24素直? いいえ、素直じゃありません!
「ましろちゃ~ん」
「はーい! ママー!」
麗子が呼ぶと、ましろは元気よく手を上げて、
「ママ、絶対だよ! 絶対に、来年の誕生日までには、もどってきてね!」
「もっちろん☆ ましろちゃんも、プレゼント何がいいのか、よく考えときなさいよ~。お菓子でも、お人形さんでも、ゲームでも。別に1つじゃなくてもいいから。両手に抱えきれないぐらいのプレゼント、持ってきたげるからね~」
本当なら、クリスマスもお正月もひな祭りも花火大会も、ずっとそばにいてあげたかった。それが出来ない分、せめて誕生日だけでも、1日中ましろを甘やかせてやりたかったのだ。
「ぷっれぜんと♪ ぷっれぜんと♪」
はしゃぐましろを微笑ましく見下ろす麗子が、次は美鈴に向き直った。
「美鈴ちゃん」
「な、なに!? 別にあたしはいいよ! たまにはランニングに付き合ってほしいとか、試合の応援に来てほしいとか、そんなことは全然思ってないんだからね!」
嘘がつけない美鈴は、どうしても思ったことを口に出してしまう。
それが分かっているから、麗子は、
「あら♪ なあ~に~? 美鈴ちゃん。ママさんに甘えたいのかな~? 中学生になっても、まだまだお子様ね~☆」
と、イタズラっぽく笑った。
いつものハイテンションで明るいママさんモードで。
「な、なによ! お母さんなんて、もう知らない!」
「美鈴ちゃん。あなたがテニスを頑張っているように、ママさんも仕事を命がけで頑張っているの。自分の都合だけで、手は抜けないわ。美鈴ちゃんなら、分かってくれるでしょ?」
「う……」
突然シリアスな声で言われ、気まずそうに美鈴は黙り込んだ。
そして、
「……本当に、戻ってこれるの?」
心細そうな表情で上目遣いに、美鈴は尋ねた。
「夏の選抜試合までには戻るわよ。約束する。地球の裏側からだって飛んでくるわ。その時には、レギュラーになれてるといいわね♪」
「う、うう……!」
美鈴は涙をこぼすと同時に、麗子に飛びついた。
「絶対だよ! 絶対だからね! あたしの必殺サーブ、見てもらうんだから! あと、自主トレにもいっぱい付き合ってよね!」
「あらあら」
麗子は苦笑しながら、抱きつく美鈴の頭を撫でた。
残りの4姉妹も、涙ぐみながらその様子を見守っていた。それぞれに考えるところはあっても、想いは皆共通らしい。
「さて、と。最後に、俊ちゃん」
麗子はゆっくりと、俊介に向き直った。
「生活費は、いつもの日に振り込んでおくから。足りなかったら言って。あと、学校行事に関する連絡とかもね。とにかく、何かあったらすぐママさんに教えて」
「はい、分かっています。井川家の長男として、不足や不備のないよう、精一杯努力します」
きりりとした表情で、頼もしい返事をする俊介。
「でも、俊ちゃんはもっと、自分の幸せに目を向けなきゃダメよ~」
麗子は、イタズラっぽい表情で言った。俊介は不審に思い、
「生活費はもらっていますし、お小遣いだってもらっています。教材代も別途でもらっていますし、こうして優しくしてもらっています。僕は十分幸せですよ」
「そうじゃなくて、恋華さんのことよ~」
恋華という名前を出されて、俊介は押し黙った。
「あんな別れ方をしちゃって、辛いとは思うけどさ」
一瞬だけ神妙な顔をしたが、すぐに表情を明るして、麗子は言った。
「でも、まだあきらめることなんてないと思うわ~。1回フラレちゃったからって何よ。男なら、何回でもアタックしなさい」
「で、でも! 恋華さんはそれを望んでないかもしれないじゃないですか!」
たまらず、俊介は叫んだ。
こんな疑問は誰にもぶつけたことはない。麗子だからこそだ。
「いい? 俊ちゃん。女の子の心が、表面上と同じだとは思わないように。いかにも自分のことを嫌ってそうでも、内心は憎からず思ってる場合だってあるんだから。少なくても、これだけは言えるわ。異性から好意を向けられて、嫌な気持ちをする女性はいないこと。そして、相手を思いやるが故に、あえて冷たい態度を取る子もいること。覚えておきなさい」
それは数々の恋愛を経験してきた、大人の意見だった。
「素直になりなさい、俊ちゃん。自分の気持ちにはね」
最後に、そう激励の言葉をかけて。
「じゃ~ね~! みんな~! お留守番、よっろしく~☆」
それぞれに手を振りながら、風のごとく颯爽と麗子は、セキュリティゲートをくぐるのであった。




