2あり得ない? いいえ、あり得ます!
「分かりましたわ。段取りが悪くて申し訳ありません。気を取り直して、妹会議を始めたいと思いますわ」
取り出したのは一瞬で、すぐに和姫は毅然とした言葉で言った。
残りの4姉妹も、コクリと頷く。
「まずは現状を整理しましょうか。皆さまも知っての通り、俊介お兄様と恋華さんは破局しましたわ。しかし、それは本当のことなのでしょうか?」
「どういうこと? それ」
聞き返したのは、美鈴だった。
井川家4女。13歳。
明るめの茶髪をショートボブにした、大きめのくりくりした目が可愛らしいスポーツ系美少女。
小麦色した肌は健康的に引き締まっていて、うっすらと筋肉がついているが、ほっそりとした女性らしいスタイルでもある。
「どういうこと、とは?」
「言ったとおりだよ。お兄ちゃんと恋華さんはもう別れたんだから、これ以上のことなんて何もないじゃん。わざわざ会議で取り上げることじゃないよ!」
「……それはどうでしょうか?」
和姫は目をつぶって首を振った。
「我々の目的は、あくまでお兄様からの寵愛を一身に受けることですわ。そのためには、お兄様を取り巻く女性環境を、全て警戒しておく必要があります。瀬戸内恋華は、最も危惧すべき要因の一つですわ」
「要因って?」
「復縁ですわ。何かのきっかけでお兄様と恋華さんがよりを戻すことになったら? 困難を乗り越えたカップルの絆は、より強くなるといいますわ」
「ないないって。そんな都合のいいこと」
右手を大きくバタバタと振りながら、美鈴は笑った。
レイラも「そうね、可能性は低いわね」と同意したが、目は笑っていなかった。心中に潜む不安が原因か。
……そう、彼女達も本当は気づいているのである。
俊介と恋華は、まだお互いに想い合っていることを。
「でもあれだけ派手にあたし達の前で別れるって言ったんだよ? そんな簡単にまた付き合ったりなんかする?」
「普通ならあり得ませんわね。特に瀬戸内恋華は学園のアイドルですし。お兄様と別れた途端、また学園の男子生徒から告白の嵐を受けていることでしょう。軽々に動きは取れないと思いますわ」
「だったら……」
「それでも。絶対安心とは言い切れませんわ。お兄様と恋華さんの間には、とても強く、硬い絆があります。『偽装恋人』という役目を終えた今でも、その楔は色濃く残っているかと思いますわ」
「きずな? くさびってなに?」
美鈴と和姫の会話に割り込んだのは、ましろだった。
井川家5女。7歳。
100年に1人の美幼女。
そんな陳腐な表現がぴったりハマってしまうくらいの可愛らしさで、その愛くるしい容姿は、正に異次元だ。銀行強盗でも、この子に見つめられたら改心してしまうほどの、癒しオーラがある。
髪型は、背中の辺りまでのピンクのゆるふわウェーブ。美容室に行ってるわけではないが、何故か綺麗なパーマがかかっている。アーモンド型のつぶらな瞳、成長途中ではあるが精巧に整った顔の輪郭など、ましろの可愛らしさは異次元だ。「ウチの読者モデルにならない!?」と、超人気女性雑誌から何度も誘われたことがあるといえば、少しはその可愛らしさが伝わるだろう。穢れの無い天使のような美しさ。それがましろなのである。
「絆っていうのはね、ましろちゃん」
ましろの問いかけに5姉妹が窮していると、麗子が助け船を出してくれた。
「お互いがお互いに思い合う力のことよ。ましろちゃんだって、にーにーのこと、大好きよねー?」
「うん!」
正確には「大好き」ではなく「超大好き」なのだが。しかも俊介はライクなのに対して、ましろは完全なラブだ。
「でもね。ましろちゃんだって俊ちゃんのこと、たまに嫌いになったりするでしょ?」
「ふえ?」
ましろは呆けたような声を出した。
「もしかしたら、今はまだないかもしれない。だったら、お友達を想像してみて。お友達とケンカすること、たまにはあるでしょ?」
「うーん……たまにー」
天真爛漫なましろにとって、ほとんど無いも同然だが。自分は悪くなかったり、向こうから絡まれてきたことまで数えるなら、全く無いとはいえない。
「そういう時って、『ムキーッ!』てなるわよね。そういう時、ましろちゃんならどうする?』
「んー、ごめんなさいして、仲直りするー」
すると麗子は満面の笑顔で、
「そう。それが一番いいのよね。でも、俊ちゃんと恋華さんはそれが出来なかった。お互いに想い合う気持ちが強すぎて。絆が固すぎて、身動きが取れなくなってるの。これが、『楔』。分かったかなー?」
「ふええ……よくわかんない」
無理からぬ話だった。
男女の恋愛など一度もしたことのないましろにとっては。
「ましろちゃんも、小学5年生くらいになったら、分かるようになるわよん☆ ママさんもそのぐらいの歳には、中学生の彼氏がいたし。だから、ちょっとずつ覚えていきましょ?」
「うん! ましろ、がんばるー!」
ただでさえマセてるましろを、これ以上マセさせてどうするのか。
そんな4姉妹の心の声など知りもせずに、ましろは両手を握りしめて、元気いっぱいに叫ぶのであった。




