24一緒に帰る? いいえ、帰りません!
「恋華さん。一緒に帰りませんか?」
次の日。帰りのホームルームが終わったところで、俊介は恋華に声をかけた。
放課後の教室。恋華は、教科書や筆記用具を鞄に仕舞っているところだった。
今日は俊介も恋華も掃除当番ではないので、後はもう帰るだけだ。
「え? 私と?」
「そうです。緋雨さんはもう大丈夫みたいですしね」
恋華の問いかけに、俊介は笑って頷いた。
緋雨が帰国してからは、登下校を別にしていたが。
その必要はもうないと判断したのだ。
緋雨は海外生活が響いたのか親の教育が行き届いていたのか、以前とは考えられないほど大人になっている。今ならば、恋華に危害を加えることもないだろう。
昨日だってそうだ。遊園地であれほど恋華とイチャイチャしていたのに、緋雨は腹を立てるどころか笑っていた。
もしかしたら、他の妹達より扱いやすくなったかも……とすら俊介は考えていたのだが。
「えーと。ごめんね。私、今日はちょっと用事があって」
「用事……ですか?」
「うん。ちょっと、人と会う約束をしててね。大事な話があるんだ」
「それじゃしょうがないですね。僕は全然大した用もないですし」
と、俊介は大人びた返事をしながらも内心は落胆していた。本当は、久しぶりに恋華と一緒に下校できるかも、とちょっと期待していたのだ。もちろん、そんなことは口が裂けても言わないが。
「それにしても、大事な話ですか。恋華さんにしては、珍しいですね」
「うん。別に男の子じゃなくて、フツーに女の子だから。浮気の心配はしなくていいよ?」
「べ、別に心配はしてないですけど……」
実はしていた。恋華の言うとおり、本当は男と会うのかも? と少しだけ考えていたのだ。何しろ恋華は、偽装恋人になった今でさえ、時々男子生徒から言い寄られているのだから。
「むっふっふ~。俊介君、今ホッとしたな~?」
「しっ、してませんよ!」
「いいよいいよ無理しなくて。そうだね、明日からは、キチンと登下校一緒にしようか。それで許してくれない?」
恋華は、両手を顔の前で合わせ「お願い」のポーズを取った。
「ああ、はい。もうそれでいいですよ。明日からよろしくお願いします」
と、俊介が立ち去ろうとした時。
「ねえ、俊介君」
「はい? なんです?」
「……あのね」
呼び止めた恋華は、気まずそうに視線を落としていた。
「どうしました?」
「ううん。別に何でもないよ」
「何でもないってことないでしょう。そんな神妙な顔をして。何か僕に、言いたいことがあるんじゃないですか?」
「……鋭いね。さすが俊介君」
と、恋華は。
思わせぶりに無言を貫くこと、1分。スーッと息を吸い込むと、意を決したように口を開いた。
「もしも私が死んだら、俊介君は悲しんでくれる?」
「はあ? 何を言ってるんです?」
意外な恋華の言葉に、呆気に取られ俊介は尋ね返した。
……恋華が死ぬ?
いつもあれだけ元気な恋華が?
とはいえ、今日の恋華は少々様子がおかしい。いつものような明るさはなく、まるで死期を悟った病人のような、そんな弱々しさを感じる。
もしかして、本当に……。そう俊介が考えていると、
「なーーーーんてね! ちょっとしたジョークでした~!」
「……は?」
俊介が聞き返すと、恋華は先ほどの憂いなど少しも感じさせない、朗らかな笑みを浮かべるのであった。
「ごめんごめん! ほんとは何でもないんだけど、あんまり俊介君が気を回してくれるからさ~。悪ノリしちゃった! それじゃあ、バイバーイ! 俊介君~~!」
「……あっ、ちょっと!」
俊介は声をかけるが、恋華は俊介に元気よく笑いかけると、教室を走り去るのだった。
「……まったく」
俊介はふうっとため息をついた。
やっぱり、今のはいつものおふざけだったのか。
肩をすくめながら俊介は、教室を出るのだった。




