4大丈夫? いいえ、危険です!
さて、再開された妹会議の話題といえば、
「東条奏のことですわね。容姿は整ってるようですし、性格も悪くないように思えますけど。皆さんのご意見をお聞きししてよろしいでしょうか?」
「ほっといていいんじゃない? どうせ大したことも出来ないでしょうし」
和姫の問いかけに答えたのは、レイラだった。
和姫はレイラのことを一瞥すると、
「と、いうのは?」
「た・だ・の。女の勘よ。緋雨の情報によれば、いっつもおどおどしてる気の小さい小動物みたいな子らしいわ。顔が良いってだけじゃ兄さんは落とせないし。精々仲のいい友達止まりじゃない?」
その言葉に、美鈴は首を振った。
「そうだねえ、お兄ちゃんは優しいから相手してあげてるみたいだけど。それ以上のことなんてないよねえ」
「にーにー、おともだちできたの? よかったー」
ましろも、にっこりと笑った。
「わたくしは、そうは思いませんわ」
ただ一人異論を唱えたのは、神妙な顔で腕を組む和姫だった。
「東条奏……何やら、危険な匂いがします。もしかしたら、瀬戸内恋華以上に厄介な存在になるかもしれません。わたくしの考えすぎかもしれませんが」
そう言って、和姫は一同を見渡した。
「まあ、東条奏がどこまで本気なのかにもよりますけどね。レイラの言うとおり、小動物みたいですし。案外、本当にただの友達止まりなのかもしれません」
そう言うと、和姫は少しだけ表情を和らげた。と同時に、皆の緊張感もまた緩んだ。精巧な人形のように整った顔の和姫が難しい顔をしてると、他の者にも緊迫感を与えてしまうのだ。
和んだムードの中、声をかけたのは美鈴だった。
「でもヒメちゃんは、そうは思ってないんでしょ?」
「そうですわね。でなければ、恋人と別れたばかりのお兄様に、積極的に絡んだりはしてきません」
「じゃあその人、お兄ちゃんに好意を持ってるってこと?」
「東条奏がどこまで事態を把握してるか次第ですわね。例えば偽装恋人の件……。このことを知っててお兄様に言い寄っているようならば、完全なクロですわ。お兄様のことを狙ってると思ってよいでしょう。美鈴も、そう思いませんか?」
「うーん……」
「ごめんね~、ちょっといいかな~?」
和姫と美鈴の会話に割って入ったのは、麗子であった。
「みんなも。よく聞いてほしいの~。といっても、別にお説教じゃないから。ただママさんの考えてることを言いたいだけ。聞いてくれるかしら~?」
「「「「「は、はい」」」」」
麗子の言葉に、5姉妹は恐れながら返事をした。
そして、室内はしんと静まり返った。
麗子は特に言葉を発することはなかった。
ただ5人の娘達の顔を、一人一人じっと見つめるだけだった。
「……5人とも、大きくなったわねえ。初めて和姫ちゃんを産んだ時が、まるで昨日のことのように思えるわ~」
麗子は感慨深げに目を細めた。
「あなた達は小さい頃から、本当に仲が良かったわ。幼稚園の頃はオモチャの取り合いでケンカすることもあったけど、最後はいつも仲直りしてくれた。覚えてる?」
「わたくしが一番最初に譲ってあげたことと、レイラが諦めるふりをして取り上げようとしたことと、緋雨が最後まで折れようとしなかったことと、美鈴が途中で飽きたことは覚えていますわ」
「そうそう。それそれ」
和姫が答えると、麗子はニッコリと笑った。
「だから俊ちゃんを家に引き取った時は心配でねえ。この5人で俊ちゃんを取り合っちゃうんじゃないかって、気が気じゃなかったわ」
「お母様が……」
和姫は驚いていた。
「母さんでも、取り乱すことってあるのね」
「当り前よ。いっつもテンパッてばかりよ。表向きはそう見えないだろうけど」
レイラの言葉に、麗子は舌を出しながら笑った。
「でもね? 厳しいことを言うようだけど……」
「「「「「えっ?」」」」」
厳しい表情で視線を向ける麗子を、5姉妹は驚きながら見た。
「あなた達の願いが、全て叶えられることはないわ。もしかしたら、一人も。俊ちゃんは誰も選ばないかもしれない。それだけは忘れないで?」
その言葉に激昂したのは、レイラだった。
「そんなことないわよ! 兄さんは最後に、必ずわたしを選んでくれるはずだわ!」
「そんなことあるのよ、レイラちゃん」
麗子は首を横に振り、
「俊ちゃんは、あなた達のことを愛してはいるはずだけど、それは異性に対する愛とは違うわ。あの子は義理とはいえ妹は愛せない。母親であるママさんが言うんだもの。間違いはないわ」
「「「「「…………」」」」」
5姉妹は絶句した。
他人に言われようものなら反論の嵐を浴びせるところだが、発言したのは他ならぬ麗子だ。母親の言葉は、重みが違う。
「でもね。これだけは覚えておいてほしいの」
先ほどとは打って変わって、麗子は柔らかい笑みを浮かべた。
「誰かを愛したことは、決して無駄にはならないわ。だから正々堂々と、最後まで諦めずに全力で競い合いなさい。例え結果がどうなろうとも」




