28差別? いいえ、していません!
「にーにー。あたまなでてー」
ちらっと、上目遣いに俊介を見ながら、ましろがおねだりした。
「おねがい、にーにー」
うるうる、と大きな瞳をにじませる。ましろの必殺「泣き落としビーム」である。俊介は観念すると大きく頷き、
「分かりましたよ。撫でます。撫でればいいんでしょう?」
そう言って俊介がそっと頭を撫でると、ましろは気持ちよさそうに「ひゃうぅん♡」と喘いだ。
すると、
「お兄様? 前から思っていましたけど……少しましろに対して、甘すぎるんじゃありませんの?」
「そうよねえ。いくら聖なる祝福を受けた天使ましろといっても、星々によって導かれた、運命の伴侶たるわたしを差し置くだなんて。兄さんの大罪は擁護しきれないわ」
「ましろちゃんの頭を撫でるなら、あたしの頭も撫でてくれないと、ちょっと不公平かなぁ」
「やはり邪な思いがあるわたくしめでは、ましろに敵わないのでしょうか……。あの無邪気さ、天真爛漫さ、ぜひ見習いたいものですな」
和姫、レイラ、美鈴、緋雨と、次から次へとブーイングが巻き起こった。ましろだけは例外と高を括っていた俊介は慌てて、
「べ、別に特別扱いしてるわけじゃないですよ。ましろさんまだ小学生だから、誰かがついててあげないといけないだけです」
「なるほど、わかりましたわ」
と、和姫は冷静に頷くと、真面目な顔で俊介を見つめて、
「ならばお兄様。今ここで、わたくし達から『あ~ん』をさせてもらえますか?」
「は、はい?」
「わたくし達を差別してるわけではないのでしたら、わたくし達からの『あ~ん』を拒む理由はないと思うのですが。違いますか?」
和姫がまた訳の分からないことを言い出したので、俊介は一瞬訝し気な顔をしたが、まあ『あ~ん』くらいならいいか。そう思い直すと、佇まいを直し、
「分かりました。お世話になります」
「そうこなくては! 流石お兄様ですわ!」
満面の笑みで喜ぶ和姫を見て、俊介は一瞬嫌な予感がした。
しかし今さら断ることは出来ず、皆からの『あ~ん』を受け入れることにする。
とりあえず席はそのままで和姫と向かい合う。
「では、お願いします」
「はい♡ いきますわよ♡♡♡♡」
媚びるような猫撫で声を出しながら、目をとろんとさせる和姫。
…………。
いよいよもって悪い予感がした俊介は、思わず身をのけぞらせるが、
「どうしたんですのお兄様? そんなに離れては食べさせられませんわ」
「ああ、はい。そうですね。すみません」
まあ、食べさせてもらうだけなのだから、妹達も別に無茶はしないだろう。
そう考えた俊介は、和姫と向き直った。
「はい、お兄様♡ あ~~ん♡♡」
アジの塩焼きの中央から箸を入れ、上の身を俊介に対してそっと差し出した。
「あ、あ~ん」
ゆっくりと差し出された魚を食べる俊介に対して和姫は、
「どうですか? お兄様、お味の方は。塩加減はちょうどよいですか?」
「はい、とてもおいしいですよ」
問われ俊介は笑顔でそう頷いた。焼き加減や塩加減もそうだが、和姫は俊介が食べやすいように箸で背骨を取り、切れ目を入れて身をほぐしてから、食べさせてくれたのだ。
見た目にも綺麗で食べる者のことを考えた振る舞いや心構えに、すっかり俊介が感心していると。
「ではお兄様? 二口目いきますわよ? はい、あ~ん♡♡」
と、和姫は自分の胸を、俊介の腕に押し付けてきた。
「って、さらっと押し付けないでくださいよ! 少し離れてください!」
「お兄様の方こそ、もっとくっついてください。そうしないと、『あ~ん』できませんわ」
そうしてる間にも、ぷるぷると膨らんだ和姫の胸は、俊介の腕を挟んで離さないのであった。張りのある乳房、暖かな体温、ほのかな甘い匂い。
和姫の体は、色々反則であった。
俊介は何とか平静を保ちつつ、
「和姫さん? よく考えてください? この体勢はおかしいでしょう?」
「はい? ああ、どうやらこの体勢だと、わたくしの胸はお兄様の腕に触れてしまうようですわね。仕方ありませんから、このまま続行しますわ」
「止めればいいじゃないですか! 和姫さんだって恥ずかしいでしょう?」
たまらず叫ぶ俊介だが、和姫は首を横に振って口を大きく開け、
「この程度で中止しては、妹の名折れですわ! 妹は全力で胸を押し当てながら『あ~ん』をし! 兄はデレデレしながら胸ごと料理を堪能する! それでこそ兄妹というものですわ!!」
「は、はあ……?」
熱弁を振るう和姫に全く同意が出来ず、思わず引いてしまう俊介だった。
何とか援護をしてくれないものかと、他の妹達にチラリと視線を向けると、
「ヒメちゃん、いつまでやってるの! 早くしてよ!」
「兄さんへの給仕は、同じ神龍族たるわたしの使命だというのに」
「兄君に対してこれほどまでの狼藉……。いくら和姫姉君とて、許しませぬぞ」
「ヒメねーねーばっかりずるい! ましろも、ましろもー!」
やはり予想していた通り、大変なことになった。
援護どころか、我先にと俊介を取り合う妹達。
自分で了承したこととはいえ、思わず逃げ出したくなる俊介であった。




