42抱く? いいえ、抱けません!
「俊介先輩。私のこと、抱いてください」
潤んだ瞳で俊介を見つめながら、奏は言った。
奏の思いは全て聞いた。もう、偽装友人というかぶりは投げ捨てて。一人の女性として、俊介に迫っているのだ。
「俊介先輩になら……私、全てを差し出すです。胸も、お尻も、そして、大事な所も……。私の初めて、もらってほしいです……」
顔を真っ赤に紅潮させながら、奏は自身の裸身を指さしながら言った。
俊介がまず思ったことは、まるで白磁のように肌が白かったこと。
しなやかで張りのある、丸く盛り上がった胸、綺麗なピンク色の乳首、丸く窪んだへそ、なだらかなカーブを描く腰骨からお尻までのくびれ、それら全てが、スローモーションのようにゆっくりと瞳に映し出された。
奏は、肩を震わせながら、荒い息を吐いていた。
緊張しているのだろう、全身には薄い珠のような汗をかいていた。
「恋人でも友人でも、何でもいいです……。俊介先輩のそばにいられるなら……。性処理奴隷でも構いません。先輩の思うがままに、私を凌辱してください」
「……」
俊介は、絶句していた。
奏の言葉があまりにも悲しすぎて。
恋華とは真逆だ。彼女は恋人という立場に固執して、自分を想うあまり、自ら身を引いた。
そう、恋華ならば。彼女ならこういう時どうするだろうか?
「先輩、そろそろお返事を頂けませんか? もちろん、抱いたからって責任なんか取らなくていいです。私のワガママで言ってることですから。わ、私は先輩とエッチが出来れば。ただのセックスフレンドでも構わないです」
まだ経験のない奏だ。無理して言っていることは分かる。
奏は拳を握ったまま、強張った顔で俊介を見ていた。
この痛々しい表情から、俊介は何度も視線をそらそうとした。
その時だった。
――俊介君、信じてるから。
ふと、恋華の声が聞こえたような気がした。
俊介は意を決して、奏の視線を真っ向から受け止めた。
しばらく時間を空けた後、ゆっくりと口を開けて言う。
「本当にいいんですか? 奏さん」
奏の両肩がびくっと震えた。
「どうしました? 僕になら、抱かれてもいいんでしょう?」
「は、はい! もちろんです……!」
奏は、緊張しながらも即答した。
今から性交が始まるのだ、と。期待や不安や恐怖が一つになったような、複雑な表情。
「それじゃあ……失礼しますよ」
俊介は奏に向かって近づいた。
美麗な裸身と不安げな表情がぐっと迫る。
奏は目を閉じていた。痛いんだろうか。気持ちいいんだろうか。初めての体験をする時、人は皆目をつむる。ついに思い人と結ばれる時がきたのだ。さぞ奏の胸は高鳴っていることだろう。
しかし、
「ふえ……?」
奏は、間の抜けた声を発した。
いくら待っても、何もされなかったからだ。
体を貫かれる激痛も、敏感な場所を触られる快感も、何もない。
思わず見開いた奏の目に映ったものは――
「すみません、奏さん」
俊介はベッドに落ちたバスタオルを拾って、奏の体にかけてあげた。
そしてその肩に優しく腕を回し、そっと抱きすくめた。
「僕は、あなたのことを抱けません」
「あ、あ……」
悲痛な声が、ポカンと開けられた口から漏れた。
困惑した表情をしたのも数秒で、俊介の表情を見ると、すぐに全てを察したようだった。
協奏曲の、最終楽章である。
少しの間を空けた後、沈黙は破られた。
「あ~あ。やっぱり、そうでしたかぁ」
無理して作ったような笑顔に涙を浮かべながら、奏は言った。
「ヘタレの俊介先輩なら、きっとそう言うだろうなと思ってたです……」




