表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/218

28ほっとく? いいえ、ほっときません!

 ――俊介君、助けて!


 奏の告白の返事をしようとした際。恋華の電話を受けた俊介が聞いたのは、助けを求める恋華の叫び声だった。

 俊介は息を整えて、恋華に確認を取る。


「恋華さん。落ち着いてください。誰かに襲われてるんですか?」


 ――そ、そうだよ! だから、すぐ来て!


 走りながらだろうか、やけに音が反響してるせいか、エコーと吐息が混じった聞きづらい声で、恋華が答える。


「そんなんじゃ分かりませんよ。今いる正確な場所を教えてください」


 ――私、が今いる場所は、『カモさん』の――キャッ!


 そこまで恋華が言いかけたところで、通話は切れた。

 自分から切ったというより、無理やり切られたという感じだ。おそらく、恋華を襲っている人間が、携帯を奪い取ったのだろう。


「……恋華さん!? いや、こちらから掛け直すか……。しかし、通じるか……?」


「先輩? どうしたですか?」


 奏の問いかけに俊介は答えない。それどころではない。

 予想通り、電話は繋がらなかった。犯人が電源を落としたものと思われる。


「まさか……」


 俊介は生唾を呑みこむと、スマホを見つめた。

 まさか、緋雨が――?

 勘違いであってくれ。そう願いながら、俊介が緋雨に電話をかけると――


『おかけになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源が入っていないためかかりません』


 という、恋華のスマホと全く同じアナウンスが聞こえてきた。


「……そんな」


 あまりの出来事に、思考が働かない。

 まず咄嗟に思い出すのは――恋華はつい先ほど誰かと会っていたということだ。ならば答えは簡単、その人物に連れ去られたということだ。そして、同じタイミングで緋雨のスマホにも繋がらない。

 これは、偶然なんかじゃない。

 

 しかし、スマホが通じないというだけで犯人扱いというわけにはいかない。他の誰かという可能性がある。

 もちろん、それは確認するしかない。


「先輩! さっきから何をしてるですか?」


「……すみません、少し黙っててください!」


 俊介が怒鳴ると、奏は縮こまって沈黙した。

 しかし今の俊介に、そんなことまで気にかける余裕はなかった。

 俊介は連絡先を確認する。考えられるとしたら、自宅だ。もし緋雨が家にいるのなら、彼女は容疑者から外すべきだろう。俊介は一縷の望みを込めて発信ボタンを押した。――ほどなくして、相手が電話に出る。


 ――もしもし、お兄様ですの? どうかなさいました?


「聞きたいことがあるんです!」


 俊介は、用件を聞く和姫に食い気味に尋ねた。


「緋雨さんって、今家にいますか?」


 ――落ち着いてください。お兄様、どうなさったんですの?


「いいから! いるんですか? いないんですか!?」


 ――い、いいえ。まだ帰ってきておりませんわ……。


 俊介の迫力に気圧されたのか、萎縮して和姫が答えた。

 その声を聞き、俊介は、自分が熱くなりすぎていたことに気づくと、


「す、すみませんでした。いきなり大声を出して……。もしも緋雨さんが家に帰ってきたら、その時は連絡をください」

 

 ――どういうことですの? お兄様、緋雨が何か――。


 和姫の質問には答えずに、俊介はスマホを切った。

 悲嘆に暮れている俊介に、奏は心配そうに声をかける。


「一体、何があったですか? 瀬戸内先輩に、何かあったですか?」


「そうです! だから――」


「ほっとけば、いいじゃないですか」


「……え?」


 思わぬ発言に、俊介が聞き返すと奏は、


「偽装の恋人である瀬戸内先輩を、助ける意味なんてあるんですか?」


「……」


 俊介は答えられなかった。奏はさらに続ける。


「だって、そうじゃないですか。瀬戸内先輩が、何か危ない目に合ってるですよね? でも、考えてください。瀬戸内先輩は本当の恋人じゃないんですよ? それなのに、どうして俊介先輩が助けに行って、一緒に危険な目に合わないといけないですか……? もし大事だとしても、先輩が出る幕じゃないですっ! 警察に任さればいいですっ!」


「……たしかに、そうですね」


 俊介は肩を落としながら呟いた。その様子を見て、奏が安堵の吐息を漏らす。

 しかし俊介は、寂しそうな顔を上げると――


「でも僕は、恋華さんを助けてあげたいんです」


「どうしてですか?」


「理由なんてありません。僕がそうしたいからです」


「でも、どうせフェイクの彼女じゃないですか。それとも、本当は瀬戸内先輩のことが好きなんですかっ!? 利用されてるとしても――」


「知りませんよ! そんなことは!」


 俊介は叫ぶ。


「たしかに、僕と恋華さんは偽装の彼氏彼女ですよ。でもね、それでもこれまで一緒にやってきた仲なんです。赤の他人でも何でもない。そんな人が危険な目に合ってるんです。放っておけるはずないじゃないですか」


「……」


「もちろん、助けに行くなんて大げさな話じゃないです。恋華さんの無事だけ確認できたら、それでいいんです」


「でも、俊介先輩に危険がないとは、限らないんじゃ……」


「それでもいいんです」


 俊介の静かだが、決意に溢れた言葉を聞き、奏は息を呑んだ。まるでこの世の終わりのような、悲しげな表情で。


「正直な話、恋華さんのことを好きかどうかは、自分でもよく分かりません。でも、僕には恋華さんが大切なんです。それが、クラスメートであれ友人であれ協力者であれ。その気持ちに偽りはない」


「……先輩」


 語っていて俊介は、自分で驚いていた。

 まさか、〝偽装〟である恋華のことを、そこまで大事に思っていたなんて。


「そういうわけなんです。奏さん、ごめんなさい! 告白の返事は、またにしてくださいっ!」


「あっ、せ、先輩!?」


 引き止める奏の声も聞かずに。

 俊介は恋華を助けるため、日が暮れた街に向かって走り出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [一言] ここで緋雨にアリバイ工作(俊介からの連絡想定してしれっと応対する等)されてたら恋華完全にチェックメイトでしたね。 恋華側から緋雨の名前出してなかったのですから…
2019/11/23 06:52 退会済み
管理
[気になる点] >「ほっとけば、いいじゃないですか」 いや、これだと奏が人の命はどうでもいい凄く酷い奴に見えちゃうと思いますよ;; (仮に恋華が交通事故とかで、こんな言われ方だったとしたら?このやりと…
2019/11/23 06:40 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ