんだよ? お兄ちゃんなんて、あたし達の前じゃほとんど同じ服じゃない』


 じろっと美鈴がジト目で睨んでくる。


『いや、それは、まあ』


 俊介は、ハハハ、と乾いた笑いを発した。

 美鈴は瞳をらんらんと輝かせながら、


『さあ! そうと決まったらお兄ちゃん! 究極のモテ男になるために、街に出てコーディネートだよ!』


『え? 今?』


『今!!』

 

 身だしなみを整える。俊介も注意はしているが、男の自分より女の子に見てもらった方がいいだろう。ということで、

 張り切りながら駆け出す美鈴に連れられ、俊介は外に出るのであった。

 以上が、妹軍団から授けられた『告白大作戦』の一端である。


「待たせちゃってごめんね? 俊介君」

 

 俊介が振り返ると、燃えるような夕焼け空の下、恋華が立っていた。


「こちらこそ。今来たところですから」


 俊介はそう言ったが、もう40分はここで待っていたのだ。初秋の屋上の風は、サーモグラフィーなら全身水色になりそうなほど寒かった。


「そお? なんか俊介君、寒そうに見えるよ?」


 寒さで顔を赤くする俊介に恋華は、


「じゃあ私のパンツを見たら、少しは体温上がるかな?」


 そう言ってスカートの裾をめくり、パンツを見せようとする。


「や、止めてください! 痴女ですかあなたは!」


 俊介は慌ててその手を抑えた。やはり恋華は手ごわい。気を抜いていると、すぐに向こうのペースに持っていかれてしまう。


「あ、あれ……俊介君」


 距離が近くなった顔を、恋華が覗き込む。


「髪、セットしてきたんだ? いつもは何もつけないのに。香水もつけた? 何か田舎のホストみたいだよ」


「もう少し聞こえのいい例えを言ってほしかったですね」


「冗談冗談。でも、本当にカッコいいよ。俊介君にしては、センスがいい」


「僕にしては、は余計です」


 俊介は口をすぼめるが、実際はファッションのことなど何も分からず、妹軍団総出で手伝ってもらったのだ。偉そうなことは言えない。


「そんなことより。呼び出した理由、説明してもいいですか?」


「……ん」


 恋華は硬い表情で頷いた。


「分かってるよ。奏ちゃんのことでしょ? 最近すごく仲がいいみたいだし。私が言ったように、奏ちゃんと付き合うんだよね?」


「そのことですが……」


 ここで俊介は、ましろのアドバイスを思い出す。

 あの日、ウインドウショッピングや美容室巡りをした帰りである。5姉妹と俊介は再びリビングに集まると、今度はましろが口を開いたのである。


『やっぱりね、ましろ思うの。にーにーは告白するまえに、恋華おねーちゃんとちゃんとお話したほうがいいって』


『ふむ……それは、もっともだね』


『まあ、あの恋華さんのことですから、すぐ煙に巻こうとする可能性がありますけど』


『あの邪神族の末裔に、運命の環の介入を? それは少し危険ね』


『ややこしいですな。大和男児たるもの、小手先の話術は無用。女子を強引に我が物にするぐらいでなくては。わたくしめなら、すぐに……』


『めーっ! 緋雨ちゃんは黙って―!』


 俊介、和姫、レイラ、緋雨、美鈴と、それぞれがそれぞれの反応をした。

 すると、ましろは、


『えっとね。ましろ、あたまわるいから、よびだしたりゆうとか、奏おねーちゃんのこととか、きちんとお話するべきだとおもう。きっと、恋華おねーちゃんも混乱しちゃうとおもうから』


『なるほど……たしかに』


 俊介は頷いた。

 奏のことはどの道話す予定だったが、もう少し筋道を立てて、明確に説明を加えるべきだろう。特に、ここ最近は恋華と距離を置いていたのだから。


『それでね。にーにーに、やってほしいことがあるの!』


 ましろが、興奮気味に叫ぶ。


『やってほしいこと? なに?』


『こうだよ!』


 ましろは両手の指を曲げ、爪と爪同士をくっつけ、ハートマークを作りながら、ニッコリと、


『きゅうによびだしちゃって、ごめんなさい。ラブラブ♥』


『……』


『って、やるんだよ!』


 俊介が絶句していると、弾むような声でましろが言った。

 しかし、俊介は眉を潜めながら、険しい表情をしていた。


『えっと、ましろ。申し訳ないけど、そういうことは、僕には、ちょっと……』


『ええ~っ……』


 途端に、ましろはガックリと肩を落とした。

 流石に泣かなかっただけでまだマシだが。そこら辺は、ましろも少しは成長しているらしい。


『いいじゃんお兄ちゃん! やってあげなよ!』


 ましろの頭を撫でながら、美鈴が俊介を見上げて言った。


 ちなみに先ほどのポーズは、ましろと麗子がよく挨拶代わりにやるポーズである。どちらかが『ラブラブ!』と挨拶をしたら、その人も『ラブラブ!』と返さなければならない。ちなみに謝罪をする時や、相手に抗議をする時にも使える、万能なやり取りなのだとか。


 そして付けられた名前が、ラブ・グリーティング――。

 まさか自分がやるハメになるとは。

 流石の俊介も、ショックを隠しきれない。


『いやいや! 別にそれは井川家だけのルールだし! 急にそんな挨拶をしたら、恋華さんだって驚くに決まってるよ! かえって逆効果だって!』


 とにかくラブ・グリーティングを回避しようと、やたら早口でまくしたてる俊介。

 しかし、そこで美鈴が、


『お兄ちゃん? あたし達のアドバイス、ちゃんと聞いてくれるんじゃなかったの?』


『言ったけど、でも、これじゃあ、恋華さんだって引くよ』


『わかんないよ? あの人、こういうポーズ好きそうだもん。それに、元々お兄ちゃんに足りてないのは、茶目っ気なんだよね。可愛くてジョークが上手い男の人って、女の子に人気なんだよ? 最初からウケないって決めつけるのはどうかと思うけどなあ』


 冷静な口調の美鈴に諭され、俊介はうつむきながら、血がにじむくらい手をギュっと握りしめた。

 そして、しばらくすると目に涙を浮かべながら、俊介は顔を上げた。


『わかったよ……。やる、よ……』

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