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51にーにー? いいえ、パパにーにーです!

「僕はましろさんの、父親にだったらなれます」


 神妙な面持ちで、俊介がそう発言したら。

 ましろは訝しげに首を傾げた。


「にーにーが、パパ?」


 ましろが不思議がるにも、無理はなかった。ましろは俊介に「恋人にしてほしい」と告白をしているのだ。それが「父親だったらいいですよ」と言われれば、誰でも戸惑うだろう。


「そう。僕が父親で、ましろさんはその子供です」


 一語一語確認するように、俊介はゆっくりと語った。


「僕は思うんですが、ましろさんが必要としているのは、本当は〝恋人〟ではなくて〝父親〟なのではないでしょうか。お義母さんはたまに帰ってきますが、お義父さんは家にいることは本当に少ないです」


 努めて俊介は、明るい声色で話した。少しでもましろを、不安にさせないためだ。


「ましろさんは生まれた時から、僕や和姫さん達を見て育ってきました。僕に抱きついたりとか、一緒のお風呂に入ったりとか、一緒に寝るのが当たり前のような。だからましろさんも、そういったスキンシップが当然だと自然に感じていた。そうですね?」


「う、うん……」


 ましろは小さくだが、確かに頷いた。


「でもね? スキンシップなんてものは、別に恋人同士じゃなくても出来るんですよ。流石に一線というものはありますけど」


 ゆっくりとではあるが、俊介は確実に結論へと導いていく。


「んー。やっぱりむずかちい。こどもとこいびとって、なにがちがうの?」


 再びましろは疑問形の顔つきに戻って、俊介に質問してきた。

 俊介は軽く咳払いをすると、


「まず、子供とは毎日家で顔を合わせますよね。でも恋人とは、常に一緒にいるとは限らないんです。周りの目だって気になるし、絶えず連絡を取り合わなければ、上手くはいかない。恋人には言えないことや秘密にしてることが多いですけど、家族に対してはみんなオープンです。だから家族と恋人で、どっちの方がいいかなんて、言えないんですよ」


「ほえー……」


 俊介の言葉を聞いて、ましろは目を丸くした。

 今言った話は、俊介がずっと思っていたことだった。恋人だの結婚だの言い出すには、まだましろは幼過ぎる。


 つまり、ましろは自分の意志でそうしていたわけではなく、ただ単に姉たちの真似をしていた。要するに、悪影響を受けていたのではないかと……。


「だからですね、ましろさん」


「んー?」


「僕が父親代わりになるのと、これまで通りなのと。どちらがいいですか?」


「んー」


 考え込むましろに俊介は顔を近づけながら、


「父親代わりなら、これからも沢山甘えていいですよ。もちろんお義父さんがいる時は、そっちに甘えてもらっていいですし」


「でもにーにー、ましろと付き合ってくれないんでしょ?」


「はい。でも逆に、「恋人」っていう名称なのか「家族」という名称なのか。それだけの違いじゃないですか?」


 俊介は的確に核心を突き始めた。それはましろにとって、痛いところでもあったが。


「おんなじだったら、どうしてましろを、こいびとにしてくれないの?」


「いやいや、そうじゃありませんよ」


 俊介は首を横に振った後、唇の端をギュッと結んで、


「LoveとLikeの違いですよ……」


「らぶ? らいくー?」


 流石に英語はまだ習ってない為か、ましろは思いきり首を傾げた。


「人として好きなのと、女の子として好きなのは、違うってことです」


「にーにーは、ましろのこと女の子としてすきじゃないの?」


「はい。だから、そのための一線なんです。これからはあなたも、どんどん大人になっていく。大人になった娘と父親は、一緒のお風呂に入りませんよね? それと同じで、2年生、3年生になるにつれて、あまりベタベタするのを許さなくなります」


 うぐうっ、とましろは瞳に涙を浮かべ下を向いた。

 初恋の相手であり、誰よりも大好きな兄に、生まれて初めて拒絶されたのだ。そのショックは、想像を絶するだろう。


「問題なのは、ましろさん。あなたの気持ちです。恋人にはなれないとして、僕とどうしたいですか? どうしてほしいですか?」


「ましろは……にーにーのこと……」


 聞きながら、俊介は心が痛んでいた。ましろに対し、絶望的な選択肢を突き付けることに。しかし、今後の人生において、それは少なからず体験する出来事なのだ。


 だから今、ハッキリとましろに『選択』してほしかった。


「ましろさん。急すぎましたか? もし悩んでいるようでしたら、もう少し考える時間をあげても……」


「いらない」


 ましろは顔を上げ毅然とした声で言った。

 先ほどの泣き虫なましろではない、覚悟を決めた目で、


「ましろ、分かったよ。にーにーのきもちが。だから、ましろもましろの気持ちをつたえるね」


「……ましろさん」


 俊介は、寂しげな表情でましろを見た。

 さっきまであれほど幼く見えたましろが、何故か今はとても大人びて見えたからだ。

 ましろは、言った。


「ましろ、にーにーの子供になる。これからよろしくね! パパにーにー!」



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