49子供? いいえ、子供じゃありません!
最後はましろの番だ。
5姉妹の中で一番幼く、まだ小学1年生だが、彼女も他の妹達と同様、熱烈な告白をしてくるだろう。
「でもましろさんと付き合うのは、流石に危ないよな……」
ましろの部屋の前で、俊介は呟いた。そして、すぐにその考えを取り消す。
ましろは自分のことを兄ではなく、1人の異性として見ている。俊介から見ればましろは妹そのものだが、だからといってその愛情を否定することは出来ない。
だから「年下」と侮るわけにはいかない。同年代だと思って接する。
俊介がましろのことを大切に思ってること、それだけは確かだ。
だから〝家族〟であれ〝恋人〟であれ、キチンと話をするべきなのだ。
それが小さな妹の大きな愛に報いる、たった一つの方法なのだから。
「ましろさん、僕です」
俊介は意を決して、ドアをノックする。
するとすぐに扉が開き、ましろが飛びついてきた。
「にーにー、やっときた! 入って―!」
「お待たせしてすみません、ましろさん」
俊介は苦笑しながら、ましろを抱えたまま部屋に入る。よかった。ましろはいつものように明るい。思いつめた表情で出迎えられたら、どうしようかと思っていたところだ。
ましろの部屋はまるでファンタジーの中みたいだ。カーテン、シーツ、クッションなどは全てピンク色で統一されている。棚やテーブルやベッドの上には、ぬいぐるみやゆるキャラのマスコット、魔法少女アニメのステッキが置かれてるなど、典型的な女の子の部屋だった。
そしてその部屋の主、ましろは。
部屋の主、ましろは。
……なぜかスクール水着を着ていた。
「あ、あの、ましろさん。それって、学校指定のスクール水着ですよね?」
「うん!」
「それ、部屋で着るものじゃないんですけど」
「知ってるよ!」
ましろは満面の笑みを浮かべたまま、
「今日はましろ、これでにーにーをのうさつするの!」
と、胸を張りながら言った。
そう、今ましろが着ているのは、首から鎖骨までのラインがUの字になっていて、股の部分がセパレートになっている、紺一色のワンピース水着である。布地の隙間から覗く可愛らしいお尻、ぺったんこなお胸、細く真っ白な手足……。
いやらしさは全くないはずだった。マイクロビキニでもTバックでもない、普通のスク水である。それなのに部屋の中でスクール水着という異常な状況が、こんなにも動揺を誘うものだとは。俊介も初めて知った。
……つまるところ、正直ドキドキしていたのである。ましろの肌など、赤ちゃんの頃から沢山見てきたというのに。まだまだお子様なスタイルだというのに。
俊介が絶句していると、ましろは小鼻をぷくっとふくらませながら、
「こーふんした? にーにー」
「いや、興奮しちゃダメでしょ?」
――俊介はため息をつきながら答えた。
どうやらこの幼い妹も、本気で俊介を落としに来ているらしい。
俊介にとって一番厄介なのは、ましろと二人きりという点だ。他の妹達の介入がないので、ましろが何か暴走したとしても、止めてくれる人間が誰もいない。
「にーにー。すわってすわってー」
「ああ、はい。ありがとうございます」
俊介は礼を言うと、クマさん型のクッションに座った。ましろはキツネさん型のクッションを置き、俊介の目の前に座る。ましろがハマッている、大人気ゲームのキャラクターグッズだ。「どちらか一つを買ってあげますよ」と俊介が言ったら、「二つともほしい!」と駄々をこねられ、最終的には泣き落とされて買ってあげたものだ。こんな具合に専門店が開けそうなほど、ましろの部屋にぬいぐるみは増えているのだ。
そんなことを考えていると、
「どうしたの? にーにー」
「い、いや別に。なんでもないですよ?」
ましろに顔をのぞき込まれ、慌てて俊介は答える。
「それより、男の人がスクール水着を好きだなんて、そんな情報をどこから仕入れたんですか?」
「え? スク水幼女はさいきょーだから、これを利用しない手はないって、さやかちゃんが言ってたよ?」
「……予想はしていました」
俊介は呆れたように呟いた。
その後も他愛のない雑談を続けていると、あることに気づいた。ましろの顔が赤いのだ。しきりに胸元や足元に手を置いたりして、もじもじしている。
ましろとして、まだ小学生。
やっぱり恥ずかしいのだ。
幸い暖房がついているので、風を引くことはなさそうだが。
どうする? そっと上着でもかけてあげるか?
それとも――
俊介が考え込んでいると、ましろはいつの間にか目の前まで移動していた。
そして、俊介の膝の上まで移動してきて、
「えへへぇ……♪」
俊介の胸元に頭を押し付け、すりすりと擦りつけだした。
「な、なんですか?」
「あのね、にーにー。ましろ、ちょっとエッチなきぶんなの」
「はっ、はい!?」
ふんわりと甘いトリートメントの香りがするましろの髪に、俊介はドギマギしてしまう。
「にーにー。ましろ、もうこどもじゃないんだからね? さやかちゃんだって彼氏いっぱいいるし。ましろだって……」
そう言うと、ましろは俊介の膝の上に手を乗せた。
そのままスリスリと、俊介の体をさすり始める。
「や、止めてくださいましろさん。くすぐったいですからっ」
「にーにー。からだあつくなってきたよ? こーふんしてるんだよね?」
ましろのボディタッチは、だんだんと激しさを増してきた。最初は足や肩などの無難な部分だったのが、胸元や股間の部分にまで手を伸ばし始めていた。そのぎこちなくも柔らかい手つきに、俊介は声を押し殺すので必死だった。
「にーにー」
「……なんですか?」
「だいすきだよ」
「ま、ましろさん?」
不意の告白に俊介が尋ね返すと、ましろは寂しげな表情で、
「パパとママ、いつもいそがしいから。にーにーは、いつもあそんでくれて。ましろのワガママもいっぱい聞いてくれて。でもたまぁにきびしいことも言ってくれて。だからましろ、にーにーのことだいすきなの」
「ましろ……さん」
それは、紛れもない告白だった。
幼女の戯言だなどと、断ずるわけにはいかない。
「……だから」
ましろは、儚く笑って、
「ましろのこと、えらんでほしいな」
そう呟くと、ましろは俊介の胸に顔をうずめた。
ピンクの髪が上下に揺れる。
泣くのを、我慢しているのか。
ましろにこんな辛い思いをさせるくらいなら、いっそ――
――いや、ダメだ!
俊介は首を振った。
せっかく、妹達との想いには真っすぐ答えると心に決めたのに。これじゃ、また以前の自分に逆戻りじゃないか。俊介は心を鬼にした。簡単なことだ。自分が思っていることを伝えればいい。それでましろが泣き出したら、心の底から詫びればいい。
「すみません、ましろさん」
意を決して。
「え?」
俊介は口を開いた。
「僕はあなたを……異性としては見れません」




