29簡単? いいえ、難しいです!
俊介には、恋華のいる居場所は分からなかった。だからひたすら、街中を走り回っていた。あれからも、何度か恋華のスマホに電話を掛け続けた。ラインも送ってみたが、未読のまま返信はつかなかった。
やはり彼女は監禁されているのだろう。『カモさん』のいる場所に。
俊介はとりあえずその意味は考えず、昨日行った遊園地の近くまで走った。もう大分日は暮れていた。電灯やネオンの灯りが、街全体を照らしている。
俊介は、はあ、はあと息をついた。ここからだ。ここから恋華を探し始めよう。
恋華が電話口で言っていたのは、間違いなく自分への暗号だろう。昨日、観覧車に乗った時にカモがどうとか言っていた。緋雨は観覧車に乗っていないため、自分と俊介にしか分からない。そういった理由であの時口にしたのだ。
しかしカモと言われても、俊介が住んでる街には生息していない。ならば実物ではなく、彫像やオブジェ、もしくは看板のようなものを見たか、あるいは適当に何かを例えて言っただけなのか。
俊介は絶望に満ちた眼差しで、眼前にある夜景を見つめた。これだけ広い街の中で、たった1人の人間を探す。途方もないような話だ。1つ言えることは、昨日乗った観覧車から遠く離れてないということだが。
だが、逆に言えば分かるのはそれだけだ。あの聡明な恋華のことだ、何か明確な答えを用意してるに違いないが。今の俊介には、何のことだか分からないのが現状だった。
仕方がなく、俊介は別の観点から捜索することにした。
あの時恋華は、別のことも言っていた。犬だの猫だの鳥だのと。あの時は緋雨のことで頭が一杯になっていて、まともに話を聞く余裕もなかったが。
ふと時計を見ると7時15分。恋華から電話を受けてから10分ちょっとだ。このまま考えていても埒があかないので、とりあえず俊介は街中を探し回ることにした。
そこから2分ほど走り回ると、休憩のため俊介は足を止めた。すると、お店の煌びやかな看板が俊介の目に入った。
「これは……」
いわゆるネオンサインというやつだ。お座りをする犬の絵が、ネオン管を通してくっきりと映し出されている。俊介はハッとなった。ここは遊園地から目と鼻の先にある。ということは……。
俊介はポケットからスマホを取り出した。それを見ながら、次の目的地まで走る。
思ったとおり、それからすぐ近くに、綺麗にライトアップされた猫の看板を掲げる喫茶店――『猫カフェ』があった。
やはりそうだ。あの時恋華は、オブジェや彫像を見ていたわけでも、ましてや実物の動物を見ていたわけでもない。観覧車の外に映る、ネオンサインを順々に見ていたのだ。ということは、このネオンサインを辿っていけば、恋華のいる場所が分かるのではないか。
3つ目の場所――『トリさん』のネオンは、すぐに見つかった。ダイニングの焼き鳥には、トリのネオンがボードに映っている。俊介は心を躍らせた。ここまで来れば、恋華はきっとすぐ近くにいるだろうと。
しかし、現実は非情だった。いくらスマホで検索しようとも、カモのネオンサインは1件もヒットしなかったのだ。
しかし恋華がこの近くにいることは、おそらく間違いないのだ。
俊介は道行く人たちに聞き回った。カモのネオンサイン、もしくは銅像のようなものでもいい、とにかく目印になるようなものはないかと。しかし通行人達は、皆一様に首を横に振るだけだった。
「そんな……」
俊介は歩道の真ん中で呆然と呟いた。
突如、脳裏に恋華の笑顔がよぎった。俊介は疑問に思った。なぜ、笑顔なのか。今、恋華は酷い目に合わされてるはずなのに。俊介はカッとなって頭をかきむしった。そうだ、こうしてる間にも、恋華は……。
散々走り回ったせいで、体は重く、足も痛くなっていた。いよいよ諦める時が来たのか。自分にはもう無理だ。
一瞬、警察に相談した方がいいかと思った。しかし、すぐに考えを撤回した。駄目だ、恋華は自分にとって大切な人なのだ。どんなことが起ころうとも、自分が助けると決めたのだ。
それなのに――。
俊介は怒りに任せて、舗装された地面を思い切り殴りつけた。
何度も、何度も、何度も。
皮がめくれ、血が流れ出し、激痛が走る。それでも、一向に俊介の気が晴れることはなかった。




