52手心を加える? いいえ、加えません!
そして、再びリビングへと集まる一同。
5姉妹からの告白を全て聞き終え、最終的な返事をする為だ。
「……」
俊介は、複雑な表情で一同の顔を眺めていた。
皆、一様に緊張した面持ちだった。
和姫は姿勢を正し、覚悟を決めたような顔で椅子に座っている。
その隣にいるレイラは無表情のまま腕を組んでいて。
緋雨はチラチラとこちらの顔色をうかがっていて、美鈴はせわしなく体を動かしながらじれったそうにしている。ましろはキョロキョロと視線を辺りを見回しながら、椅子から浮かぶ足をバタバタしている。発言こそないが、誰もが俊介の答えを早く知りたくて、そわそわしてる様子だ。
「ふん。みんなわざわざ黙ってることはないでしょう?」
口を開いたのは、レイラだった。
「これじゃまるで、死刑執行を待つ囚人のような気分だわ」
イライラしたように言い放つレイラに、俊介は頭を下げた。
「すいません……」
「レイラ。お兄様を責めても仕方のないことですわ」
和姫が、髪をかき上げながら一言。
「今回のこの場は、わたくし達が勝手に設けた場ですわ。突然5人もの女子から告白され、今日中に返事を返せと脅された、お兄様の身にもなってくださいまし?」
「……分かってるわよ。わたしだって別に、そんなつもりじゃ……」
鋭い和姫からの指摘に、うろたえるレイラ。
「でも確かに、ちょっと空気が重たすぎるよねー」
そこに割って入ったのは、美鈴だった。
「何かみんな、もしかしたら自分は選ばれないんじゃないかって、不安がりすぎてるんじゃない? そんな沈んだ顔してたら、お兄ちゃんだってやりづらいよ、きっと」
「美鈴さん……ありがとうございます」
さすがムードメーカー。俊介の考えをくみ取り、場を和ませるような発言をしてくれている。
「しかしそれは、各自の自由なのではないですかな?」
次に口を開いたのは、緋雨だった。
「わたくしめはもう、自分が選ばれないであろうという覚悟を決めておりまする。10年もの間思い続けてきた恋が敗れようとしているのですから、意気消沈とするのも無理はありますまい」
「緋雨さん……」
神妙な顔つきで話す緋雨に、俊介は言った。
「でも、本当の気持ちは?」
「兄君に、選ばれたいでしゅううううぅ!」
両手を顔の前で握り合わせ、泣きながら叫んだ。
俊介は苦笑した。凛として武士の緋雨より、こっちの素直な緋雨の方が好きだ。何よりも微笑ましい。
「にーにー」
最後に、ましろ。
瞳を涙でにじませながら、トコトコと俊介に近づいて。
「がんばってね!」
両手を体の前でぎゅっと握りながら、応援のポーズを取った。
「でもあとで、ましろのこといっぱい、ぎゅっぎゅしてね!」
「ああ、はい。大丈夫ですよ」
まさしく愛娘を愛でる父親のように、俊介は優しく微笑んだ。
やはりましろはまだ恋愛よりも、元気いっぱいにはしゃいでいる方が似合っている。
俊介は他の4姉妹に目を向けると、
「皆さんに告白の返事をする前に、1つだけ言っておきたいことがあります」
「何でしょうか?」
和姫が聞き返すと、俊介は神妙な面持ちで、
「皆さん、こんな僕を好きになってくれて、ありがとうございます。皆さんはひとりひとりがもの凄い美人で、僕なんかには勿体ないくらい素敵な人たちだと思います。だから、心からお礼を言わせてください」
「「「「「…………」」」」」
5姉妹は、言葉に詰まっていた。どういう反応をすればいいか、分からなかったからだ。
先に口を開いたのは、レイラだった。
「……そのことも考慮して、わたし達のこと選んでくれるの?」
「もちろん、そのこととはまた別です」
「いいわ。それで正解」
レイラはニコッと笑った。
俊介は自身の考え方を変えるつもりはなかった。それで彼女達を傷つけることになっても。妹達の愛に正々堂々と向かい合う。それが自分に出来る精一杯の恩返しだと思うからだ。
「ただ兄さん。ひとつだけ教えてほしいんだけど」
「はい」
「今日のこと、瀬戸内恋華には知らせてるの?」
レイラに尋ねられると、俊介は若干考えるそぶりを見せながら、
「いいえ。伝えてません」
「どうして?」
「僕と恋華さんは、どういう理由であれ一度別れています。その恋華さんと連絡を取り合っていたら、あなた達や奏さんはよく思わないでしょう?」
「それは……そうね」
レイラは沈んだような表情でうなだれた。
俊介が恋華とコンタクトを取らなかった理由はもう一つある。「正々堂々と、彼女達の気持ちと向かい合いたい」ということだ。恋華に会えば、気持ちが軽くなったかもしれない。罪悪感も薄れるかもしれない。しかし恋華のことを言い訳にせずに、真っ向から彼女たちの想いを受け止めたかった。
つまりは。
……。
恋華の癖が、俊介にも移ってしまったのだ。
だから茨の道でも、乗り越える覚悟がある。
レイラが黙ると、次は美鈴が口を開いた。
「確かに、あたし達に手心なんて加えなくていいよ。でもね?」
「はい」
「もし誰かの告白が心の届いたんだったら、その人のことを選んであげて。あたしじゃなくてもいい。他の4人が選ばれなくても、誰も文句は言わないって、昨日話し合ったから」
その言葉に、4姉妹は頷いた。
「お兄様の、やりたいようになさってくださいまし」
「わたし達、いつも兄さんに甘えてばかりいたからね。こんな時まで甘えていたら、兄さんに嫌われてしまうわ」
「兄君のなさることなら、例え死罪になろうとも悔いはございませぬ!」
「でも、あんまり酷いフリ方はしないでね! そんなことしたら、泣いちゃうんだから!」
「にーにー。ぎゅっぎゅ、まだー?」
「皆さん……」
和姫、レイラ、緋雨、美鈴、ましろと。
それぞれに想いを伝えてくる中、俊介は涙があふれるのをこらえていた。
キュッと唇を噛みしめると、一同を見渡す。
「それじゃあ、そろそろ始めましょうか」
「「「「「…………」」」」」
息を呑む妹軍団に対して、俊介は言った。
「皆さんの告白の返事は……」
期待と不安、歓喜と緊張。
全てが入り混じったような表情をした5人に向けて。
俊介は……結果を発表した。




