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19イケメン? いいえ、悪人です!

 内田がその光景を見たのは、サッカー部の朝練の合間の休憩時間の時だった。

 いつもなら水筒かペットボトルを持ってきていたのだが、その日はあいにく忘れてきてしまった。なので、多少遠いがグラウンド脇の水飲み場に走っていった。学校の水飲み場の水なんて鉄臭いし、よほどのことがなければ飲まない。なのでいつも誰もいないのだが、その日は違ったのだという。


 水飲み場に向かう最中の大樹の木陰だった。二人の男女を見たのは。

 一人は、瀬戸内恋華だった。それが分かると内田はすぐに、近くにあった木の後ろに隠れた。

 もう一人の男は、3年の佐々木だった。周囲には他に誰もいない。二人は真剣な顔で面と向かい合っている。とてもじゃないが、声をかけられるような状況じゃなかった。


 内田のいる位置からでは、細かい話の内容は聞けなかった。しかし表情や仕草などはかろうじて見ることが出来た。瀬戸内恋華は佐々木と親し気に話し、何度も頷くような仕草を見せていたという。


「瀬戸内さんってさあ。今まで何人って男子に告白されてたけど、結構キッパリと断ってるんだよね。こう、ろくに話も聞かないままでさ。まあ、ちゃんとその後でフォローはしてくれるんだけどさ。だから、余計に気になっちゃって」


 内田は眉を潜めながら言った。恋華らしい、と俊介は考えていた。スパッと竹を割ったような性格もそうだが、フッた後で相手の気遣いをするところまで。やはり恋華は、優しくて魅力的な女の子なのだ。


「何でこんなこと知ってるかっていうとさあ。僕も瀬戸内さんに告白したことがあるからなんだよね。でも、あっさりとフられちゃった。だから、余計に腹立つんだよ。瀬戸内さんが、あんなヤツと仲良くしてることにさあ」


「あんなヤツ……というと?」


「サッカー部では、有名な話だよ」


 内田は面白くなさそうにふん、と鼻を鳴らした。


「佐々木先輩の噂は、君も聞いてるだろう? あれ、もっとエグいんだよ。何人もの女子と付き合っては別れ、付き合っては別れてる。要は飽きたら捨ててるってことだね」


「そうなんですか? そこまでは聞かない話ですね」


「ああ。サッカー部の人間には口止めされてるからね。君も言わないでくれよ? まして僕から聞いたなんてさ。もし佐々木先輩の悪口を言いふらしたなんてバレたら……想像するだけでも恐ろしい」


「でもそれ、あくまで噂なんじゃないですか?」


「噂もなにも、佐々木先輩本人が、僕たち下級生を前に自慢してたんだよ。『この間はオレ、こんな可愛い子をヤリ捨てたんだぜ~』とかさ。証拠の写メまで見せられて。疑うんだったら、僕以外のサッカー部員にも聞くといいよ。絶対内緒って約束守れるんなら、下級生なら誰でも教えてくれるだろうさ」


「……それが本当なら、恋華さんは……」


「まず間違いなく、佐々木に弄ばれるだろうね」


 俊介の不安を先取りするように、内田は言った。そのまま続けて、


「佐々木と付き合った女の子は、長くても半年もたないんだ。そして佐々木と別れた後、誰とも付き合いたがらない。別れた理由を聞くと、みんな怖がって逃げるんだ。佐々木と関わることを恐れるようにね。分かる? この意味……」

 

 俊介はすぐに、その言葉の意味を理解した。


「佐々木に脅されてる……ということですか」


「そう。佐々木は悪賢いからね。彼女の恥ずかしい写真とか、それこそ流出したら生きていけないような動画まで隠し撮りしてる。だからあんな酷いフり方をしても、誰も佐々木を悪く言わない。酷い話だろ?」


「…………」


 俊介には答える余裕もなかった。ただ、拳を握りしめ、唇を噛みしめるので精いっぱいだった。

 自分は何て愚かなんだろう。俊介は無意識の内に、恋華はまだ大丈夫、自分を差し置いて彼氏など作らないと考えていた。

 

 恋華はおそらく、内田の言った事実を知らず佐々木と付き合おうとしている。しかし、それだけは許せない。あんな男と付き合ったって、恋華が不幸になるだけだ。


 そして決意した。

 例え無理やりでもいい。恋華の目を覚まさせてやろう。


 そう判断した時、既に俊介の足は動いていた。自分の教室へ向かって。

 

「ちょ、ちょっと、井川君!?」


 呆気に取られながら、内田は叫んだ。俊介は、振り返ることなく答えた。


「すみません! 僕ちょっと急ぐんで! 情報、感謝します!」


 目の前にいる生徒たちを上手くかわしながら、俊介は猛然とした勢いで階段を駆け上がった。早く、早く恋華に会いたかったからだ。


 そして、伝えたいことがあったからだ。


「恋華さん、僕は……」


 ――あなたのことが、ずっと前から……。


 俊介はそれ以上何も言わずに、2年の自分の教室に急いだ。

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