25用はない? いいえ、あります!
そして昇降口にて。
2年生の下駄箱の前で。
なぜか、1年の東条奏が俯きながら立っていたのだった。
「やあ、東条さん。誰かと待ち合わせですか?」
「…………」
俊介が話しかけるが、無視されてしまった。
いや、無視というよりかは、精神を集中しすぎて、周りが目に入っていないといった方が正解だろう。
愛らしくまん丸な瞳を目いっぱい見開いて、口元を凛々しくキュッと結んでいる。表情もどことなく固い。なんとなく今から戦地に赴く兵士を連想させるが、だとしたら無理やり徴兵された兵士なのだろう。真剣ではあるのだが、肩を震わせ過敏に緊張しきっている。
「……あの、東条さん?」
俊介はできるだけ刺激しないように、静かに声をかけてみた。
すると、
「ひゃわわわわわわわわわあ~!?」
「…………え?」
急に大きな奇声、もとい叫び声を上げられ、俊介は困惑した。
その後も「ふひゅ~?」とか「みゅみゅ~……」とか言いながら口をパクパクさせて、彼女は俊介を見上げていた。先ほどの凛々しさなど欠片も感じさせない、例えるならアナコンダを前にしたハムスターのような、そんな怯え具合だった。
「す、すみません。そんなにビックリするとは思わなくて……」
「あ……あう……あうあう」
「お、お邪魔しました。僕はこれで失礼しますね?」
「や~っ! いやぁ~! いやぁ~!」
流石に引いたので俊介が立ち去ろうとすると、奏は俊介の体にしがみついてそれを阻止した。そして「行かないでください~~っ!」と懇願してきた。どうやら奏が待っていたのは俊介のようだ。
「わ、分かりました。どこにも行きませんから、離してください!」
たまりかねた俊介がそう叫ぶと、ようやく奏は体を離した。抱きつかれた時しっかり胸が当たっていたことは、秘密にしておこうと俊介は考える。
「えーと、僕に何か用事だったんですか?」
「は、はいです!」
俊介の問いかけに、奏は背筋を伸ばして答えた。その姿はまるで、鬼軍曹に話しかけられた新卒兵のようだった。
要するに緊張した面持ちで、ゆっくりと奏は俊介に向かって口を開いた。
「わ、私、井川先輩に大事なお話があるです……。よかったら今から、体育館裏までお付き合い願えませんでしょうか……?」




