表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/218

19怖い? いいえ、怖くありません!

 そういうわけで、俊介らはプール場へと入った。

 頂上から巨大なホースがニョロニョロと突き出すウォータースライダーは、下から見るとまるで蛇がとぐろを巻いているようだった。


 なるほど。上の台から落ち、チューブを通って最後は滑り台式に流されるのか。

 俊介が考えながら見つめていると、チューブの先から、


「きゃああああああ! 落ちるーーーっ!」


 ドボン、と二組の男女が悲鳴を上げながらプールに吐き出された。

 どうやらカップルらしい、キラキラと輝くような水しぶきを受けながら、2人は輝くような笑みを浮かべ合っている。


「すっごーい! あんな高い所から滑り落ちたら、気持ちよさそうだなあ」


「それならば、兄君と恋華どので行ってくるとよいでしょう。わたくしめはちと、高いところは苦手でして」


 カップルの様子を見て、恋華は「期待」、緋雨は「恐怖」を感じたようだった。実は俊介も、高い場所はそれほど得意ではないのだが。


 恋華は俊介の腕を引いて、歩き出した。


「さあ。いこっ、俊介君」


「ぼ、僕はやっぱり……恋華さん1人で」


「何言ってるの。1人でやったって楽しくないでしょ」


 恋華はぷくーっと頬を膨らませる。

 その顔を見て、俊介は苦笑しながら言った。


「恋華さんには敵いませんね。どうせ何を言っても行くんでしょう?」


「わかってるじゃん。さっすが、私の恋人だね♪」


 そうこうしてる内に、ウォータースライダーへと続く階段にたどり着いた。

 ――ああ、ここから上がるのか。

 俊介は思った。正面からでは気づかなかったが、ホースの真後ろが階段になっている。それもかなり急な。


 その急な階段を登りきると、女性のスタッフに案内された。俊介がまずチューブの入り口に座ると、そのすぐ後ろに恋華が座る。ウォータースライダーは初めてだったが、こんなに水の流れが猛烈だとは思わなかった。「どうせバカップルの遊びだし」と舐めていたことを早くも後悔する。


 同じ不安があったようで、恋華は俊介の腰にそっと腕を回した。

 そして密着する体。俊介は一瞬ドキリとしたが、すぐに恋華の異変に気づく。


 手が……震えている?

 

 確かに、先頭は怖い。しかし、後ろもまた怖いのだ。何せ前方がほとんど見えないので、文字通り流されるだけなのだ。流れてくる水の量から、もの凄いスピードで落ちることは容易に想像がつく。抱きつきたくなる気持ちも分かるというものだ。


 だから俊介は、体を預けてくる恋華に向けて、そっと囁いた。


「……しっかり、つかまっていてくださいね?」


「……うん」


 と、恋華がか細く返事をしたところで、女性スタッフから声をかけられた。


「それでは、行ってらっしゃいませ~~!」


 背中を押され、体が浮き、一瞬ではあるが地面が消える。

 そしてついに、体が前方へと投げ出された。

 恋華はというと、


「うぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっっ! しゅぅぅーんすけくううううんんんんっっ! しぬっ! しぬしぬー!」


「し、死にませんて! こんなので!」


 俊介は叫ぶが、水が入ってきたので慌てて口を閉じる。しかし、恋華の気持ちも分かる――これは、とんでもない。流れが急に早くなったり、上から水が落ちたり、ぐるぐると螺旋状になったり、楽しむどころではない。


 恋華は俊介の背中に胸を押し付け(・・・・)、悲鳴をあげた。


「溺れ死ぬ! 溺れ死ぬようっ!」


 水の流れもあり、胸の感触がより強く伝わってきた。


「だ、大丈夫ですって! 目を閉じてれば一瞬ですから!」


 俊介がフォローをすると、恋華は「イヤンイヤン」と首を振って、


「それはやあああん! せっかく、俊介君と来てるのにいいい」


「だったら、怖がらないでください! せっかくのデートでしょうが!」


 俊介がそう叫ぶと、恋華は「はぅう~……」と声を漏らした。


「俊介君は、楽しんでるの!?」


「ええ! それなりにね!」


 俊介がそう答えると、それまで恐怖に引きつっていた恋華の顔に、笑顔が戻った。


「…………えへへ♪」


 恋華は小さく笑うと、俊介の肩に頭を寄りかからせた。下腹部は完全に密着し、まるで二人羽織のようにピッタリと重なっている。


「ちょっ、ちょっと恋華さん! そこまでくっつく必要ないでしょう!」


「だあって~。だってだって、怖いんだもーん♪」


 恋華がへらへらと笑う。そのたびに、俊介の背中に当たる体が呼吸で上下する。流れる水のスピード、魅惑の胸、正に天国と地獄である。


「れ、恋華さん! いいかげんに――」


 俊介が怒鳴るのとほぼ同時に、2人は乱暴に水中へと投げ出された。

 バチャバチャと水をかきわけ、顔を出す俊介。


「恋華さん! 悪ノリしすぎですよ!」


 と、いつものようにツッコミを入れるが、肝心の恋華はいつまで経っても水面から出てこない。


「恋華さん! また、そうやって……」


 ふざけないでください。そう言おうとした時だった。

 何秒経っても、恋華は浮かび上がってこない。

 冗談やふざけ半分でこんなことはしないはずだ。

 俊介が危機感を感じていた時。


「ぶはあー」


 恋華は突然、モグラのように水の中から顔を出した。


「あはは、俊介君心配しすぎぃー。そんな血相変えちゃってー。な・ん・な・ら。人工呼吸でもするー? ほらほら~」


 と、恋華はひょっとこのように唇をんーっと突き出している。さっきまであんなに怖がっていたというのに、現金なものだ。もうすっかりいつもの恋華に戻っている。


「ああ、はいはい。大事がなくて、何よりですね」


 俊介は恋華の絡みを受け流しながら、横目に恋華の姿を見た。

 水滴に濡れてつやつやとしたその健康的な肢体は、刺激的なほどセクシーである。

 さらに、胸の谷間から水が流れていく様には――目が釘付けになってしまった。


「俊介君、楽しかったね!」


「え、ええ……。そうですね」


 俊介がそう答えると、恋華はニッコリと満面の笑みを浮かべるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です! [一言] >感想の仕様が変わり、各話に書き込めるようになりましたね。 複数話に跨がる感想書けるのはいいですが、どうせなら目次や各話からも感想閲覧出来るようにして欲しかっ…
2019/11/07 18:33 退会済み
管理
[気になる点] >「恋華さんには適いませんね。どうせ何を言っても行くんでしょう?」 叶うは願い事が実現すること。 敵うは、敵わないと書くことが多く、そうすることができない、不可能であること。対抗でき…
2019/11/07 12:48 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ