11減ってる? いいえ、増えています!
その日の授業が全て終わり、帰りのホームルームも終わった後。
放課後になると、俊介は恋華から屋上へと呼び出されていた。
俊介が屋上に行くと、恋華は嬉しそうに頬を緩めて、
「俊介君ごめんね! 急に呼び出しちゃったりしちゃって!」
「いえ……」
「すぐ終わるから! ちょっとだけ付き合ってね!」
別れた後どころか、付き合っていた時ですら、こんなに高いテンションで話されたことはない。偽装恋人を解消してから早1ヵ月、やはり恋華はもう吹っ切れたのだろうか。それとも、ただのやせ我慢なのか。
表情からは窺い知れないが、久しぶりに間近で見る恋華の顔はやはり美しかった。白い肌、整った輪郭、二重まぶた、高い鼻。藍色のストレートロングヘア―を風に揺らしながら立っているだけで、何の変哲もない屋上が、急にドラマのワンシーンに見えてくるから不思議だ。
俊介がじっと見つめていると、恋華がふと微笑む。
「とはいえ。ちょっとは雑談しない?」
「ええ」
元よりそのつもりだった。というより、話したいことは山ほどある。
「俊介君、最近ちょっと元気ないんじゃない?」
「そうですか?」
俊介は聞き返した。元々活発な方ではないし、自分で自分が元気なのかどうかが分かりづらい。
「そうそう。少し痩せたみたいだし。ご飯ちゃんと食べてる?」
「食べてますよ。今朝もお義母さんが豪華な朝食を作ってくれましたし」
「妹さん達との仲は、どう?」
「……良好です」
答えながら俊介は、じれったい思いをしていた。
本当に話したいことは、そんなことではない。奏との関係は誤解であること。恋華の本心。そして……。
「恋華さん。そろそろ本題に入りませんか?」
「……そうだね」
「僕を呼び出したのは、今朝のことでしょう? 奏さんのことで、話があるんじゃないんですか?」
俊介と奏が「偽装友人」になったのは、俊介と恋華が「偽装恋人」を解消した後だ。そして、俊介は恋華にそのことを秘密にしている。
ならば、恋華が俊介たちのことを勘違いしても不思議ではない。
「うん。えっと、俊介君と奏ちゃんって、本当に付き合ってないの?」
やはりだ。
予想していた問いに、俊介は食い気味に応える。
「違いますよ。奏さんはただの友人です。今朝も、そう言ったじゃないですか」
すると恋華は意地悪そうに笑って、
「本当~? 奏ちゃんの様子はそんな感じじゃなかったよ~? 照れ隠しで嘘ついてるんじゃないの~?」
「嘘なんかついてません。事実を言ってるだけです」
「でもさ~。あんなに可愛い子に慕われたら、悪い気はしないんじゃないの~? いやほんと、私に気を遣う必要なんてないからね?」
俊介が否定しても、恋華は尚もしつこく、自分と奏の関係を邪推してくる。
俊介は思った。恋華は一体何を考えているのだろうかと。自分と奏をくっつけて、恋華に何の得があるのか。
「ていうか、もう一度だけ聞くけど、本当に俊介君と奏ちゃんは、付き合ってるわけじゃないんだね?」
「はい。そうです」
本当の奏との関係は「偽装友人」なのだが、それは言わないでおいた。
恋華になら言ってもいいかとは思ったが、口には出せなかった。
奏との関係がバレるのを恐れているわけではない。
なぜだか本当のことを言ってしまうと、恋華が遠くに行ってしまうような気がしたからだ。
「僕のことより、恋華さんの方はどうなんですか? あれ以来、男子生徒からの告白は減ったんですか?」
「いや~、それがね? 前以上に増えちゃったんだな、これが」
「前以上って……」
俊介は言葉に詰まった。それでは自分たちのしてきたことが、全て無駄になったことになる。
「まあ、それも自業自得だとは思うけどね。偽装恋人なんか仕立てて、みんなを騙してきたわけだから。これからは横着しないで、人の告白には真摯に向き合おうと思うよ」
「……そうですか」
深くは追及しなかったが、それは俊介のことは完全に忘れて、新しく恋人を作ろうという意味ではないのか?
そう思うと、俊介の胸はちくりと痛んだ。




