11逃げる? いいえ、逃げません!
時を同じくして。
「申し訳ありません。今日もつき合わせてしまって」
「なんのなんの。水臭い水臭い」
和姫の謝罪を、瀬戸内恋華は快く受け止めた。
「VS緋雨連合軍」を結成した2人は、もっぱら放課後は喫茶「ブルーアップル」に集まることにしていた。和姫にとっては恋華は強力なライバルだが、今最も危険なのは緋雨の方だ。
いわば2人は、ひと時の同盟を結んだ敵同士ということになる。
「そうは参りません。こちらの都合でお付き合い頂いてるのですから。こういう所はキチンとしませんと」
「どうも礼儀正しすぎるなあ、和姫ちゃんは」
恋華は、フルーツや生クリームの乗ったパンケーキを食べながら、笑った。以前は気を遣って食べなかったものだ。和姫の前には抹茶のぜんざいが置かれている。和姫も、少しは自分に心を開いてくれたのかもしれない、と恋華は感じていた。
「それよりも。作戦会議の続きをしましょうか。とうとう緋雨が昨日、我が家に帰ってきてしまいました。これについて、どう思われますか?」
遊びに来てるわけではないとばかりに、キリッと表情を引き締めながら和姫は尋ねた。一方の恋華はスプーンを口にくわえブラブラさせながら、
「うーん。私からはなんとも。でも多分、緋雨ちゃんは俊介君に恋人が出来てないかとか、色々調べるんじゃないかなあ」
「わたくしもそう思いますわ」
そう答えると、和姫は昨日起こった出来事を話した。
緋雨が俊介の前で、「謝罪」と称してリストカットをしたこと。そしてその日の妹会議で、明日から毎日俊介の登下校中の護衛を申し出たこと。
「そしておそらく、緋雨はあなたの存在に、薄々感づいております」
「へ? どうして?」
「昨日ましろが、うっかりあなたの名前を口走ってしまったのですわ。千本桜高校で瀬戸内恋華といえば、有名人です。少し調べればすぐ分かることでしょう」
パンケーキを食べる恋華の手が、止まった。
そして、和姫の顔をじっと見つめ、
「でもさ。緋雨ちゃんも長い外国暮らしで、ちょっとはまともになったんでしょ? そうじゃなかったら、ご両親だって日本に帰さないんじゃない?」
「……だと、いいのですが」
和姫は曖昧な態度で返事をすると、
「正直申し上げると、お兄様の前での緋雨は演技している可能性が高いです。本性は、1年前と何ら変わっていないのではないかと」
「それは、和姫ちゃんの想像でしょ? 反省したかもしれないじゃん」
「どちらにしても」
そこで和姫は言葉を区切ると、
「緋雨があなたの存在に、気づき始めてるのは事実ですわ。いえ、もう気づいているのかも」
「……だね」
「緋雨がもし昔と何も変わっていなかったとしたら、あなたは無事では済みませんわ。覚悟の方は出来ておりますか?」
何故和姫がこんなことを尋ねたのか。
1度恋華と2人で話した時、全く同じ事を聞いたことがある。その時の恋華の返事は「No」だった。そして、2人は協定を結んだのだった。
しかし、事態は急速に動きつつある。少しでもうかつな行動を取れば、背後から緋雨に刺される可能性も十分ありえる。
しかし今、恋華はその時と全く同じ表情で、同じことを言った。
「もちろんだよ。私は逃げない。緋雨ちゃんが何かしてくるなら、堂々と受けて立つから」




