39落ち着く? いいえ、落ち着きません!
「――私、この人とは恋人同士じゃありません!」
奏の叫びが、歩道に木霊した。
「へ? 違うの?」
答えたのは、赤髪の男だ。すぐに口の端を歪めて、
「てゆーことはさ。まだ友達止まりってわけ? それなら、俺と付き合ってくれても全然問題ないじゃん」
「それは、出来ないです……」
奏は控えめだが、しっかりとした口調で断った。
すると男は、
「なんでだよ? 姉ちゃんらは別に恋人同士じゃないんだろ?」
「はい」
「だったらさ。体だけの繋がりがあっても別におかしくなくね?」
「……どう言われても無理です」
「何でだよ! 別にいいじゃねえかよ! それとも、本当は付き合ってんのかよ!?」
「付き合ってなんかないです!!」
奏は目のふちに涙を溜めながら、俊介の方を振り返り、
「そうですよね? 俊介先輩は、ただのお友だちですよね?」
「あ? 何の話だよ?」
ポカンとする男に対し、奏は俯きながら、
「この人は、他に好きな人がいるんです。だから、私のことなんて、ちっとも見てくれない。ずっと、ただのお友だち止まりなんです……」
そう言われると、男は目じりを下げながら、ニヤリと笑った。
「そういうことかよ。何だ、それなら問題なんかねえじゃん。姉ちゃんに脈はないんだろ? てゆーか、他に好きな女がいる男なんかほっとけよ」
「だから、それは出来ません!」
奏はとうとう泣き出しながら、荒々しく叫ぶと、
「私は俊介先輩と恋人にはなれません。お友だちっていうのも、ただのフェイクなんです! 私は、ただ俊介先輩の優しさに付け入ってるだけなんです! 愛される権利なんか、どこにもないんです!! でも、私はそれでもいいんです! ただ先輩のそばにいられるだけで、それだけでいいんです!!」
「お、おい……姉ちゃん、声デカいって」
涙を流しながら取り乱す少女に、男はうろたえていた。
いつの間にか歩道には沢山の野次馬が出来ていた。中には、警察に通報しようか、と相談する者もいる。男としても、居心地の悪さを感じているのだろう。
「わーったよ! もう慰謝料はいらねーから! どこでも好きな所行けよ!」
その言葉に奏は顔を上げると、「行きましょう!」と俊介の腕をつかんだ。そのままグイグイ歩き出す。
「……奏さん?」
「どこでもいいです。早くここから離れましょう!」
「は、はい」
奏の剣幕に押され、主導権を委ねる俊介。奏はそのまま、俊介の手を握ったまま歓楽街を進む。
「どこまで行くつもりですか?」
「私、俊介先輩に大事な話があるです。だから、落ち着いて話が出来る場所に」
「……」
そう言われ、俊介は嫌な予感がした。目につくものと言えばバー、カラオケ屋、風俗店などだ。こんなアダルティな雰囲気の場所で、落ち着いた話など出来るものか?
そうこうしてる内に、奏はとある場所で足を止めた。
俊介は大きく目を見開いた。
まさか、こんな場所で? というより、ここは……。
「奏さん。念のために聞いておきますけど、まさかここじゃないですよね?」
「……ここです」
俊介は、ピンク色にライトアップされた建物を見つめながら、小さくつぶやいた。
「――ここ、ラブホテルじゃないですか……?」




