表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/218

16許す? いいえ、許しません!

 俊介はリビングに入ると、テーブルの上座に座らされた。その周りを囲むようにして和姫、レイラ、美鈴、ましろの4人も静かに席につく。その重苦しさは話し合いの場というより、まるで裁判の被告席に座っているようだ、と俊介は思った。


 時刻は午後8時。外も暗くなってきている時間だ。

 そんな遅い時間に、俊介は沈鬱な表情の妹達と向かい合っていた。しばらく無言ではあったが、やがて俊介は口を開いた。


「それで、僕に聞きたいこととは何でしょうか?」


「誤魔化さないでよ! あたし達、ちゃんと見たんだからね! お兄ちゃんが女の人とデートしてるのを、この目でハッキリと!」


 美鈴は椅子からガタッと立ち上がると、大きな声で、


「しかも、映画館の入り口では力いっぱい抱きしめ合ったり、館内ではウットリしながら手をつないじゃったりしてさ! その上ファミレスでも楽しそうにイチャイチャしだすしっ! そ、それに、あーんなことやこーんなことまで!」


 ふーっ、ふーっと、息を荒くしながら美鈴は叫んだ。

 顔を耳たぶまで真っ赤に染めて。


「あたし達がいながら、勝手に彼女を作るなんて! しかも、あんな可愛い人を! あたし達なんてもういらないってこと!? そんなのひどいよ!」


 美鈴の話は段々大げさになっていったが、それだけ興奮しているのだろう。


「あ、あのですね。美鈴さん……」


「――そうね。確かに兄さんは大罪を犯したわ。これは、お仕置きが必要ね」


 俊介が美鈴に釈明をするより先に、レイラが口を開いた。

 そして俊介の前に、ぐいっと身を乗り出した。

 そのまま俊介に顔を近づける。


 レイラは無表情のまま、俊介のことをじっと見つめていた。

 シミひとつない、真っ白な肌。目も眩むほど整った美しい容貌。そして、かかる熱い吐息。しかし、レイラは何もせず、無言で俊介を見つめたままである。


「あ、あの、レイラさん……?」


 たまらず、俊介が声をかけたとき。


 レイラは右目にかかった眼帯を外し、閉じていた右目をゆっくりと開いた。

 深海のような青い瞳があらわになる。


「どう? かかった?」


「何がですか」


 意味が分からず、俊介は尋ね返した。


「兄さん。わたしの目、見えてるよね?」


「ええ。青いカラーコンタクトが見えます」


「カラコンじゃなくて魔眼! それで、催眠にかかった?」


「いえ、かかってないですけど」


 俊介がそう答えると、レイラは雷に打たれたように、


「ええええええええ!? ど、どうして!?」


「どうしてって……」


 逆に、あんなカラコン1つでどうやって催眠術を使えると思ったのだろうか。俊介は心の中でため息をついた。レイラには、少し漫画やアニメは規制した方がよかったのではないか。


「にーにー!」


 ましろはガタッと立ち上がりながら叫ぶと、俊介の元まで歩み寄り、足元にしがみついた。そして大きな瞳を涙で滲ませながら、


「にーにー。ましろのこと、すてないで!」


 と、まるで雨の日の子犬のように、俊介を見上げて言った。


「ましろ、もっと良い子になるから! にがてな割り算も、がんばって出来るようになるから!」


「あの、ましろさん。違うんです。別に、ましろさんが悪いわけじゃ……」


「きらいなセロリ、のこさないで食べるから! ぎゅーにゅーもちゃんと飲むから! もうワガママ言わないから、ましろのこときらいにならないで!」


「……ましろさん」


「おねーちゃんたちのお手伝いもちゃんとするから! あらいものも、おかたづけも、おせんたくも、おべんきょうも、きちんとやるから! だから、おねがい!」


「……」


 ましろは、懸命だった。

 幼いましろのことだ。おそらく、俊介が誰かに取られるということに、1番恐怖しているのだろう。だからこそ、必死に俊介の心を繋ぎ止めようとしている。


 いっそのこと、もう偽装恋人なんて止めにしようか。

 そう思い、俊介が口を開こうとした時。


「兄さん! 兄さんは私と付き合う(契約する)って、小さい頃(前世)から定められているのよ! 暗黒の使者なんかに、騙されてはいけないわ!」


「お兄ちゃん! あたしだって、お兄ちゃんのこと、ずっと前から好きだったんだからね! 世界中の誰よりずっと! 学園のアイドルだからって、渡さないんだから!」


「にーにー! ましろといっしょにいて! ずっとずっと、いっしょにいて!」


 口々に叫ぶ3人。

 今まで溜めていた鬱憤が爆発したのか、冷静なはずのレイラまで声を荒げている。その光景を、俊介はただおろおろしながら見つめることしか出来なかった。


 自分こそが選ばれるべきと、権利を主張するレイラ。

 自分こそが1番俊介のことを愛していると主張する美鈴。

 癇癪を起こしたように、ただ泣きじゃくるましろ。


 俊介は――


「お黙りなさいなっ!!」


 大きく、それでいて鋭い刃物のような声が、喧騒を切り裂いた。

 わめき立てていた妹達はビクリとし、俊介はその声の主を見た。

 会議中、唯一無言を貫いていた――和姫であった。

 しんと静まり返り、注目が集まる中で和姫は、すうっと息をつきながら、


「皆様、少し落ち着きなさいな。あくまでこの場は『話し合いの場』と定めたはずですわ。それが守れない方は、出て行ってくれてよろしいのですよ?」


 ――水を打ったように。

 先ほどまでの騒ぎがまるで嘘であったかのように、室内は静寂に包まれていた。

 妹達は、沈黙したまま俯いている。

 俊介も同じであったが、やがて顔を上げると、


「皆さんは悪くありません。悪いのは、この僕です」


 俊介の言葉に、妹達は顔を上げると、目に涙を溜めながら彼を見つめた。


「金星の姫たるわたしが。少々取り乱してしまったようね」


「あうう……興奮しちゃって、恥ずかしい……」


「にーにー、ごめんなさい……」


 レイラ、美鈴、ましろの3人は。

 俊介に向かってそれぞれ謝罪をした。

 和姫はその様子を見守ると、俊介に向かって、


「とはいえ、お兄様に責任がないとは言えませんわ。彼女達がこうなってしまった理由は、お兄様にあります」


「……」


 和姫の非難に、俊介は心を痛めた。

 しかし、もう釈明は何の意味もなさない。そこで俊介は、


「……ごめんなさい。僕は、彼女――瀬戸内恋華さんと付き合うことにしたんです。昨日、彼女から告白をされ、お付き合いすることになりました。皆さんには、もう少し親しくなってから紹介しようと思っていたんです。決して、隠すつもりなんてありませんでした」


 と、「偽装恋人」の件だけを隠し、事実を説明した。

 それに対し、和姫は、


「許せませんわ、そのようなこと……っ!」


 和姫は、唇をぎゅっと噛んで、拳を強く握り締めていた。

 先ほど、誰よりも冷静だったはずの和姫が。

 体は小刻みに震えて、瞳は怒りの炎で燃え上がっていた。


「和姫さん……?」


 俊介が声をかけると、和姫は俊介に向かって、


「ここに連れてきてくださいな! その瀬戸内恋華とやらを! その方がお兄様と釣り合う方かどうか、わたくし達で見極めてさしあげますわ! 容姿、性格、炊事、洗濯、掃除のレベルにいたるまで隅々と! もし、お兄様に相応しくない場合、わたくし達はその方との交際を断固反対いたしますわ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ